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舞台へ立つ

夜になった。

やはり真司と同じようにシャッターが閉まり始めた頃、博正はやって来た。

美沙は、ぐったりと疲れきった様子を見せて、そこに座っていた。

博正が入って来たとたん、皆が鋭い視線を博正に向けたが、美沙はぼーっとおぼろげな様子で見ただけだった。

光だけは、気遣わしげだ。

人狼陣営になる、光にしたらそうだろう。

翔が、言った。

「オレは、オレ達は、お前に入れる。」翔の目は、憎しみに燃えていた。「いろんな人を傷付けて、騙して生き残って来た事を、少しは反省しろ。それから、最後に美沙ちゃんには謝れ。ここまでずっと、お前を信じていたんだぞ。」

博正は、フフンと笑った。

「これは、ゲームだ。オレは謝らないよ。自分が生き残るのに、オレを心から信じてくれた美沙は、都合が良かっただけだ。」

そこで、テレビが着いた。

『10秒前です。』

皆が、腕輪を構える。美沙は、わざと構えなかった。美沙に一番近い麻美が、ソっと腕を伸ばして美沙の腕を机に乗せた。

『投票して下さい。』

みんな、一斉に番号を打ち込んだ。

美沙はまだ、動かない。

じっと焦点の定まらない目で博正を見つめ続ける。麻美が、身を乗り出して美沙の手を掴んだ。

「美沙、ダメだよ!投票しなきゃ!」

麻美の手が美沙の指を持ち、いつか綾香が伸吾にしたように、美沙の腕輪に数字を打ち込み始める。美沙は、されるがままになっていた。

だが、心の中では思っていた…必ず助ける。博正、私はやるからね。

『投票終了しました。結果です。』

大きく、6が表示されていた。

それを見た博正は、黙ってフッと笑った。

「終わりだな。」

翔が言う。博正は、言った。

「…いいことを教えてやろう。」

そこで、テレビの声が割り込む。

『№6を追放致します。』

「最後にヒントをやろう。せめてもの罪ほろぼしだ。オレはラストウルフじゃないぞ?」照明が消えた。それでも暗闇の中、博正の声が続ける。「オレが誰と一番一緒に居たのか、考えたらいい。」

ガチャン、と金属音がする。

照明が着いた時には、博正はもう、居なかった。



翔が、言った。

「どういうことだ…」そして、パニックになったような表情で、叫んだ。「どういうことだよ!」

テレビの声が、無表情に告げた。

『№6は、追放されました。ゲーム終了時に勝利陣営の側ならば、戻って来ることが出来ます。それでは、これから夜に備えてください。』

「まだ残ってるんだわ!」亜里沙が、半狂乱で叫んだ。「この中に居るのよ!」

美沙は、どうして博正があんなことを言って行ったのか、分かった。

博正はひとつも嘘は言っていない。

人狼はまだ残っている。そして、ここへ来てから美沙はずっと博正と夜、一緒に居た。だが公に一緒に居たのは、美鈴と、麻美…。

「え…」美沙は、みんなを見回した。「光は、狂人だから…まさか…まさか…」

美沙は、翔、亜里沙、麻美、梓を見て脅えたように身を離した。

一番近くの麻美が、慌てて言った。

「違うわ!美沙、信じて!私は人狼じゃない!」

翔が、ハッとしたように言った。

「博正と一番一緒に居たのは、お前じゃないのか、麻美?」

麻美は、大きく首を振った。

「違うわ!本当に私は人狼じゃない!ただ美鈴が博正くんを好きだったから…とっても親切だったから、側に居ただけ!美沙の方が、側に居たじゃない!」

美沙は、更に脅えて麻美を見た。

「そんな…!私は何も知らなかったわ…。」

翔は、首を振った。

「美沙ちゃんには…今回はあんまり、博正は近寄ってなかった。学校では、あれだけ側に居るのに。まるで避けてるようにも見えた。それは、仲間じゃなかったからじゃないのか?」

美沙は、わっと泣き伏した。もう今夜はここには居るべきではないと思ったからだ。

思った通り、亜里沙が優しく言った。

「もう、今夜は無理よ。美沙ちゃんにこれ以上負担を掛けないでおきましょう。まだ、明日があるんだから…。」と、美沙の顔を覗き込んだ。「さあ、部屋へ帰ろう?ここに居ちゃいけないわ。」

美沙は、手で顔を覆ったまま頷くと、よろよろと立ち上がって、亜里沙に付き添われてそこを出た。

部屋から伺っていると、それから程なくして皆、部屋へと戻ったようだ。

美沙は、涙を拭いて、腫れてしまった目をしっかりと開いた。

今夜…私は、一人。

一人で、翔を襲撃する。

全てを終わらせるために。


次の日の朝、残った4人は翔の変わり果てた姿を発見した。

覚悟はしていたのか、いつものジャージ姿ではなく、きちんと服に着替えてベッドカバーの上に横たわっていた。

一見して眠っているだけのようだが、首の噛み傷と大量の出血がそうではないことを物語っていた。

もはや誰も何も言うことも出来ずに、翔に真新しいシーツを掛けてやって、その部屋を後にした。

美沙だけがいくら待っても出て来ないので、亜里沙が部屋の鍵も掛けずにボーっとしていた美沙を、なだめて階下へ連れて来た。

だが、今の美沙はとても話し合いなど出来るような状態ではないのは、他の四人から見ても明らかだった。

一階の部屋へ無言で集まって、しばらくじっと黙っていた四人だったが、梓が、おずおずと言った。

「昨日、翔は麻美を疑っていたよね…?あのまま、吊られる勢いだった。」

亜里沙が、顔を上げる。

「うん。私はあの後すぐに部屋へ帰っちゃったけど…。」

「私は人狼じゃないわ。」麻美が、懇願するような顔で言った。「確かに翔は私を疑っていたけど…それで襲撃するなんて、自分が人狼だって言ってるようなものじゃない。」

梓は、麻美から視線を反らした。

「でも…もう余裕はないはずよ。だって、人狼は一匹になってしまってるもの。疑われたら、殺してしまわないといけないでしょう。」と光を見た。「狂人でも光は村人としてカウントされるわ。今は人狼一匹に村人四人の状態なのよ。もしも光を自分の側に引き込めたとしても、たったの二票。村人の三票にはまだ、敵わないわ。人狼はどうしても、今夜を乗り越えなきゃならないのよ。だったら翔は居ない方がいいに決まっているもの。」

じっと聞いていた光は、もう観念したように両手を上げた。

「もう、オレには何が何やらだ。本当に、誰が人狼なのか分からないんだよ。もし今、村人に自分が人狼だってカミングアウトされても、オレは知らずに同調するだろうね。白状すると、最初から真司さんが怪しいと思ってたんだ…妙に落ち着いているし、慣れた感じに見えて。だから、オレは真司さんに白出しして様子を伺った。案の定、オレは襲撃されなかった。ずっとね。オレを庇う発言もしてくれた。だから、オレの中では真司さんが人狼確定していたんだよ。でも…」と、真司が残したメモを手に、じっと考えた。「投票履歴を見ても、全く分からない。人狼は人狼に投票しないと思っていたけど、それを逆手に取ってどこかで投票してたのかもしれないな。だから、オレが人狼陣営だから何も言わないと思ってるかもしれないけど、違う。オレにだって誰が人狼なのか、もうわからないんだ。」

それでいい。

美沙は、ショック症状を演じながら、心の中で思っていた。

変に気取られて、美沙を庇われても困る。光は狂人なのだ。それを、皆に知られているのだ。そんな人に庇われでもしたら、今までの苦労が水の泡になる。

亜里沙が言った。

「悪いけど、もう麻美ちゃんしか怪しい人はいないわ。梓ちゃんは結構詳しく考えているし、美沙ちゃんは…」と、まだ呆けた様子でぼーっと視線が定まらない美沙に目をやって、言った。「こんな様子だもの。人狼だったら、ここまでショックは受けないわよ。仲間だものね。」

麻美は首を振った。

「でも、梓は?!」麻美は言った。「今まで何も発言しなかったくせに、こうなっていきなりたくさん話すようになるなんて、おかしいわよ!私になすりつけようとしてるのよ!」

それには、梓が反論した。

「こんなに人数が少なくなったのに、話をしなかったら進まないじゃないの!あなたこそ、自分が疑われたからって、私になすりつけないで!」

光が、本当に分からないらしく、肩をすくめてもう降参だとばかりに天井を見た。

そこで、美沙はたどたどしく、いかにもやっと発言しています、という風に言った。

「でも…じゃあ博正はどうして、いつも麻美と一緒だったの…?私が近寄ろうとしても、一緒に居てくれなかった。見たら、いつも麻美と美鈴と一緒に居て…。」

亜里沙が、不憫だという風に美沙を見てその背を擦った。

「確かにそうね。博正くんは、最後にきっと美沙ちゃんに悪いと思ったんでしょう。それで、あんなことを言って追放されて行ったのよ。それを無駄にしちゃいけないわ。」

麻美は、立ち上がった。

「どうしてそうなるの?!私は村人だって言ってるじゃない!違うわ!」

そんな麻美をみんなが黙って見返した。

どうにもならない、吊られる。

麻美は、直感した。

「…だったら、吊ればいいじゃない!それでも人狼は残るわよ!私は村人だもの!」

そう叫ぶと、麻美はそこを駆け出して行った。

決まったな。

美沙は、心の中でニタリと笑った。

博正が言った通りに、麻美は今夜吊られるはずだ。

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