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覚悟

一時間ほど経った後、二人で抱き合って天井を見ながらぼーっと時を過ごしていると、博正が急に、言った。

「美沙、オレは今日吊られる。」

美沙は、驚いて博正を見上げた。博正はまだ天井を見ていたが、美沙の視線を感じてそちらを見た。

「オレは、人狼は残り二人だと言っていただろう。大樹を吊ってあと一人のはずが、真司を吊ったのに、ゲームは終わらなかった。つまりは、まだ人狼が残っているこということだ。真司は、真占い師があそこまでして残した占い結果の相手。真司が人狼だったことは、冷静に考えたら分かることだ。今頃、翔は思ってる…明日、オレが何を言っても吊ってやろうと。」

美沙は、真司の胸に置いた手をぐっと握り締めて叫んだ。

「そんな!まだ何か言えるはずよ…!麻美と美鈴が居るじゃない。光だって居る。人狼だって光に打ち明けて、私と一緒に票を集中させたら…!」

博正は、首を振った。

「駄目だよ。恐らくもう、少なくても麻美はオレに投票するだろう。誰だって死にたくはない。オレに心酔してるのは、美鈴なんだ。その美鈴も、最近は美沙との仲を勘繰って、オレに迫って来るようになって距離を置いてたんだ。だからオレに投票するかもしれない。そうでなくても、あいつは美沙に投票する可能性がある。これ以上、オレを庇ったらいくら美沙でもみんなに疑われる。オレが居たら人狼陣営にとっていいことは無い。」博正は、美沙の両肩を掴んだ。「美沙、オレを罵倒するんだ。明日、みんなの前で。オレが人狼だったなんて、騙された、信じてたのにって、泣きながら叫べ。そうして、みんなと一緒にオレを吊るんだ。そうしたら、もう誰も君を疑わない。次の日、麻美を吊れ。あいつは、オレにずっとついていた。みんなを説得することが出来るはずだ。」

美沙は、もう涙を流しながら言った。

「でも…それじゃあ美鈴はどうするの?」

「今夜、美鈴を()る。」博正は、鋭い目で言った。「あれを残して行ったら、美沙の障害になる。明日は、翔を噛め。出来るな?」

「でも…でも、博正が…。」

博正は、美沙を強い視線で見た。

「強くなるんだ、美沙。昨日言ったじゃないか、オレ達は戻って来れる。無傷でね。君が、生き残ってくれさえしたら。心配ない、光が残る。あいつは狂人でも、白だから縄の数から言って、吊ってる余裕がないから避けられるんだ。光をうまく説得して自分が人狼だって信じさせたら、君は勝てる。生き残るんだ、オレ達のために。」

美沙は、覚悟をして強くひとつ、頷いた。

そうして、二人は服を着ないままに腕輪を見て、それに18、と入力した。

その日、二人は美鈴を襲撃し、そうして村人は、四人になった。


麻美の悲鳴が聞こえる。

美沙は、まんじりともせずに起きていた。

明け方、博正がここを出て行くのを、泣きながら見送った。

これから、自分は一世一代の演技をしなければならない。

美鈴が襲撃されたのに驚き、博正を嫌悪の表情で見て、みんなの前で、罵倒する。

それが、どんなにつらいことでも、やり遂げなければ、二人には、真司にも、未来がない。

美沙は、ぐっと唇を引き結ぶと、部屋の戸のノブを回し、そうして今気付いたかのように、勢いよく部屋を飛び出して行った。


そこには、翔も到着していた。博正は、まだ出て来ていない。

美沙は、駆けつけて、言った。

「美鈴…!どうして?おとなしくしていて、誰のことも攻撃していなかったのに…!」

美沙が言うと、翔は振り返って無表情に言った。

「一番、害が無かったからかもしれないな。人狼っぽくないから、誰にも疑われないだろうって。紛れようと思ったら、そういう村人は殺す方がいい。」

すると、そこに博正がやって来た。

翔が、ぐっと眉を寄せて険しい顔をする。

博正は、言った。

「今朝は、美鈴だったのか?」

翔は、博正に向き合った。

「知ってたんじゃないのか?」

博正は、首をかしげた。

「なんでだ?オレは今出て来たばっかだぞ。」

翔は、博正に詰め寄った。

「白々しいぞ!分かってるんだ、武が間違ったって言っても無駄だぞ!オレは、昨日の夜ずっと考えたんだ。大樹は、あの時人狼は三人残ってるって言っていた。なのにお前は二人だと言った。それで、大樹を吊ったから残ったのは一人のはずだ。それを、真占い師が突き止めて、ああして残して逝ってくれた。それなのに、吊った後もゲームは終わらなかった。つまり、まだ人狼は残ってる。霊能者を騙った、お前以外に誰が居るんだよ!」

美沙は、驚いた顔を作って博正を見た。博正は、息をふーっと吐くと、呆れたように翔を見た。

「だから、きっと武は間違ったんだと思うけど。オレが人狼だって、お前は思うんだな?」

明らかに、苦しい言い訳だし、それに誰も納得しない言い方だった。

美沙は、これ見よがしに前に出て、叫んだ。

「どういうこと?!博正、ずっと私に霊能者だって言ってたじゃないの!ずっと騙してたのね!酷いわ…美鈴までこんなことに!ずっと、ずっと仲良くしていたんじゃなかったの?!どうしてこんなことが出来るのよ!信じられない!」

気持ちを張り詰めていたので、自然と涙が溢れて来る。

博正は、フッと寂しげに笑った。

美沙は、それを見て心が痛んだ…言い過ぎたのかしら…。でも、こうするしか…。

「美沙にも、信じてもらえないんだな。」博正は、踵を返した。「ま、いいや。ところで美鈴だけど、勝手にオレに付きまとってただけだぜ?オレは、迷惑してたんだ。美沙も、オレを信じられないような女は、もう要らないよ。目障りだ。」

博正は、自分の部屋へと向かって行き、扉を開くと、音を立てて閉めた。

「酷い…!!」

美沙は、その場に泣き崩れる。

亜里沙が寄って来て、その肩を抱いた。

「美沙…。さあ、こっちへ。何か飲もう?落ち着かないと。」

美沙は頷いて、亜里沙に縋って歩き出した。

そうやって歩きながら、こうして精一杯裏切られた女を演じることで、博正と真司が助かるのならと、必死に涙を流し続けたのだった。


昼を過ぎ、夕方近くなっても、美沙はまだ、泣いていた。これからを思うと、自然涙が出た。

もう、肩を抱いて助けてくれる人は居ない。

自分は、人狼として皆を騙し、生き残らなければならない…。

「美沙…気持ちは分かるけど。でも、生き残るためには、立ち直って頑張って投票しなきゃならないよ。」

亜里沙が、優しく言った。美沙は、憔悴仕切った顔を上げた。

「もう、生きてても仕方がないわ。ここに居るみんなで、今夜は博正を吊って。私は、投票しないで博正と一緒に行くわ。これまで信じて何人も吊って来てしまったんだもの…みんな、村人だったのに。博正が、人狼だなんて思えなくて。」

すると翔が、同情したように言った。

「それはみんな一緒だよ。美沙ちゃん、頑張って生きよう。勝ったら、生きて帰れるんだから。吊ってしまった子達も、きっと戻って来るから。きちんと投票しなきゃ。」

「でも、博正は…?吊られてしまって、人狼だったら戻って来れないのじゃない…?」

美沙がまた涙を流してそう言うと、翔と亜里沙は顔を見合わせた。

そして、亜里沙の方が言った。

「美沙ちゃん…大丈夫、きっとみんな戻って来れるのよ。そうして、今度のことをみんなで話すことが出来るわ。きっと…美沙ちゃんが生き残りさえしたら。だから、今夜の投票はしなきゃ。」

美沙は、考え込むような顔をしながら、ゆっくりと頷いた。

もちろん、投票はする。

今夜、博正を吊って、そして翔を噛む。

次の日麻美を吊って…。

美沙は、心の中で繰り返していた。

絶対に、絶対に私は勝つ。

そのために、今夜は博正に投票する。

亜里沙や翔、梓に気遣われながら、美沙の脳裏にはもう、次の局面が過ぎっていた。

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