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霊能者

美沙は8時ぎりぎりになってから、リビングへと降りて行った。

そこには、もうみんな椅子に座って並んでいた。

幾つかの椅子が、まるで虫食いのように抜けていた。

ほずみの椅子も、綾香の椅子も、いつの間にかもう、ここには無かった。

美沙が椅子に座ると、真司が言った。

「寂しくなったな。最初は、全て埋まっていたのに。」

本当に悲しげに、真司は言う。

本当ならお芝居だと思うところだが、きっと真司の言葉は、真実だろう。

真司は、自分の体のためにここへ来た。

人狼になることを、自ら望んだわけでもない。

だからこそ、真司の言葉には、真実味があった。

翔が、言った。

「あのさ…さっきのことなんだけど。」翔は、大樹の方を見た。「オレ、博正が言ってることが本当だと思う。でも、大樹さんも嘘を言ってるように思えないんだ。」

美沙は、ためらいがちに言った。

「あの、人狼がまだ、三人残っているってこと?」

翔は、頷いた。

「うん。だって、ありえないことじゃないだろう?確かに三人もまだ残っていたら、村人は7人しか居ないってことだから、これから絶対吊り縄無駄に使えないけど…。」

真司は、ため息をついた。

「でも、まだ三人も残ってるって思えないんだ。これまで、吊ったのは確かに二人だけど、京介と伸吾もイレギュラーで亡くなってるし。」

武が、言った。

「…オレは今、真司さんを信用出来てないからなんとも言えないんだが。何しろ、光が白出ししてるんだからな。」

光が、ぷうと頬を膨らませた。

「だから、適当に言ったって言ってるのに。ま、別にオレはどっちでもいいけど。今夜占うんでしょ?」

武は、頷いた。

「そのつもりだけどね。噛まれるかもしれないだろう。」

博正が、武を見た。

「今まで生きてたのに?」

武は、ふんと鼻を鳴らした。

「多分呪殺を待ってたんじゃないか。人狼は狐を噛めないからな。呪殺が出来た今、もうオレは用無しだろう。」

「じゃあ、武さんが噛まれても、真司さんのせいじゃないですね。だって、そういう時期だったんですもの。」

なぜか麻美が積極的に言う。

博正が、頷いた。

「そういうことだな。気付かなかったが、武が今教えてくれた。」

武は、顔をしかめて黙った。余計なことを言った、と思ったようだ。

大樹が言った。

「オレは、本当に霊媒師なんだ。本当は黙っていたかった。こうして吊られることが分かっていたからだ。でも、残りの人狼の数を知っておかないと、大変だと思った。まだ三人残ってるんだからな。信じて欲しい。」

博正が、大袈裟にため息をついて見せた。

「オレから見たら、残っている人狼の、片方が大樹さんなんだよな。だって、わざわざ霊媒師騙って出て来たんだから。だから、オレとしてはオレを吊ってくれてもいいから、大樹さんを吊ってくれってこと。村人が生き残ってくれたら、オレも復活して来れるって信じてる。」

美鈴が、悲鳴にも近い声で言った。

「そんな必要ないわ。だって、最初から役職持ってるって博正くんは私達には言ってくれてたんだもの!」

博正は、困ったように美鈴を見た。

「いいんだよ。君たちが勝ってくれたらいいんだからさ。あくまで、村人陣営の勝利が目的なんだ。」

美沙は、胸が痛くなった。博正を、吊るなんて出来ない…本当に出来ない。

翔が頭を抱えた。

「オレには分からない!本当に分からないんだ。」と、博正を見た。「ごめん…博正。」

博正は、苦笑した。

「いいって。お前はお前が思うように投票しろ。」

武が、言った。

「じゃあ、今日は大樹か博正のどちらかに投票しよう。みんな、時間までしっかり考えてくれ。8時50分に、もう一度集合。一旦解散。」

真司が、黙って立ち上がってキッチンの方へ行く。美沙は、居ても立っても居られなくて、博正を見た。

「博正…こんなことって。本物なのに、吊られるかもしれないのよ?」

こんな時に、本当のことが言えないなんて。

美沙は思ったが、博正は笑った。

「いいって。その代わり勝ち残ってくれよ、美沙。必ずオレを、助けてくれ。」

そう言うと、博正はキッチンの方へと歩いて行く。

美鈴と麻美が、その後を追って歩いて行った。

美沙は、そこに取り残されて、途方に暮れた。


きっちり50分になると、みんな椅子へと座った。じっと黙っている…それぞれ、投票先を決めてあるのだろう。

美沙は、じっと考えていた。

博正は、多分とても有利だ。

真司と美沙、それに美鈴と麻美の票は確実に大樹の方へと入るだろうからだ。

光は恐らく、真司に準じるので、大樹に入れるだろう。

もちろん、博正自身の票も、大樹に入る。

これで6票。

仮に残りの亜里沙と梓が博正に入れたとしても、一票差で博正は吊られないだろう。

そう、思いたかった。

本当は光が、とち狂って博正に入れたら、それで終わりだ。

狂人だとバレた今も、真司に準じようと思っているかも分からないのだ。

美沙の動悸は、今までにないほど早くなった。

きっと、こんな人殺しの私達の願いなど聞き届けてくれないだろうけれどと、美沙は神様に心の底で祈っていた。

シャッターが、閉まり始めた。

投票、5分前だ。

みんな、おもむろに腕輪に向かう。もう、慣れたものだった。

『10秒前。』

テレビが、パッと着く。カウントダウンが始まる。

大樹の番号は3…3…。

『投票してください。』

みんな、ぱっぱと投票して行く。

一分の時間がある…翔だけが、苦悶の表情を浮かべていた。

『10秒前。』

翔は、ぎりぎりまで悩んだ末に、番号を打ち込んだ。

『終了です。』

またお決まりの、数字と矢印が現れる。

その横に大きく表示されていたのは、3。大樹の番号だった。

「え…?待ってくれ、オレは…!」

『№3を追放します。』

声は、無情に響いた。

そして、照明が落ち、重い金属音が響き、大樹の声が響いた。

「待て、オレは違う…!」

声は、突然に途絶えた。

恐らく、床板が閉じて聴こえなくなったのだろう。照明が、何事も無かったかのように灯った。

急いで博正の方を見ると、博正はそこで微笑んで座っていた。

「良かった…!」

美沙は、思わず涙を浮かべた。すると梓が、席を立って歩いて来て、美沙の肩にぽんと手を置いた。

「良かったね。」

美沙は、頷いた。

「うん、ありがとう…。」

テレビ画面を見ると、博正の圧勝だった。

翔、大樹、武が博正に、博正、真司、美沙、美鈴、麻美、光、梓、亜里沙が大樹に投票していたのだ。

「それでも、一人居なくなったのは確かだ。」武が、険しい顔で言った。「人狼だったらいいが、それでもまだ、一人残ってるってことになる。みんな、重々注意して過ごそう。確実に、まだ人狼は居るんだ。」

そう言われて、皆の表情が引き締まった。

夜時間が、また始まるのだ。

今夜は、あなたに消えてもらう…。

美沙は、武の背中を見送りながら、そう決心していた。

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