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美沙は、朝日の中で目が覚めた。

ハッとして身を起こすと、自分はきっちりと寝る時用のジャージに着替えて、布団を着て眠っていた。

時計を見ると、もう朝の8時を回っていた。

ここへ来てこんなにぐっすり寝てしまっていたのに驚いて、慌てて顔を洗って服を着替える。

そう言えば、私は昨日、人狼になった…考えがまとまらなくて、あまりよく思い出せないが、それでもあの映像だけはくっきりと頭に残っている。

そうしてあの、鮮血の臭い…。

でもあの後、気を失ってしまったはず…。

美沙は、記憶を必死に呼び覚ましながら、階下へと降りて行ったのだった。


「おはよう。」

美沙は、そう言いながら目を擦り、居間の戸を開いた。みんなの目が、刺すように自分へと一斉に向けられるのを感じて、びっくりしてみんなを見返した。

「え…え…どうしたの?すっかり眠り込んでしまってて…私、遅かったかな。」

人狼とバレた訳ではないはず。

美沙が思ってみんなを見回して入って行きながら言うと、大樹が、ため息をついた。

「…ほずみちゃんと、綾香さんと光がまだ降りて来ないんだ。」

美沙は、演技をしなければ、と顔を曇らせた。

「え…もしかして、襲撃?」

すると、武が頷いた。

「もう狩人は居ないのかもしれない。ほずみは共有者だっただろう。もしかして…。」

美沙は、心配そうな顔をしながら、言った。

「まだ分からないじゃない。綾香さんも…いつもよく眠る人だから、きっと寝てるんだと思うわ。」

すると、そこへ光が入って来て、言った。

「おはよう~。あれ?どうしたの?」

美沙が、悲しげな顔で答えた。

「ほずみと綾香さんが、まだ起きて来ないって。」

光は肩をすくめた。

「そんなの。綾香さんは、いっつもよく寝てるじゃないか。寝坊だよ。」

しかし、武は立ち上がった。

「いや、オレは確認したいことがある。」と、みんなを見た。「みんなも来てくれ。一緒に確認して欲しい。」

何事だろうと、皆は顔を見合わせる。

真司が、少し険しい顔をした。

それでも、皆は立ち上がって、二階へとぞろぞろと歩いて上がって行った。


二階に到着すると、まず武はほずみの部屋へと向かった。扉の、鍵は掛かっていない。

扉を開いて、すぐに分かった。

物凄い血の臭いがする…。

「ひ…っ!ほずみ!!」

梓が、叫んでいる。だが、中へ入って行く勇気がないらしい。

確かに、下には足の踏み場もないくらいに細かい血の飛沫が散っていた。

そして、そこには獣の足跡らしいものが、血飛沫を踏んだのだろう、点々と残されていた。

「かなり大きな足跡だわ…。」

美鈴が、呟くように言う。

もはや、惨殺死体を見ても、涙も出ないらしい。

「やはりな。じゃあ、こっちだ。」

武が、言って更に奥へと廊下を歩く。綾香の部屋へと向かっているようだった。

「綾香さん、寝てるんじゃないか?」

翔が、武に言う。武は、首を振った。

「いいや、きっと違う。オレは、昨日綾香さんを占った。もしも狐だったら、呪殺されてるはずだ。」

光が、小さく息を飲んだのが、すぐ前を歩いていた美沙には聴こえた。もしもこれが呪殺だったら…光は、破綻することになる。

真司は、何も言わずに後をついて歩いていた。博正も、無表情で歩いている。

そして、武は綾香の部屋のドアノブに手を掛けた。

「…鍵が掛かってない。」

武が、皆に報告する。

そして、室内へと入った。

一瞬、寝ているのだと思った。

それほど、綾香は普通に布団にくるまり、じっと目を閉じていたのだ。

しかしその唇には色が無く、胸も上下しなかった。近寄って行った翔が恐る恐るその手を掴んでじっと脈を探っていたが、首を振った。

「息もしてないし、脈も感じられない。死んでるよ。」

後ろから、恵が死んでから抜け殻のようになっていた亜里沙が、言った。

「…まるで眠ってるみたい…とっても楽に死ねたのね。私も、狐なら良かった。」

美沙は、その言葉の音の嘘の無さに、寒気がした。

亜里沙も、ここ数日の極限状態に、病んで来ているのかもしれない。

確かに、自分の病んでいるのだ。

狼として、血の臭いに酔うほど興奮し、体の軽さに歓喜の感情を持ち、人が死ぬのを目の前で見ても、何も感じなかった…。

武が、くるりと振り返った。

「これで、証明された。オレが、真占い師だ。お前は偽者。だが光、お前は白だった。つまりは人狼じゃない。狂人だ。これからみんなで話し合って、お前をどうするか決めなきゃな。」

光は、一瞬険しい顔をしたが、肩をすくめた。

「別に、オレはやるべきことをしたまでだ。別にオレを吊ったっていいよ。勝利陣営に居れば、オレは助かるからね。」

光は、観念した。

一切の、言い訳をしなかった。

それはそうだろう、どうしようもないのだ。

何を言っても、信じてはもらえない。

それに、光は人を殺したわけではない。

ただ、人狼の力になろうとしていただけで、人狼が誰かも知らないのだ。

みんなが睨む中、光は涼しい顔で一階へと降りて行った。


その日の話し合いは、光への一方的な攻撃だった。

武と大樹が、光を前に、怒鳴らんばかりの勢いでまくし立てていた。

「お前が、騙してたんだな!それで、人狼は誰だ?!知ってるんだろう!」

光は、呆れたように天井を仰いだ。

「知ってるはずないじゃないか。オレは夜も外へ出られない普通の村人と同じなんだよ?みんなが話してるのを見て、誰が人狼なのか同じように推理するだけさ。でも、みんなと同じで分からないから、とにかくかく乱することしか考えてなかった。適当に考えてね。」

大樹が、じっと光を睨んでから、ちらと真司を見た。

「お前は、真司に白出しした。真司が人狼だって思ったから庇ったんじゃないのか?」

光は、首を振った。

「違うよ、適当に言っただけ。別に黒でも良かったけど、共有者が潜伏してる時だったし、安易に黒なんて言えなかった。」

「嘘つけ!人狼を庇ったんだろうが!」

武が言う。光は、武を睨んだ。

「そう思うんなら、占ってみたらいいじゃないか。オレに聞くのは間違いだ。オレはあくまで、適当にしてただけだよ。みんなと同じ。人狼が誰かなんて、分からないんだ。分かるのは、占い師が占った時だけだろう?」

武は、唸った。確かに、その通りだ。狂人には、人狼が分からない。向こうから接触していたらこの限りではないが、そんなリスクを伴うことを、人狼がするとは思えない…。

「くそ!」武が言った。「こいつに聞けばあと何人人狼が残ってるか分かると思ったのに。」

すると、フッと鼻で息をついた大樹が、言った。

「…三人。」みんなが、驚いて大樹を見る。大樹は、今度ははーっと長い息を吐いた。「こりゃ噛まれるな。でも、教えといてやらねぇと。オレは、霊能者だ。今まで、一度も人狼を吊れていない。みんな白。だから残ってるのは三人だ。それとそこの狂人だろう。だから、この中のうち三人は人狼なんだよ。」

みんなが、ぞっとしたような顔をして、自分以外の皆の顔を代わる代わる見た。すると、博正が言った。

「違う。人狼は今二匹だ。一匹は、初日に吊った杏子。お前が人狼か、大樹。道理でよく話すはずだよ。」

美沙は、びっくりして博正を見た。

「え…博正、霊能者…?」

騙るの?今?

美沙はそう言いたかったが、博正は苦笑した。

「そう。ごめんな、美沙。いくらなんでも、こんなことまで言えないから黙ってたんだ。霊能者って、出ると吊られるからね。」

すると、美鈴が言った。

「やっぱり!博正くんは、ずっと役職は言えないけど、ちゃんと毎日チェックしてるからって言ってたんです!占い師でもなかったし、霊能者しかないなって、麻美とも話してたの!今思いつきで言ったんじゃありません!」

真司が、追い討ちを掛けた。

「そうか、博正…。確かにな。いくらなんでも、人狼がこの時点で三人も生き残ってるなんて、おかしいと思ったんだ。」と、大樹を見た。「お前が人狼だったのか。」

大樹は、首を振った。

「違う!それを言うなら、博正の方が人狼だ!オレが出たから、消そうとしてあんなことを言ってるんだ!」

「別に、オレは仕方ないかと思ってる。」博正が、大樹に言った。「霊能者は、二人以上出たらローラー(全部吊る)されるだろう。村人陣営が勝つためだ、お前を今日吊って、明日オレ。それでも構わない。」

美沙は、胸をぐっと掴まれたような気がした。

博正を吊る…いくら自分たちが勝ったら助かるとはいえ、一時でもそんなわけの分からない場所へ送るなんて、私には出来ない。

「もういいよ、分かった。」翔が、割って入った。「とにかく、夜までに考えよう。まだ時間があるんだ。起きてまだ、朝ごはんも食べてない人も居るんだから、後は夜の会合にしよう。」

翔に取り成されて、みんなは疲れ切った様子でバラバラと思い思いの方向へ解散した。

博正には、美鈴と麻美が駆け寄って行く。

美沙は自分も心配で話したかったが、それ以上は側に居たらいけないと思い、キッチンへと逃げ込んだのだった。


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