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偏愛

綾香を部屋へと送った後、美沙はすぐに部屋へと戻った。

時間が、思ったより迫っていたからだ。人狼の美沙にはこの0時の時間制限は関係ないが、ゆったりと過ごしていたらばれてしまうかもしれない。

なので、早々に部屋へと戻って、篭っていた。

0時になり、そっと外へと足を踏み出す。

すると、同じように博正と真司も、廊下へと出て来たところだった。

真司が、黙って頷き掛ける。

美沙と博正は、防音設備のお蔭で聴こえないのは承知していたが、それでも黙って頷き返して、一緒に一階へと向かった。


シンと静まり返っているリビングは、窓の外のシャッターも手伝って怪しく見えた。

美沙はソファへと向かいながら、つい数時間前にここで、二人の遺体が転がっていたのを思い出した。

一瞬の事だった。

美沙は、身震いした。

何の前触れもなく、一瞬で二人は倒れ込み、そのまま息をしなくなった。

美沙自身が具合が悪くなったことを思い出し、もしもあのまま、殺されていたならどうなっていたのだろうと思うと、震えが止まらなかった。

博正が、それに気付いて美沙の肩を抱いた。

「美沙、怖がることはない。全部、きちんと説明するから。」

真司が、ソファへと腰掛けながら頷いた。

「言ってないことがあるんだ。君には、きっとまだショックだろうと思ってね。ゆっくり少しずつ理解しないと、きっと耐えられなくなるだろうと、博正と話し合って決めていたことなんだ。」

美沙は、二人を代わる代わる見た。

「え?二人は、知っているの?」

博正は、頷いた。

「知ってる。」と、ソファへと促した。「さあ、座って。」

美沙は、言われるままにソファへと座った。博正が、美沙の肩を抱いたままその横へと座った。

真司が、口を開いた。

「まず、昨日の君の体調の変化だけど、あれはオレと博正にも起こった。人狼には、襲撃先を選ぶと自動的に、京介や伸吾を殺した薬品とは違うものが投与され、それでオレ達は変化する。だから、君は殺されそうになったわけじゃないんだ。」

美沙は、呆然とその話を聞いた。博正が言った。

「美沙も人狼だから、昨日変化してたはずなんだ。聴覚が異常に鋭くなって、体が熱くならなかったか?」

美沙は、思い出して頷いた。確かに、そうだった。声も出ず、言葉も出なくて…。

「確かにそう。必死に誰かを呼ぼうと思ったけど、言葉にならなくて。」

真司が、頷いた。

「言葉を発するような機関が失われるからな。唸り声ぐらいしか出なかったんじゃないか?」

美沙は、ただただ頷いた。確かに、そうだったからだ。

「これはね、化学薬品の実験なんだよ。オレ達は、実験台なんだ。これを開発している奴らにとって、別に人狼ゲームなんてどうでもいい。薬品の効果を試したい。だが、開発には金が要る。だからこうして、見世物にしながら、金を稼ぎつつ、実験を繰り返している。」

「どうして…」美沙は、言葉を詰まらせながら言った。「どうして、二人は知っているの?これが、そんな実験なんだって。」

それには、真司が答えた。

「オレ達は、これが初めてじゃないからだ。」真司は、言いながら視線を博正に向けた。「オレ達二人は、一年前にもここへ来た。そうして人狼として実験され、たくさんの見知らぬ人達を噛み殺して来た。そうしなければ、自分が殺される。それに何より、あの姿になると考えがまとまらない。誰かを殺すまで、それは収まらない。ここへ到着した時、案内をしていた男が居ただろう。あれは、オレ。オレが、絶対にこのオレだと分からないようにわざとあんな風に仮装して、そうして君たちを案内したんだ。時間を遅れて言ってた二人は、オレが入り込むのに偽装する必要があったから、そうしていた。」

美沙は、混乱した。

考えがまとまらない。

真司が、人狼なのは分かっている。

だが、それは単にカードの役職上のことではなくて、本当に変化してしまうというのか。

そして、案内をしたということは、真司はこれを行なっている奴らと繋がりがあるということなのか。

「そんな…じゃあ、じゃあ真司さんは、私達を騙していたの?!」

美沙が、半ばパニックになりながら言う。真司は、首を振った。

「違う。オレも奴らには会ったこともない。だが、いつも指示される。今回、オレがここへ来たのは、自分の体を治す術を知るため。このゲームに勝ち残ったら、必ずそれを教えてもらうという約束の元に、こうしてまたこのゲームに参加した。オレは今回人狼だったが、オレだって今回は何になるのか分かっていなかった。部屋へ入って初めて、今回も人狼なのだと知ったんだ。」

博正は、真剣な顔で美沙を見た。

「オレもそうだ。本当は美沙までこれにつき合わせるのは嫌だった…だが、美沙にこの、オレが陥っている現実を見て欲しかった。オレの体は元に戻らないかもしれない。そうしたら、美沙とは結婚出来なくなる。でも、美沙が同じ薬で同じように変化するなら…最悪このままでも、オレ達は一緒に生きて行けると思ったんだ。だから、美沙だけは人狼にしてくれと言った。もしもオレが村人で、今回は薬品を使われないとしても、もしもオレが吊られるとしても、美沙にはオレと一緒で居て欲しかった。ただ、それだけなんだ。」

美沙は、博正を見上げた。

「でも…!薬が効いている間だけなんでしょ?!治すって何?薬が効かなくなっても、人狼のままってこと?!」

博正は、真司を見た。真司は、美沙に渋々ながら、頷いた。

「この薬は、投与される者によって反応は異なる。投与されてすぐ死んだ者も居た。ここでゲームに興じている間に狂って死んだものも居た。だがオレ達のように、薬に適合した者達は、その薬の命令の元に細胞の並び替えをするだけでなく、自分の意思で、それが出来るようになってしまうんだ。」真司は、息をついた。「それこそ、息をするように自然に。だから激昂したりしたら、簡単に化け物へと変化してしまう。特に夜、静かな時にそれが起こりやすくなって、最近、ちまたで夜に獣に襲われる人達が増えただろう?あれはみんな、オレ達のように実験で人狼化した人達だ。精神も蝕まれて来る人も居るから、夜になると正気を失って暴れているやつも居るんじゃないかな。ほとんどは、研究所の息が掛かった奴らに密かに消されて処分されているがね。」

美沙は、今聞いていることが、どこか遠くのことのような気がしていた。

そう、きっと映画か何かのことのように。

「冗談、でしょう…?」

美沙は、言って博正を見上げた。博正の目は、悲しげだった。

「違うよ。美沙、オレはオレのことだけを考えて美沙をこんなことに引きずり込んだ。エゴイストだと分かってる。でも、小さい頃からずっと願って来た夢が、こんなことで消えるのは嫌だったんだ。幼稚園の時、約束したじゃないか。ずっと、離れないって。美沙は、オレのお嫁さんになると言った。だから、オレもずっとそのつもりだった。」

博正の目に、なぜだか今狂気が見えた。

博正は、ずっと想ってくれていた。小さな頃の約束も覚えてくれていた。でも…だからって私まで、人狼にしてしまおうと考えるなんて…。

それに、昨夜既に自分の体の中にはその薬が流れたのだ。

今夜も流れたら、自分は、引き返すことが出来ないところへと、引き込まれるんじゃ…。

「どうしたらいいの!」美沙は、取り乱しながら言った。「私…私も適合するとは限らない。今夜もまたあの薬が体に流れたら、私は発狂して死ぬんじゃ…!」

博正は、首を振りながら美沙を抱きしめた。

「大丈夫、君はそうはならない。オレ達を苦しめた初期の体の抵抗を弱めるために、君には数日前からオレが少量ずつ飲み物や食べ物に、あの薬を混ぜて食べさせていたから。だから昨日君は、暴れて回りを壊したり自分を傷つけたりせずに、すんなり薬を受け入れただろう?」

美沙は、それを聞いて愕然とした。

「え…じゃあ、博正が持って来てくれていた、あの食べ物に?」

入っていたというの。

それなら、ずっと薬を摂取していたことになる。

自分は、もうその薬に慣らされて…。

博正は、美沙の心に気付かずに微笑んだ。

「そうだよ。そんなに苦しまずに済んだ。昨日オレが部屋へ行った時には、まだ人狼の姿のままだったけど、オレが話し掛けたら、すんなり元へと戻って行った。君は、もう適合しているんだ。」

真司が、嬉しそうな博正とは対照的に、険しい顔でそれを聞いている。

私は、知らない間に人狼へと変化してしまっていた。

もう、引き返すことは出来ない。

このゲームに勝利して、真司と博正と共に、元へと戻す方法を手に入れない限り、このままなのだ。

真司が、言った。

「さあ、もう覚悟を決めよう。いくらオレ達でも、追放されて負けた陣営の人達がどうなったのかまで分からない。オレ達は、一年前のゲームで勝ち残った人狼。30人は居た参加者の中で、7人の人狼で戦ったうちの二人。狂わなかったが吊られてしまった仲間は、オレ達が勝利したと同時に戻って来たのは事実。今回ももしもこのうちの誰かが吊られたとしても、生きて会うことが出来るんだ。残った者が、勝ちさえすれば。」

美沙は、ショックでずたずたになった心を慌てて何とか繋ぎ合わせて、真司が言ったことの意味を考えた。

勝たなければならない。

勝って、みんなで帰らなければ…。

それしか生きる望みはないのだ。

「わかったわ。」美沙は、顔を上げた。自分の体のことは、勝ってから考えよう。「こうなってしまったんだから、勝つよりないってことね。私、やるわ。でも、人を殺すことは、さすがに、出来そうにない…。」

美沙が言うと、博正が頷いた。

「分かってる。オレがやる。だが、美沙にはこの現実を受け止めてもらわなきゃならない。オレ達は、ひと殺しだ…だがそうしないと、生き残れないんだ。やるしかない。」

美沙は、頷いた。

博正に、恨みの気持ちが湧かないと言ったら、嘘になる。

現に、真司は博正の気持ちに同意していないようだった。

でも、博正が私を想うあまり、こんな極端な行動に出たのは理解しようと努力する。

全ては、私が傷つきたくないあまりに拒絶して、あまり博正を安心させるような行動を取って来なかったせいなのだ。

博正は、一人で勝手に考えて、そうしてこんなことをした。

もしも一緒に考えられていたなら、きっと何でも相談してくれていたはずなのだ。

美沙は自分を慰め、鼓舞するように頭を上げ、真司が取り出した今夜襲撃するリストへと視線を向けた。

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