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ルール違反

結局、遅れるのは思わせぶりでどうしても恥ずかしい、と美沙が急かして、時間ぎりぎりに博正と一緒に下へと降りた。

8時5分前だと言うのに、もうみんな席についていた。

美鈴と麻美の視線が痛かったが、それでも気付かない風を装って、美沙は席についた。

何があったかまで、二人に分かるはずはないと分かっていたからだ。

それを見てから、真司が言った。

「これで、みんな揃ったな。」

席は、二つ欠けている。

恵が座っていた8の椅子も、いつの間にか無かった。伸吾が、真っ青で憔悴し切った顔をして、視線もどこか遠くを見つめている様子で座っていた。心ここにあらずといった風情だ。

京介は、同じように顔色が悪かった。いつもなら、ここで仕切るのは京介だったが、何も言わずに唇を引き結んでいる。

亜里沙は、座っているのもやっとといった感じで、目の焦点が合っていなかった。

「霊媒師は出ない方がいいだろう。占い師はもう、二人出てしまったから、今更どうしようもない。人狼がこの中に居るわけで、知ってしまったからな。狩人は…もしかしたら、もうこの中に居ないかもしれないが、潜伏したまま占い師のどちらかを選らんで守ってやって欲しい。守りきれたら、ラッキーだからな。」

誰も頷かなかった。当然だった…初日に、吊ってしまっていたからだ。

だが、何も知らないみんなにとっては、潜伏しているのだから、反応しなくて当たり前、といった感じだった。

「それで…誰が怪しいかってことなんだが。」と、武を見た。「武は、どう思う?占い師として、誰が怪しいと思う?」

武は、話を振られて、仕方なく言った。

「正直、分からない。だが、ずっとあまり話してない人って言うと、奈々美さんと麻美、美鈴かな。梓も、いつもなら結構発言するのに、これが始まってから静かになった。杏子さんみたいに、普段から考えたら静か過ぎるって思う。」

梓が、自分に疑いを掛けられないと思っていたのだろう。びっくりしたようで、慌てて手を振った。

「違うわ!ただ、怖いだけで…何か言ったら、それで吊られてしまう気がして何も言えなかっただけ!」

真司が、言った。

「それを言うなら、美沙ちゃんだってそうだろう。あんまり発言しない。まあ、普段がどうなのか知らないから、なんとも言えないけどな。みんなで一緒に居る時は結構話すけど、この会合の場では口を開かないじゃないか。」

美沙は、慌てて首を振った。

「そんな…私は村人です!私はみんなを仕切れるほど、話が上手い方じゃないから…。」

わざと、戸惑っているような表情を作る。こうやって、真司さんが疑いを掛けるのは分かっていたからだ。

すると、大樹が言った。

「美沙ちゃんは違うだろう。さっきだって、占って欲しいって真っ先に自分から言っていた。人狼や狐だったら、絶対にそんなことは言えないはずだ。」

美沙は、ホッとしたように大樹を見て微笑んだ。良かった、大樹さんがいい人で。

すると、博正がムッとしたような顔をして言った。

「じゃあ、大樹さんは誰が怪しいと思うんだ?そういえば、大樹さんは落ち着いてたよな。まあ、年上なんだからそう見えるのかもしれないけど。」

大樹は、博正を軽く睨んだ。

「オレは、武と同じように、黙ってる奴らがまず怪しいと思う。そういえば、綾香さんも普段はよく話すのに、こういう場ではあんまり話さないな。」

綾香は、首を振った。

「あたしに何が言えるの?あんた達がいいように進めるじゃないの。どうにも出来ないわよ、村人なのよ?最初に、そう言ったじゃない。」

だが武が、何かに気付いたように綾香を見た。

「だが、あれも芝居だった可能性もあるよな。カードだって、置いてあったが伏せてあったと光が言ってた。あの状況で、そう信じさせるためにやった可能性があるだろう。」

光が、考え込むような顔をした。

「確かに…そうだったかもしれないね。だいたい、みんな最初訳が分からなくて怖がってた時に、鍵もかけないで寝てるなんて、不自然かも。」

綾香は必死に首を振った。

「あたしは絶対に人狼じゃない!人狼を吊らなきゃ、後いくつ縄が残ってるの?足りなくなるわよ!」

それはそうだ。綾香は人狼ではない。

美沙は、思って聞いていた。

だが、狐の可能性が無くなったわけではない。

だが、今ここでそれを言うわけには行かなかった。

「だから、確実に人狼を吊るために話をしてるんじゃないか。」

真司が言う。綾香は、苦し紛れに奈々美を指した。

「じゃあ、ずっと黙ってるあの子は?!あたしは、少なくてもずっと話し合いで意見を出していたわよ!人狼を探す努力をしてるあたしが吊られて、黙ってる子が免れるなんておかしいじゃない!」

奈々美はぶんぶんと首を振った。

「わ、私は人狼じゃありません!絶対違います!」

話は、平行線を辿っていた。

お前がそうだろう、違う、の繰り返しで、生産性のある話はできなかった。

それなのに、時間は無常に過ぎて行く。

気が付けば、時計は10分前を指していた。

「…もうすぐ、シャッターが閉まって来る。」

大樹が、時間に気付いて言う。

みんなは、ハッと時計を見上げた。8時50分…確かに、もう時間がない。

「誰にするの?もう時間がないわ!」

綾香が言う。真司が、みんなを見回した。

「仕方がない。じゃあ、占い師と共有者を除いた中から、また自分が怪しいと思う人物に投票してくれ。オレも正直、誰だか分からない。だが、仕方ないだろう…誰か投票しなきゃ、自分が追放されるんだ。」

みんなが、頷いた。

その途端、シャッターが音を立てて閉まり始めた。5分前になったということだった。

するとそこで、急に京介が立ち上がった。

「オレは、投票しない。」

腕輪を前に構えていた、一同はびっくりして京介を見た。

「何を言ってるんだ、追放されるぞ!」

真司が言う。だが、京介は椅子の後ろへと回った。

「ここに居れば、椅子ごと連れ去られることもない。オレは、投票しない…もう、このゲームから下ろさせてもらう。」

時が過ぎて行く。

伸吾が、それを見て同じように立ち上がった。

「オレも!もう耐えられないんだ、家に帰る!こんなゲーム、したくなかったんだ!」

そうして、椅子の背から一メートル以上離れて立った。

絶対に、椅子ごと連れ去られることがないようにと思っているのは確かだった。

真司が、必死に言った。

「駄目だ、自分から降りたりしたら!他の村人はどうするんだ、それで吊り縄がもっと少なくなるんだぞ!まだ人狼が一人も吊れてなかったらどうするんだ!」

『10秒前。』

テレビが、パッと着いた。

みんな、必死に自分の腕輪を構えながら、それでも京介と伸吾を見ている。真司は必死に説得していた。

「早く!座って投票しろ!」

『投票してください。』

無情にも、テレビが言った。

真司は、自分の投票を手早く済ませた。他の皆も、必死に打ち込んでいる。今回は、前回ほどミスはなかった。

京介は、椅子から更に下がって立っている。その顔には、緊張が見て取れた。綾香も、自分の投票を終えて言った。

「何をしてるのよ、逃げるの?!時間が来るわ!」

『10秒前。』

また、テレビが言った。カウントダウンが始まる。早く投票しなければ、時間切れになってしまう。

しかし、伸吾も京介も、その場を動かなかった。

伸吾は、緊張で額から汗を噴き出していた。

『終了です。』

パッと画面に、数字と矢印が現れた。そして、その横には、大きく10と表示されていた。

「あ…あ…嫌よ!」

奈々美が、叫ぶ。

『№10を追放します。』

奈々美は、立ち上がろうとした。

その途端、パッと照明が消え、がちゃん、と何かの音がした。

「きゃあああああ!!」

悲鳴が、遠ざかって行く。

パッと照明が着いた時には、奈々美の席はもう、跡形も無かった。

そして、京介と伸吾は、そのままそこに立っていた。

二人の椅子も、そこには無かった。

それを見た京介は、まるで何か憑き物が落ちたように、笑った。

「は…はは…どうだ!生き残ったぞ!これで、オレはこのゲームには関係ない!伸吾と二人、気楽に観戦させてもらうさ!」

だが、真司は同情したような暗い瞳で京介を見ていた。

京介は、そんな真司をあざ笑うように、足を出口へと向けた。

と、一歩足を踏み出した途端、変な風に膝を折り、まるで壊れた人形のように、その場に転がった。

「え…?!京介さん?!」

出口に近い席の博正と武が、慌てて立ち上がって顔を覗き込んだ。すると、綾香の席の後ろ辺りで、伸吾も声も上げないまま、転がった。

「え…なに…?」

伸吾は、そう言ったかと思うと、目を開いたまま、動かなくなった。

綾香は、悲鳴を上げた。

「いや!この子…息をしてない!」

それを聞いた皆は、博正と武の方も見る。

京介の顔を覗き込んでいた博正が、暗い表情のまま、首を振った。

「そんな…何が起こったの?!どうして死んでるのよー?!」

綾香は、絶叫した。

麻美と美鈴は、恐怖で涙を流している。

今夜、誰が誰に投票したのかが画面に現れていたが、もう誰もそれを見る、余裕はなかった。

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