理由
杏子、京介、伸吾、ほずみ→真司
武、綾香、光→京介
翔、梓→大樹
大樹、恵→ほずみ
亜里沙→伸吾
奈々美→恵
美沙、真司、麻美、美鈴、博正→杏子
「今…どうなった?杏子さんはどこへ行ったんだ?何があったんだよ?」
京介が、うろたえたような目で皆を見回して言う。
大樹が、何も無くなった自分の隣りを呆然と見ている。その隣りの真司がおもむろに立ち上がると、床を調べた。
「…ここに、切り込みがある。椅子ごと、下へ運ばれたんだろう。」と、隣りも、その隣りも見回した。「全部の椅子の下に、同じ仕掛けがあるな。」
伸吾が、掴みかからん勢いで亜里沙を見て一気にまくし立てた。
「なんでオレに投票したんだよ!?オレが何をした?!オレは…オレは何もしてないのに!お前が人狼か!」
亜里沙は、手を前に上げて自分を防御するようにしながら、言った。
「別に…あんまりにも怖がってるから、演技なんじゃないかって思っただけよ!わざとらしく見えたのよ!」
「演技なんかじゃない!本当に怖いんだ!何をされるかって…杏子さんは、どこへ連れて行かれたのか分からないんだぞ!オレまで、あんな目に合わせるつもりなんだな!」
光が、伸吾を押さえた。
「落ち着け、伸吾!お互い様なんだ、誰に投票するかなんて、自分以外は信じられないような状態なんだから!」
綾香も、言った。
「そうよ!あんただって真司さんに投票してるじゃないの!それで吊られてたらどうするつもり?あんた責任とって自分も追放されるの?!違うでしょうが!」
京介が、ショックから幾分立ち直った様子で言った。
「でも、オレも聞いておきたい。どうして、オレに投票したのか。場合によっては、人狼だと判断して、次はオレに投票した者達の中から吊る提案をする。」
光が、京介を鋭く睨んだ。
「理由は、あんたが采配したら、村人は生き残れないって思ったからだ。占い師に出ろと言って、感情で投票先を決めて、そんなあんたの言いなりになってたら、いくら共有者でも、他の村人を平気で犠牲にして自分が生き残ろうとするだろうと思った。」
綾香も言った。
「そうよ!どう見ても、あんたはこの状況を楽しんでる。自分が支配してるような気持ちになってて、反対したら吊ろうとする。いくら共有者でも、残してたら村人のためにならないって思ったの。真司さんを見なさい、感情であなたに投票してないわよ。」
確かに、真司は京介に入れては居なかった。
京介は言った。
「そんなもの…オレだって村人のためと、一生懸命なんだ!それで消されるなんて、方向を間違ってる!消すのは、人狼が先だろうが!」
博正が、落ち着いた様子で言った。
「それで、どうして真司さんは京介さんじゃなく、杏子さんに入れたんですか?」
まだ床を調べていた真司が、皆を視線を集める。
真司は、自分の椅子に座って言った。
「あの子は、唯一朝の話し合いの時も、この投票前の話し合いの時も、じっと黙っていて意見を言わなかったんだ。ほずみちゃんもそうだが、ほずみちゃんは元々おとなしい。杏子さんのように普段から鬱陶しいぐらい元気な子が、あんなに黙ってるのはおかしい、と思った。だからだ。」
博正も、頷いた。
「うん。オレもおかしいと思って、ずっと会合以外で話してたんだけど、活発ですごくよくしゃべる子。なのに、話し合いの時だけだんまりなのが、おかしいと思った。だから投票したんだ。」
綾香が、ふんと鼻を鳴らして笑い、京介を見た。
「誰かさんよりよっぽど冷静にみんなを見て決めてるわね。」
美沙はただ、呆然とそんな様子を見ていたが、段々と頭がはっきりして来た。
杏子が、吊られたのだ。
博正は、別に杏子を気に入っていたから、一緒に居たのではなかった。
ただ、相手を探っていたのだ。
美沙は、頭の中の霧がさーっと晴れるような気がして、我に返った。
「あの…私も、だんまりなのが、どうしてなのかなって。他の人は、あんまり怪しくないし分からなかったから、投票しただけで。そんなに、票を集めるとは思わなかったから…。」
これは、本当だ。
まさか、今夜吊れるとは思っていなかった。
ただ、居なくなって欲しいと思ったから…。
「他は?何か、聞いておきたい人は居ないか?」
光が、皆を見回した。京介は、じっと不機嫌に黙っている。
「別に」大樹が、言った。「どうせ、オレの見た目が怖いからとかそんな理由だったりするんだろうしな。初日の投票なんて、そんなもんだ。オレは別に、気にしてない。」
大樹に入れた二人が、身を縮めた。
確かに理由はそうらしい。
「オレは気になる。」と、恵は奈々美を見た。「なんで、オレ?」
奈々美は、肩をすくめた。
「ごめん、もうほんと誰なのか分からなくて、京介さん(9)押そうかと思ったんだけど、震えて手が隣りに行っちゃってあなた(8)に。」
真司が、フッと笑った。
「1票の重みが半端ないな。もし京介だったら、オレと票数が一緒になってたぞ。ちなみにオレにもう1票入ってたら、決戦投票だったんじゃないか?みんな、しっかり考えて投票しないとな。間違えた、じゃすまない。少なくても、吊られた本人にとってはな。」
奈々美は、ごくりと唾を飲み込んだ。自分の間違いで、役職持ちだって吊ってしまうかもしれないのだ。
まして杏子は、どうなったのか分からない。同じ陣営だったなら、自分が勝ったらまた会えるようだけど、でも、もし負けたら…?
「あの…杏子は、ゲームが終わったら、会えるんだよ、ね…?」
奈々美の問いに、誰もが顔を見合わせた。
今奈々美がどうなっているのか、誰にも分からないのだ。
「…確かに、あの声は勝利陣営の側なら返してくれるようなことを言ってたが…。」
真司が、語尾を濁す。
光が言った。
「今は、考えないようにしようよ。とにかく、返してくれるってことは、生きてるんだし。命まで取られないんだよ、だって、ゲームなんだもの。」
みんな、その言葉に何度も頷く。
そうあって欲しい。
全員が、心からそう思っていたからだ。
そして、時間は夜へと突入していた。
まだ、人狼の襲撃が残されていた。