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記憶

夜7時になり、美沙がソファでうとうととしていると、何人かが夕食を取るために、このメインのリビングへとやって来た。

寝ぼけ眼で見ると、美鈴と麻美が入って来てキッチンへと向かい、その後から博正が杏子と何やら楽しげに笑い合いながら並んで入って来るのが目に入った。

美沙は、一気に目が覚めた…思えば、今日はまだ一度も博正と話していない。

博正は、まだ笑いながら杏子に何か話していて、こちらのソファで見ている美沙には気付かないままキッチンの方へと消えて行った。

今まで、声も掛けずに通り過ぎるなんてなかったのに。

美沙が呆然としていると、真司が立ち上がって言った。

「なんだ?彼氏を取られちまったのか。」

美沙は、ハッと我に返って真司を睨んだ。

「違うわ!ほんとにただの幼馴染なの!」

真司は、ふふんと不快な笑顔を浮かべながら、歩き出した。

「はいはい、まあ別にいい。」と、美沙の腕を引っ張って立たせた。「さ、何か食おう。お前が寝てる間に、綾香さんも大樹も、さっさと隣りへ食い物の物色に行っちまったぞ?」

美沙は、引っ張られて仕方なく立ち上がると、頷いた。

「お腹空いてないのにな…。」

そう、誰に投票するのか、考え過ぎて寝てしまったのだ。

まだ、どうするのかも決めていない。とても、そんな気になれなかった。

「…食っといた方がいい。」真司は、声を潜めて言った。「何が起こるか分からない。もしも追放されて、とんでもない環境に置かれたらどうするんだ?」

美沙は、その声に思わず身震いした。

真司は、また笑いながら先にキッチンへと入って行った。


結局、キッチンへ行っても博正は杏子とばかり話していて、いつもなら何を食べると甲斐甲斐しく世話をして来るのに、美沙の方へ寄ってこなかった。

美沙も、こちらで真司と話していたので別に構わなかったが、それでも何か、面白くなかった。

美鈴と麻美も、そんな二人を見てあからさまに嫌そうな顔をしていたが、杏子は逆に得意そうだった。

奈々美が、遠慮がちにこちら側で綾香と話をしているのを見ると、二人の間を邪魔してはいけないと思っているように見えた。

美沙は、なるべく考えないようにして、真司や大樹と、投票のことを話し合っていた。


8時になり、みんなぞろぞろと重い足取りで席へと向かう。

京介がもったいぶった風で一番最後に席に着き、みんなを見回した。そんな様子にも、美沙は襲撃してやりたい気持ちに駆られた。

今は、イライラしているので、余計にそうだった。

そんな様子にも気付かず、京介は言った。

「じゃあ、これから9時まで、話し合おう。みんな、それぞれ分かれて話してたみたいだけど、何か怪しい人は居たか?」

真司が、頷いた。

「お前。」京介が、顔をしかめる。真司は、続けた。「ちょっと独善的過ぎないか。確かに共有者に黒出しするのは魅力だが、それが起こるとは限らない。それを待つってのに賭けて、占い師を危険晒すのは無謀過ぎる。」

京介が、反論した。

「当たるかもしれないだろう?知らないで今日吊られたらどうするんだ。」

真司は、首を振った。

「これだけ居るのに、一度で占い師を吊る確率は少ないだろう。それなら、明日にすればいいじゃないか。今夜の占いの結果を、明日の朝聞く。それでいいんじゃないか。」

「だから、それこそ人狼に襲撃されたらどうするんだって言うんだ。」京介は、語気を荒げた。「占い師を失ってからじゃ、遅いんだぞ!」

「でも…」

「待ってください。」光が、口を挟んだ。「もう、いいですよ真司さん。真司さんが、占い師を守ろうと思ってくれてることは分かりました。オレ、出ます。オレが占い師です。」

「ええ?!」

みんなが、一斉に光を見る。光は、さらさらの髪をさっと上げて、皆を見た。

「出てくれたんだな。それでいい。じゃあ、狩人は光を守って…」

京介が、満足そうに言う。しかし奈々美が、それを遮った。

「待って。他に居ないんですか?光くんだけ?」

それを忘れていた。

京介は、バツが悪そうな顔をしたが、咳払いをして、回りを見回した。

「他には?今出ないと、あとで出て来ても嘘だと言われるかもしれない。」

それには大樹が、首を振った。

「強要するべきじゃねぇ。潜伏したいんなら、させてやればいい。光が偽者だって言ってるんじゃなくて、もしも偽で、本物が隠れていたいと思ってるんなら、隠れさせてやれってことだ。」

京介は、仕方なく、黙った。真司が言った。

「大丈夫だ。本物なら、お前が試したかった共有者の黒だしだってあるかもしれないじゃないか。これで行こう。」

京介は、渋々ながら頷いた。

「じゃあ、光には明日、占い結果を聞こう。狩人には、光を守ってもらって。それで、今日の投票だが、誰が怪しいと思う?オレは…相方でないなら誰でもいいんだが、強いて言うなら、真司かな。」

真司が、眉を寄せた。

さっき言っていた通りだ。

美沙が、呆れて京介を見た。本当に、自分の気分で選んでるんだ。

「…オレが居たら、やりにくいからか?お前、本当に人狼じゃないんだろうな。」

京介は、ふんと鼻を鳴らした。

「誰も他に居ないじゃないか。共有者だよ。」

「それはちょっと違うんじゃないかな。」光が、言った。「感情で吊る相手を選んじゃ駄目だ。真司さんは、誰より占い師を庇ってくれたし、すごく考えて調べてくれてたんだ。居なくなったら、困ると思うよ。どうしてもって言うんだったら、今夜はオレは真司さんを占う。それで、黒だったら明日吊ればいいじゃないか。それでいい?」

京介は、顔をしかめて考え込んだ。

「それは…別にそれでもいいが…。」

「でも、それじゃあ誰を?」

こちらから、伸吾が言った。

怖くて仕方がないといった感じだ。

「…初日は、分からないから、各々疑わしい人に投票するしかないんじゃないか。」

じっと黙っていた、博正が言った。美沙は、それを聞いて不安になった…そうなったら、票がバラけて僅かな票でも吊られる可能性がある…。

「でも…それじゃあ、村人が吊られる可能性が上がるんじゃあ…。」

美沙が呟くように言うと、博正がこちらを向いた。

その目は、今まで見たこともないほど厳しかった。

「だからって、ここで一人を決めて、吊った方が罪の意識が強いと思うよ。みんなで寄ってたかって吊るのは良そう。それより、ここは個人でしっかり責任を持って決めよう。」

皆は、顔を見合わせた。

確かに、一人を疑って、ここでみんなで寄ってたかって吊るのは、後でそれが人狼でなかったことを思うと、辛くなる。

美沙は、それから何も言わなかった。博正が、やっと話したと思ったら、厳しい顔で反対意見を言ったからだ。

「じゃあ…時間まで、あと20分ほどだ。」真司が、口を開いた。「それまでに、各々投票先を決めよう。それで、腕輪に入力を。やり方は分かってるな?1分以上掛かったら追放される。投票先を入れて、0を三回。それで、確定だ。」

みんな、真剣な表情で頷く。

隣りの美鈴が、向こう隣りの麻美とぼそぼそと話している。

光は、隣りの翔と何やら話していた。博正は、武と小声で話し合い、他はただ、黙って考えていた。

美沙も、何も考えられず、ただ黙っていた。

誰に消えて欲しいか。

人狼なら、誰を選ぶか。

今なら、誰を選んでも人狼だからとか、言われない。

それなら…。

美沙は、隣りの杏子を、ちらと見た。

杏子は、じっと緊張気味な顔をして座っている。

その日に焼けた快活そうな横顔に、美沙は、遠い記憶が蘇って来るのを感じた。

そう、あれはまだ小学生の頃。

同じクラスの、まるでひまわりのように明るい女の子。

毎日、博正と一緒に学校に登校していたその頃、いつの間にか登校途中で、その間に割り込んで来た、まるで子犬のように人懐っこい子…。

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