反感
真司は、仕方なくメモを開いた。
「だから、関係性だよ。仲がいいからってその二人が人狼だって勘違いしないように。高校生達の事は、さっき博正に教えてもらった。10人居るけど、その中で誰と誰が仲がいいとか。」
京介は、満足げに頷いた。
「それで?」
真司は続けた。
「まず、美沙ちゃんと博正は幼稚園からの幼馴染。博正と翔は、普段から仲がいいんで一緒に居ることが多い。翔と武は、同じ部活でよく話す。梓ちゃんとほずみちゃんは、いつも一緒に居る仲。美鈴ちゃんと麻美ちゃんも同じ。伸吾は学級委員だけど、ここには常に一緒に居るほど仲がいいヤツってのは居ない。光は、誰とでも仲がいい。」
京介は、高校生組を見回した。
「そうなのか?」
みんな、無言で頷いた。
真司は、更に続けた。
「恵と亜里沙さんは、同じ会社で付き合ってるって聞いた。」
亜里沙が、顔を赤くした。
恵が、困ったように顔をしかめた。
「仕事上、支障をきたすかと思って、黙ってたんだけど。この仕事だったら、言ったほうがいいかと思って。」
京介は、二人を見た。
「じゃあ、二人のうちどっちかが人狼だって気取ったら、どっちかが庇うかもしれないってことか。」
亜里沙が、慌てて首を振った。
「そんな!私は人狼じゃないわ。」
恵が頷いた。
「オレも村人だよ。」
「誰でもそう言うけどね。」
武が、呟くように言う。
真司は言った。
「今はそんなことを言う時じゃない。」と、メモに視線を落とした。「杏子さんと奈々美さんは高校時代からの友達だって昨日聞いてた。あとは、知り合い無し。オレも、大樹も綾香さんも、単独でここへ来た。みんな今回が初対面だ。」
京介が言った。
「オレもそうだよ、知り合いは居ない。」と、皆を見回した。「じゃあ、誰か他に、ここでカミングアウトしたいことはないか?」
武が、言った。
「…まだ初日だから、占い師も霊媒師も出るべきじゃないと思うけど。」
美沙は、それに同意したふりをした。
「確かにね。今夜、襲撃されちゃったら大変だし。このままなら、狩人は京介さんを守るから、出ない方がいいんじゃない?」
本当は、ここで役職持ちは聞いておきたい。そうしたら、共有者の片割れが絞られて来るからだ。
でも、人狼である自分が積極的に開示させるのは、得策じゃなかった。
大樹が、同意して頷いた。
「確かにそうだ。霊能者とか、何人も出たらみんな吊ろうとか考えるだろう。そうなると思ったら、真霊能者とか、出ないんじゃないか。」
京介は、うーんと考え込んだ。
「オレとしては、人狼を早く特定したいから、真占い師を特定するためにも、占い師には出てくれた方が助かるんだけどな。片割れを潜伏させてる意味がないじゃないか。もし、間違って襲撃されたりしたら困るし。」
光が、言った。
「確かに、リスクはあるけど、出た方がいいかもしれないな。でも、その場合は狩人は占い師の誰かを守るから、京介さん、今夜襲撃されるかもしれないよ。いいの?」
京介は、首をかしげた。
「確かにそうだが…オレが力のない共有者だって分かってるんだから、人狼は役職持ちを狙って、他の村人を襲撃するんじゃないか?狩人や霊能者を探して。分かってるオレは、後でもいいじゃないか。少なくとも初日は、共有者を狙わないと思うよ。それを考えても、占い師は今出て、狩人に守ってもらった方がいい。誤って吊られてしまうかもしれないし。」
伸吾が、おどおどしながら言った。
「吊られそうになってから、言うとか?」
「そんなの、嘘だと思われるじゃないか。」光が、呆れたように言う。「じゃあ、どうする?他のみんなはどう思うの?」
梓が、恐る恐る言った。
「どうだろう…言わない方が、絶対にいいんだけど、もしも今夜襲撃されたり吊られたりした中に占い師が居て、その後誰かが占い師を騙って出て来たら、それを信じちゃうかもしれないよね。この人数だし、吊り縄はすぐに無くなっちゃうし…狐も居るし、どうしても、真占い師には、残ってもらわなきゃならないよ。」
翔が、舌打ちした。
「そうか、狐が居たか。」
光が、頷く。
「狐は、人狼の襲撃でも死なないもんね。吊るか呪殺するしかないんだから、出来たら占い師には生きてて欲しいよね。」
杏子が、はい!と手を上げて場違いに元気な声で言った。
「あの!じゃあ、今ここで決めちゃうんじゃなくて、後で決めたらどう?ほら、まだ時間はたくさんあるし。まだみんな残ってるんだから、出て来ても守ってもらえるのを念頭に置いて、夜集まるまでに考えて来てもらったら。」
美沙の心の中で、また何かがふつふつと沸き立った。それが、苛立ちなのは分かったが、なぜ会ったばかりの杏子にそんな気持ちが湧くのか、皆目分からなかった。
京介が、言った。
「よし!じゃあ、そういうことで。今のじゃ分からないと思うけど、みんなそれぞれ、夜までに怪しいと思う人物を特定しておいてね。夜8時に、リビングに集まって最終の話し合いをしよう。」
みんなは、おずおずと頷いた。
みんな、不安なのだ。自分に投票されないと分かっているのは京介だけで、他はまだ、皆グレーだった。
自分が本当に村人なのだと、証明出来る子は誰一人居なかった。
美沙は、どうやって信じさせようかと、真剣に悩んだ。
それから、どうしても狭いので、第二のリビングとみんなが呼んでいる部屋には居づらくて、美沙は結局、元のリビングルームに戻っていた。
同じように、静かなのがいい、と真司と大樹、それに綾香もここに来て大きなソファに横向きに足を投げ出して座って、ぼーっと考え事をしていた。
真司だけは、まだメモを見ながら、じーっと考え込んでいた。
「ねえ」綾香が、真司を突っついた。「何を考えてるのよ。そんなもの見て、何が分かるの?まだ投票もしてないんだから、考えようがないでしょう。」
真司は、顔を上げた。
「さっきの会話だ。誰が何を言ったのか、考えてた。同じように、誰が黙ってたのかもな。」
大樹が、顔をこちらへ向けた。
「それで、何が分かった?」
真司は、大樹を見た。
「もし京介が共有者でなかったら、真っ先に吊れと言っただろうな。あんなに占い師に出ろって言うのが分からない。確かに誰が人狼なのか知りたいかもしれないが、襲撃されたらどうしようもない。うまくあいつの相方を占って黒だと言えばいいが、白だと言うかもしれないだろう。そんなことをしてる間に、相方は人狼の餌食になっちまうかもしれない。縄だって足りなくなる。」
大樹は、頷いた。
「確かにな。あいつ、本当に共有者なのか?人狼か狂人が騙ってるってんじゃないのか。」
真司は、首を振った。
「いいや。きっとあれが共有者だろうな。騙りが出てるのに、本物が黙ってるメリットがない。完全にあいつが仕切ってやがるのに、出て来ないなんておかしいだろう。だから、あいつが独断で自分のいいようにしようって思ってるってことさ。投票だって、オレに入れようって言い出すかもしれないぞ?あいつ、オレをよく思ってないようだから。」
大樹は、顔をしかめて真司を見た。
「それを言うなら、オレだってそうだ。こっちもあいつのことは、いけすかねぇって思ってるからよ。」
美沙が、割り込んだ。
「でも、そんな個人的な感情で投票するかしら?一応、京介さんだって考えてるだろうし…。」
真司が、美沙を見た。
「甘いな。最初は誰だか分からないんだから、好きに吊れるだろうが。オレは共有者の相方じゃない。それは、京介も知ってる。だからこそ、感情ってのが入って来るんだよ。」
大樹が、ふーっと肩で息を吐いた。
「初日から追放ってのは、カンベンして欲しいんだがな。おまけにその追放が、どういう追放なのか分からないんだから。」
真司は、じっと大樹を見つめた。
「お前、何か役職ついたのか?それとも、ただの村人か?」
大樹は、真司を見た。
そして美沙、綾香を見る。三人とも、じっと黙って大樹を見つめていた。
大樹は、肩をすくめた。
「ま、共有者の相方でないことは確かだ。だが、確かに村人だよ。」
そこには、答えはなかった。村人だけなのか、役職がついているのか…。
もしかして、三人目の人狼?
美沙は、歯がゆかった。昨晩、もう一人の人狼と話が出来ていないのだ。そうなると、自分はその相手に投票してしまうかもしれないのだ。
「なんだか、憂鬱…。」
綾香が、ふと呟いた。
美沙も、同じ気持ちだった。