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美沙は、ハッとした。

朝日が、窓から入って来ている…いつの間にか、寝てしまったようだ。

ベッドの上には、人狼の役職カードが、マスターキーであるカードキーと一緒に放り出されたままだった。

美沙は、それらを慌てて封筒の中へと仕舞い、万が一鍵を掛け忘れて出たとしても、誰にも見つからないようにと、そっとベッドのマットの間に挟んだ。

時計は、午前7時を指している。

美沙は昨日入浴していなかったのを思い出し、急いでシャワーを浴びると、新しい服に着替えて、深呼吸を一つすると、部屋を出て階下のリビングルームへと向かった。


リビングルームに着くと、そこには亜里沙、恵、美鈴の三人が居て、思い思いの朝ごはんを手にソファに座っていた。

「おはよう。」

美沙が言う。三人は、会釈した。

「おはよう、美沙。早速だけど、役職なんだった?」

美鈴の言葉に、美沙は一瞬固まった。だが、本当にほんの一瞬で、すぐに答えた。

「村人。でも、それって他の人にも聞いて言うかな?人狼ってそんなゲームじゃないでしょ?」

恵が、頷いて答えた。

「そうだよね。無駄だから、そんなこと聞いて回ってもしょうがないって言ってるんだけどさ。」

亜里沙が、横から怒ったように軽く、恵の腕を叩いた。

「そんなことって!大事なことよ?今晩、9時には誰かに投票しなきゃならないんだから。こうして聞いて、反応見るだけでも、充分情報集めにはなるよ。」

美沙は、内心ドキドキしながらも、言った。

「でもさ、それって伸吾みたいに始めからびびっちゃってる子とかには、無意味なんじゃない?本当に村人なのに、おどおどしちゃったりして。あくまでも、勝とうと思ったら、本当の人狼を探さなきゃならないんだから。村人を間違えて吊っちゃったら、吊り縄足りなくなっちゃうよ?まして、狐も居るんでしょ?」

美鈴と亜里沙は、顔を見合わせる。恵が、だから言ったのに、といった顔で言った。

「美沙ちゃんの言う通りだ。話し合うなら、全員集まってするべきだよね。こんなに少人数で、なんやかや言ってても、結論は出ないよ。」と、ふーっと息をついた。「でも、みんな疲れたって言って、ここに長く居たがらなくてさ。起きて来て、食べ物と飲み物を持ったら、ここを出て行っちゃった。あっちの部屋に居る子達も居るとは思うけど。この部屋、閉じ込められた感じを思い出すだろう?」

美沙は、楕円のテーブルの方を見た。

確かに、あの椅子に座ったら、とても緊張した気持ちになる。

あの椅子がこうしてずらりと並んでいるのを見ると、どうしても落ち着かなかった。

「…でも、話し合いを避けるわけにはいかないし。せめて投票の少し前ぐらいはここへ来るって、決めて置いたほうがいいんじゃない?」

美沙が言うと、恵は頷いた。

「ああそうだね。京介に言ってみる。それまでは、それぞれ納得行くように個人で話してたらいいよね。」

美沙は頷いて、キッチンへの扉へと足を向けた。

「じゃ、時間が決まったら教えて?腕輪からでもいいし。」

恵はまた、頷いて立ち上がった。

「ああ。オレは、京介に会って来るよ。」

亜里沙と美鈴が、顔を見合わせた。

「じゃあ、私達はあっちの部屋へ言って来ようかなあ。」

あっちの部屋とは、昨日見つけた居間のような部屋だ。

こっちの方が俄然いいソファなのだが、みんなここは落ち着かないらしい。

美沙は、キッチンへと足を踏み入れた。

新しく、サンドイッチが入荷されていて、嬉しかった。


それから、美沙はなるべくみんなと一緒に居た方が、自分を疑われた時に言い訳が出来るだろうと思い、本当は部屋へ戻りたかったが、みんなが居るだろうと思われる、もう一つのリビングのような部屋へと向かった。

サンドイッチを持ってそこへ入ると、思った通りほぼ全員がそこに居て、狭いソファや、隣りの部屋から持って来ただろうパイプ椅子などに座って話をしているところだった。

「ああ、美沙ちゃん。」京介が、恵の横で言った。「聞いたよ。みんなで話した方がいいって。オレもそう思う。」

美沙は、頷いてこちら側に置いてあった畳んだままのパイプ椅子を、開いて座った。

「絶対、その方がいいでしょう?それで、何時頃集まります?」

京介は、顔をしかめた。

「少なくても1時間前にはあっちの椅子に座っておこうかって話してたんだ。それまでは、こうしてばらばらに話をして…といっても、ここに居ないのは綾香さんと真司、博正だけだけどね。」

「案外、その三人が人狼だったりして。」

梓が、冗談のような本気のような言い方をする。美沙は、ドキッとしたが、サンドイッチにかぶりついているところだったので、うまく誤魔化せた。

「どうだろうなあ。でも綾香さんはさっき訪ねた時、部屋の鍵も掛けないで爆睡してたよ。」

「真司さんは、朝キッチンで会いましたけど、全員の関係とかだけでもメモっとくって言って、メモ用紙とペンを持って部屋へ帰りましたよ。顔色、良くなかったけど。」

光が、あくびをかみ殺しながら言った。翔が、横から言った。

「オレ、博正とは、昨日寝る前まで話してたんですけど、急に通信が切れちゃって。時計を見ると、0時だったから、ああ、通信できないって本当だったんだって思いました。」

京介は、ため息をついた。

「ああ、それはオレも思った。今日のことについて話しておこうと思って、番号押しても繋がらなかったから。後で、0時過ぎてたからだって気がついた。」と、光を見た。「真司が、何か考えてるんだったら、それを教えてもらうか?せっかくだから、ちょっとここで考えて見てもいいだろう。」

光が、頷いて立ち上がった。

「あ、じゃあちょっとオレ、三人とも呼んで来ます。」

「これ使ったら?」

武が、自分の左腕を上げて、腕輪を示す。光は、首を振った。

「駄目だよ、綾香さんなんか、絶対起きないもん。何番だっけ?」

それには、京介が答えた。

「綾香さんは11、博正は6、真司は4。」それを聞いたみんなが、驚いたように京介を見る。京介は苦笑いした。「昨日眠れなくて。こんなことぐらいしか、出来なかったからな。」

「だからって、みんなの番号暗記するなんてすごいよね。」

光が、感心しながら出て行った。

伸吾が、びくびくしながら言った。

「じゃ、じゃあ、京介さんは村人だって、信じていいんですよね?」

京介はそれを聞いて、困ったように伸吾を見た。

「そうだよ。でも、それって誰に聞いてもそう言うからね。そんなに脅えなくても大丈夫だって、もし吊られても、追放されるだけなんだから。」

伸吾は頷きながらも、びくびくとした様子は直らない。多分、昨日人狼デビューしたばっかりで、いきなりリアル人狼ゲームに放り込まれた上、何をされるか分からない緊張感に、耐えられないのだろう。

美沙は、気の毒になった。伸吾…きっと、早く楽にしてあげるからね。

するとそこへ、博正がやって来た。手には、サンドイッチを持っている。翔が手を振った。

「おう!光が行ったか?」

博正は、首を振った。

「いや、そこで会った。なんだい?みんな早起きだなあ。オレ、昨日疲れちゃって、おまけに遅くまで翔と話してたから、気が付いたらこんな時間だったのに。」

博正は、パイプ椅子を引きずって行って、翔の横へ座った。翔は、笑った。

「オレも疲れたけど、カーテン閉めるの忘れて寝たから、明るくて目が覚めてさ。」

麻美が、声を掛けた。

「博正くん、こっちおいでよ。ここ、空いてるよ。」

美沙が食べながらちらとそちらを見ると、確かに少しだけ、ソファの端が空いている。

…私が入って来た時は、何も言わなかったのに。

美沙は、梓が言っていたのは、麻美だったのかと考えた。でも、麻美はよく話しかけてくれるのに。

博正が、首を振った。

「いや、オレはこっちでいいよ。低い椅子より、これぐらいの高さがちょうどいいや。」

確かに、背が高いのだから足があまるソファよりは、そうかもしれない。

麻美は、少し残念そうに隣りの美鈴の方を見た。美沙は、少し気分が良くなった。

それがどうしてかと聞かれても、答えられないが。

するとそこに、明らかに寝起きのジャージ姿で素ッピンの綾香と、ぶすっと機嫌の悪い真司が、光に連れられて入って来た。

綾香が、言った。

「なあに?夜まで自由でしょうが!あたしはね、疲れてるのよ!」

綾香が不機嫌に言うのに、ソファに座っていた武と伸吾が慌てて跳ねるように立ち上がると、場を空けた。

綾香は、不機嫌なまま、そこへどっかりと座った。

真司もついでにそこへ歩み寄ると、その隣りに座った。

「邪魔をしないで欲しかったんだが。オレなりに、みんなの関係性を頭に入れようとしてたところだったのに。」

京介が、言った。

「それを聞きたいと思って、呼んだんだ。ここに居ない間に、自分に疑いが掛かって、吊られてもいいなら放って置くけど。」

そう言われて、綾香も真司もぐっと黙った。光が言った。

「でも、綾香さん、本当に違うんじゃないかなあ。だってさ、めっちゃ寝てたんだよ、役職カードだって、ベッドの脇に放りっぱなしで。」

美沙が、驚いたように光を見た。

「え、あなた、それ見たの?!」

光は、首を振った。

「見てない。うつぶせになってたから。」

綾香が、頭を掻きながら言った。

「だってあたし、村人だし。おもしろくないじゃない、人狼で村人ってさ。みんなが言うこと間に受けるしかないんだもん、誰を吊るって決まってから教えてもらったらいいかな、ぐらいにしか、思ってなかったのよね。」

京介が、息をついた。

「確かにそうかもしれないが、カードはちゃんとしまっておかないと。それを見た子も見られた君も追放になるんだぞ?ちゃんと参加しなきゃ。」

綾香は、珍しく愁傷な顔をした。

「わかった…これからは、きちんとする。部屋に鍵も掛ける。」

真司が、言った。

「で、相変らず仕切るじゃないか。よくしゃべるほど、怪しいじゃないのか?」

真司は、自分のメモ用紙を握ったまま言った。

京介は、ちらと横目で真司を見て、ふん、と答えた。

「それは、オレが場を仕切るべきだと思うからだ。」みんなが、シンと静まり返る。単に自信過剰なのか、それとも何かの考えの元に言っているのか、判断しかねているという感じだ。「本当はもう一日ぐらい潜伏しようかと思ってたんだが、今言おう。馬鹿に吊られちゃならないからな。オレは、共有者だ。相方には、潜伏してもらう。」

さすがの真司も、息を飲んだ。

美沙も、飲み込みかけたサンドイッチが、喉に詰まって慌てて手にしたペットボトルのコーヒー飲料で流し込む。

伸吾が、歓声を上げた。

「やった!じゃあ京介さんは、村人確定だね!信じていいんだ!」

京介は、伸吾に微笑みかけた。

「そうなんだよ。オレが偽者だってヤツが居たら、今出てくれ。でないと、オレとオレの相方が真共有者ってことになるぞ。」

美沙は、ゴクリとコーヒーを飲んで、誤魔化した。

でも、実際は焦っていた。このままでは、不利だ。真占い師が出て、もしも誰かが占い師を騙るにしても、共有者が居たらそれが出来ない。白出ししか出来ない以上、いつかボロが出てしまう。

だが、ここで自分が共有者だと出ることも出来なかった。

もう一人、出てもらわないといけないからだ。

三人のうち、二人も表に出ては危ない気がする…。

美沙は、じっと黙っていた。

みんながお互いの顔を見合わせる中、誰も手を上げなかった。京介は、勝ち誇ったように頷いた。

「じゃあ、オレが共有者ってことでいいね。これから、オレが話を進める。それで、真司は何を調べてたんだ?」

まるで水を得た魚のようだ。

美沙はそう思った。


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