ルール
僅かな間だが、どうも合う人と合わない人が分かれて来ているように思う。
京介は先に立ってリーダーシップを取りたいタイプのようだ。それに、自分を批判されると、すぐにムッとするようなところがある。
真司は、冷静で回りをとてもよく観察しているし、頭がいいようだ。京介のようなタイプを嫌うような印象がある。
大樹も、同じく京介のようなタイプが嫌いなようだ。もともとのぶっきら棒な性質も手伝って、あまり上手く行っていないらしい。
伸吾は学級委員までやっていて、しっかりしているのだと思っていたが、その実とても怖がりなのだと知った。
他は、学校で一緒に居る時と、あまり変わらない。
美沙は、そんなことを頭に思い描きながら、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取ると、誰とも話さずに二階の自分の部屋へと向かって歩いた。
一番奥なのが、滅入る。
美沙はそう思いながら、部屋へと歩いた。
何人かはもう、部屋へと入っているようだ。
美沙はカードキーを通して、ランプが緑になるのを確認してから、自分の部屋へと戸を押し開いて入った。
さっきは走って通り過ぎただけだったが、この部屋はかなり広い。
中へ入ると、静かな室内で外の風の音さえ聴こえて来ないことを、美沙は知った。
脇にトイレと一緒になったシステムバスがあり、お風呂もトイレも共同だと覚悟していた美沙は、素直に嬉しかった。
そうして、机の上に目を走らせ、そこで、初めて役職カードがあったことを思い出した。
急いで中を確認しようと思ったが、そこで思い直してドアへと取って返し、鍵を掛けてから再び戻って来て封筒を手に取った。
緊張しながら糊付けされていない封を開けて、中から見覚えのあるカードを引き出す。
その拍子に、一緒に入っていたと思われる、色の違うカードキーがひらりと床へと落ちた。
慌てて美沙がそれを拾って合い鍵だろうか、と見ると、その表面には小さく『Master Key』と書いてある。
『マスターキー』?
美沙が不思議に思いながら手にある役職カードを見やると、そこには間違いなく真っ赤な狼のシルエットが、黒い背景を背に描かれてあった。
部屋にあった、ルール説明書は、とても詳しく書かれてあったが、要は、こういうことだ。
・人狼ゲームを、ルール通りに行なう。
・外へ出てはいけない。正確には、許されない場所へ出てはいけない。
・時間通りに行動する。
・器物を破損したり、プレイヤーを傷つけてはいけない。
・その他管理者が不適切と判断されるようなことをしない。
上記に違反した場合は、追放となる。
人狼ゲームの、ここでのルールも詳しく書いてはいたが、それは説明を受けた通りだった。
カードを他の人に見せる、他の人のカードを盗み見る、という行為も追放の対象だった。
今回は、人狼三人、占い師一人、霊媒師一人、狂人一人、狩人一人、共有者二人、狐一人に、村人八人という、まさにリビングに置かれてあった役職そのままの数で行なうと記されてあった。
ベッドに横になって、美沙はじっと自分の役職カードを見つめた。
襲撃の仕方は、この腕輪に襲撃したい部屋の番号を入れる、とだけ書いてあった。
でもそれだけなら、どうしてマスターキーがあるのか、また分からなかった。
いつもなら、負けたくないが、負けてもいいか、といった感情でしかない。
だが、この瞬間には違った。
追放という言葉が、引っ掛かる。
具体的に追放とは、どういったことなのだろうか。
ただ、別の建物に移されるのだろうか。
早く吊られたら給料が少なくなる、とかだろうか。
狼の襲撃とは、どうするのだろうか。
いろいろなことが頭を巡っては消え、考えがまとまらない。
そもそも、人狼は他の人狼を知ることが出来るはずなのに、全くこれには書いていない。
どうやって知るのだろう。
その時間に、外へ出るしかないのだろうか。
でも、今日は普通に過ごせと言っていた。外へ出られない可能性の方が、高い…。
美沙は、部屋の時計を見た。
もうすぐ、夜中の0時だ。
0時になったら、一度扉を押し開いてみよう、と美沙は思って、扉の方へと歩いた。
ノブを握る。
時計の、秒針が回って行く。
3…2…1…0。
カチン、と音がする。
ドアのノブは、押しても引いても動かなかった。
つまりは、カードキーも利かないような鍵が、今閉じられたということだ。
…やっぱり駄目か。
美沙は、がっかりしてベッドへと飛び込んだ。ゲームは、明日からだと言っていた。今夜は、いくら人狼を引き当てていても、外へ出れないのだ。
誰が、仲間だろう…。
美沙の頭には、ぐるぐるとそれが巡っていた。
どちらにしても、明日の夜の投票までには、それを知っておかなければならない。
すると、美沙の腕輪が、音も無く光った。液晶の所に、番号が出ている。
6…博正?
そういえば、博正は何だったんだろう。
美沙は、心が痛んだ。村人側だったら、自分は博正に投票しなければならないかもしれない。
0を押してから、美沙は応答した。
「もしもし?博正?」
いつもの、少し高めの声が聴こえた。
『美沙。良かった、オレほっとしたよ。』
美沙は、何のことだか分からずに、首をかしげた。
「え、どういうこと?」
しかし博正の声は、当然のように言った。
『だって美沙が、人狼だろ?』
美沙は、びっくりして額から一気に汗が噴き出した。思わず飛び起きて、口をぱくぱくさせながら、しどろもどろに答えた。
「な、何を言ってるのよ…どうして、そんなこと言うの?」
博正の声は、不思議そうに言った。
『だって、この時間に繋がったじゃん。オレ、さっきまで翔と話してたけど、0時になった途端にぷっつり切れて、何度掛けても繋がらなくなった。それで、時間になったんだって知って、片っ端から番号入れてったんだ。繋がったのは、今のところ美沙だけだよ。』
美沙は、頭を動かそうと眉を寄せた。それは…つまり。人狼同士は、話が出来るということだから…。
「ひ、博正も、人狼?」
博正は、あっさり答えた。
『うん。三人だから、あと一人だけど、出ないかもしれないな。』
「なんで?お互いに知らないと、困るじゃない。」
博正の声は、うーんと唸った。
『まだ慣れてないじゃないか?腕輪が鳴って、どうして着信してるんだって脅えるかも。ほら、伸吾なんかめっちゃ怖がってたから、規則違反だとか思って出ないかも。』
確かに、伸吾だったらそうかもしれない。
でも、あの怖がりかたを見ていても、芝居も出来そうにないし、仲間だと頼りない気がした。
「うーん…出来たら、もっと頼りがいのある人が仲間ならなって思うな。京介さんとかさ。」
博正の声が、少し笑った。
『同感だけど、あの人オレ、怖いんだよな。感情で投票しそうで、大事な一票とか、変なところへ入れたり。』
美沙も、ぷ、と噴き出した。
「ああ、そうかも。とにかくは、明日の夜だよね。」
博正が、頷いたようだった。
『そうだな。オレ達、普通にしてた方がいいよね。急に離れたりしたら、きっと怪しまれるし。困ったな、普段から接しない相手なら難しくなかったのに。オレが疑われたら、遠慮なく裏切ってくれていいよ。どっちにしろ、美沙が生き残ったら、人狼陣営の勝利だからね。』
それを聞いて、美沙は表情を暗くした。
「でも…追放って、どうなるんだろ。普通に、別の部屋へつれて行かれるのかな?」
博正の声は、いたわるように言った。
『うん。処刑って言わなかったし。追放なんだから、大丈夫だよ。じゃ、昨日もろくに寝てないし、オレ、もう寝るね。美沙も、寝ておいた方がいいよ。』
美沙は、なんだかホッとして、見えないのを承知で頷いた。
「うん。おやすみ、博正。」
博正の声が、笑ったようだった。
『おやすみ、美沙。』
そうして、その夜は更けて行ったのだった。




