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初恋  作者: 坂口 玲
3章
9/20

3-1

2015.09.14 一部修正

 夏休みに入ると、各クラブは練習に明け暮れ始める。


 我が柔道部は、体育館の一部を使うため、他のクラブの連中とともに、練習をせねばならなかった。畳を背中に背負って運びこんでいる様を女子バレー、女子バスケットボール部の部員達に笑われることが侭あった。腹が立つと言うより、やはり恥ずかしいと感じた。


 入部当初の意気込みはもうどこかへ消えてしまっていた。稽古はそんなに甘いものではなかった。仮入部時代のあの先輩陣の優しさなど影も形も見えなくなっていた。黒帯達の強烈な投げを食らって、汗とも涙ともしれぬもので顔をぐしゃぐしゃにしながら、歯を食いしばって立ち上がり、そして、また記憶が遠い彼方に霞んでいくほどに畳に叩きつけられるのだった。


 いつになっても、誰かを投げ飛ばせるようになるとは思えなかった。まして、黒帯など、叶わぬ夢のように思われた。


 それでも、稽古は容赦なく続く。


 外気温が三十度を越す猛暑の中、体育館の気温は四十度を越えていただろう。意識はすでにもうろうとしていた。とにかく相手にしがみつくので精一杯だった。ぼろ雑巾のようになった私を先輩達は容赦なく、何度でも畳に叩きつけた。そのうちに、投げられても痛みを感じぬようになっていった。


 頭から水をかけられ、私は気を取り戻した。いつのまにか私は気を失っていたらしかった。視点が定まらず、呆然としていると、外の空気を吸って来いと背中を蹴飛ばされた。


 私はよろよろと壁伝いに体育館を出て歩き始めた。少し行ったところで、強烈な吐き気が私を襲った。慌ててトイレに駆け込んで反吐を吐いた。もう、何がなんだかわからなかった。便器の中の反吐を見て、涙がぼろぼろと溢れて来た。


 悔しかった。情けなかった。


 膝が震え、その場にへたりこみ、便器をかかえるようにして泣いた。自分の弱さをその反吐に見るようで、悲しかった。便所の床にへたりこみ泣いている自分が、どう頑張ったところで、強くなどなれない、そう思えてならなかった。そしてまた一層涙が溢れてきた。


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