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初恋  作者: 坂口 玲
4章
14/20

4-1

2015.09.14 一部修正

 私の通っていた中学校にはある伝説があった。


 それは、中学校二年生の文化祭までに恋人を作らねば「生きた化石」になってしまう、というものだ。そもそも生きた化石というのが何なのか、意味不明である。もしこれを全生徒に適用するならば、間違いなく九割以上の生徒が「生きた化石」になることだろう。


 私達が二年生にあがり、十月の文化祭まであと一ヶ月ばかりとなったころ、私達男子生徒の間で、この「生きた化石」伝説が語られ始めた。そして、勇敢無謀な一人の生徒が告白を試みると、それに便乗する者が次々と現れた。


 おそらく、この伝説は鬱積する女への欲望をなんとかして現実にかなえるための、大義名分として産まれたに違いなかった。男同士の間でいくら平然と猥談をすることができても、一度女生徒の前に出れば、顔を赤らめて言葉もろくに言えなくなってしまうか、或はまたその奥に秘めた気持ちとは正反対に敢えてそういった興味がないかのごとく振舞う、そんなうぶな少年ばかりだったのだ。こういった大義名分でもない限り、おいそれと愛の告白などできないのである。


 私自身も、この鬱積する欲望、感情を晒け出したいという強い衝動にかられていた。


 まだ握ったことのないその手の柔らかさを思い、まだしたことのない口づけに思いを馳せた。木内と二人で夕暮れの、子どものいなくなった公園のベンチに腰降ろしている様を何度も何度も、飽くことなく想像した。実際に、自分のベッドに腰かけ、どう腕を回そうか、そんな練習をすることさえあった。しかし、それを現実とするためには、眼前の大きく分厚い壁を打ち破らねばならなかった。一歩まかり間違えば、私一人が玉砕するだけかもしれないと思うと、怖くてならなかった。もし私が告白して、断られれば、もう二度と今までのように木内が接してくれなくなるだろう。そう思うと、ベッドの上で手を回す相手がするりと抜けていってしまうように感じた。しかし、それでももっと今まで以上に親しくなれるかもしれない、と思うと心が踊った。あの柔らかそうな唇に触れることができると思うと、のたうち回りたくなる程に興奮した。

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