【小噺】廃道を行く
お題: 道路
道
どれだけの時間 この道を歩いてきた事だろう。
かつて学生時代に通学路として利用していた道が廃道となった事を知り、有給を使い二十年ぶりに地元へ帰ってきた。
聞くところによると高速道路が開通したことにより利用者が減り、管理を続けていくのが難しくなったことから廃道とされたようだ。山の斜面に作られた道で、雨の多い季節には土砂崩れのある危険な道だったので無理はない。
我ながら 仕事漬けの日々から逃げる 良い言い訳を考えついたものだと苦笑した。
この道には幾多数多の思い出がある。
学生の頃、高校、中学、小学生の頃…。いつだってこの道を歩いてきた。
泣きながら歩いた事も、友達と巫山戯ながら歩いた事もあった。
この道は自分と自分の居場所を結びつける道だった。
廃道となった今、僕の道は何処へ続いているのだろう。
そんな事を思いながらゆっくりと道を歩いた。
ひび割れたコンクリートから雑草が生えている。
随分と雑な扱いをされているようだ。
そんな風景を見て微笑んでいる自分に気づいた。
家を出て どれぐらい経っただろうか。
歩けば歩くほど思い出が蘇る。
ふと不思議な感覚に捕らわれた。
嘗ての自分と共に道を歩いている感覚。
学ランをきた自分、ランドセルを背負った自分、両親と手を繋いで歩く自分。
彼らと共に歩いている。
前に向かって歩いている。
廃道となったこの道には 僕の思いが残っていた。
なんだか元気が出てきた。
まだ歩ける。
一人歩く思い出の道を夕日が優しく照らした。