9 ステディリングの真実
ガイドの言う通り、あっという間に洞窟の行き止まりに着いた。
そして、そこにポーチが落ちていた。
サツキが駆け出した。
サツキは賛否両論のラメラメピンクのポーチを拾って、ジップを開けた。
「嘘。ひどい」
サツキは泣きだした。
ポーチがポトリと落ちた。
サツキの手のひらに乗った指輪を、みんなで覗きこんだ。
指輪は真っ黒だった。
ところどころ銀色が見えていたから、指輪を油性の黒ペンで塗ったような、そんなイタズラなのだと思う。
ワルサ団。細かいところまで意地悪だ。
「もう行こう、サツキ」
ミクが落ちているポーチを拾い、立ち尽くして泣くサツキに手渡しながら、ゆっくりと声をかけた。
洞窟にサツキの泣き声だけが響いた。
誰も動かなかった。
「ロマンス」
シキが突然言った。
なぜ急に、その名前。
私の頭の中は、ハテナマークでいっぱいになった。
カツン、と革靴の音がした。
みんなの後ろからロマンスが登場した。
あれ。知らなかった。来てたんだ。
同じように、今ロマンスの存在に気付いた子猫ちゃんたちが、キャアッと喜びの歓声を上げた。
シキがもう一度言った。
「ロマンス、落とせ」
ロマンスは、何とも言えない困ったような顔をしながら、前に進み出た。
シキは頷いた。
ロマンスは、サツキとミクの元へ行った。
泣いていたサツキも何事かと顔を上げていた。
「子猫ちゃん」
ターゲットはミクだった。
ロマンスは、ミクの手をとった。
ミクは真っ赤になった。
よく分かる。
ダメージを受けるほどの色気。
「俺は正直な女の子が好きだ」
すっごい勢いで目を覗きこんでいる。
ロマンスの緑の瞳で、あんな間近で、あんなに見つめられたら、頭がおかしくなるに違いない。
女の子たちから、いいなあ、というため息がもれた。
ミクは首も手も真っ赤だ。
ん。
手?
ロマンスは、ミクの手をなでた。
「子猫ちゃんの手は、どうして黒く汚れているんだろう」
反応したのはサツキだった。すぐにミクの手を見た。
ミクが慌てて引っ込めようとした手首は、ロマンスがしっかりと握っている。
サツキがミクの手をじっと見た。
ミクは必死に手を握り込んでいるが、指先についた黒いインクの数本の線は隠しきれなかった。
「ミク! どういうこと!」
サツキの言葉に対して、ミクは必死に首を振っていた。
ロマンスはミクの手首を離し、両手をミクの頬にそえた。
ギャーッというホラー映画のような悲鳴が、周りの女の子たちから発せられた。
「子猫ちゃん。僕だけにきみの秘密を教えてよ」
怖。
ロマンスの言ってること、怖。
ミクは恐れのせいか、それとも別の何かなのか、体を震わせながら言ったのだ。
「私がやりました」
「ミク! そんな!」
サツキはポーチを小脇に抱え、指輪を持ったまま、両手で口を覆った。
ロマンスはミクの頬から手を離した。
「ありがとう。愛してるよ」
ミクはこんな時であるにも関わらず、去っていくロマンスの背中を、目を潤ませて追っていた。
ロマンスはシキを見た。
シキは頷いて言った。
「終了。解散」
ライトの移動に伴って、何はともあれ、全員で洞窟を後にした。




