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5 転校した翌日

 転校して二日目。

 寝坊した。

 初日の出来事が刺激的すぎて、寝付けなかったのが敗因だ。


 顔には出ないからそうは見えないと思うけど、必死に走った。

 朝の全力疾走、キツい。


 校門を駆け抜け、校庭を走り、校舎へ向かう私の横を、後ろから来た誰かが追い抜こうとした。

 その人の鞄が、私の鞄にぶつかった。


「あ! ごめん」


 後ろから来た男子生徒は立ち止って言った。

 私が鞄を落としてしまったからだ。

 少し先まで飛んで行った鞄を、その男の子が拾ってくれた。


「はい、これ。ごめんね。あれ?」


 イケメンだった。

 緑色の髪、額に斜めにかかるルーズなショートスタイルがきまっていた。


 私とは違う種類の遅刻だな、と思った。


 きれいな二重の瞳だった。

 妙に色っぽい厚みのある唇でニッと笑って、イケメンは言った。


「きみ、A組の転校生か。名前は?」


 私は鞄を受け取り、頭を下げて答えた。


「鞄をありがとう。私はシルコです。急ぐので失礼」


 イケメンが、ガッと私の鞄をつかんできた。

 びっくりした。


「俺は、ロマンス。よろしく」

「はあ」


 ロ、ロマンス。あだ名で間違いないだろう。


「俺ときみがこうして出会ったのは、運命かもしれない」

「はあ」


 突然過ぎて頭がついていかない。

 イケメンが見つめてくるので、正直、ドキドキしますが、それどころじゃないっていうか。

 転校生にとって、いきなり遅刻ってかなりダメな印象もたれる気がする。


 全部ひっくるめて、結果、無表情。残念なリアクションしかとれない私である。

 そんな私に、ロマンスは冗談のような投げキッスをとばしてきた。


「また会おう、子猫ちゃん」


 とどめはウィンク。

 校舎の窓から、キャーッという歓声が飛んだ。

 え、と思い顔を上げると、あちこちの校舎の窓から、主に女子生徒たちが目をハートにしてロマンスを見ていた。



 ロマンスは、窓から声援を送る女子生徒の皆さんに手を振り返しつつ、爽やかに走って行った。




 なるほど。お約束なのか。

 朝の余興か。

 これが、ハテナ学園なのか。




 取り残された私は茫然とした。

 ロマンスが校舎に消えると、女子生徒の皆さんも席に着いたようで、窓際からいなくなった。

 あちこちの窓がピシャッと閉じられた。









 ギリギリアウトでした。


 朝のホームルームが始まっていた。廊下側一番後ろの席の私は、こっそりと教室に入ることができた。

 担任の先生には軽くにらまれたけれど、それだけで見逃してもらえた。



 休み時間、ガイドに遅刻の件を聞かれた。

 私は朝の出来事を話した。


 ガイドは聞いた。


「どう思った?」

「びっくりした」

「それだけ?」

「だんだん、この学園のノリが分かってきた。昨日、ガイドに教わったおかげだと思う」


 ガイドは笑った。

 きれいな笑顔だな。

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