4 ハテナ学園の裏校則
教室に戻る廊下を歩きながら、ガイドは説明してくれた。
「ここは、精霊の宿る地に建てられた学園なんだ」
「ふーん」
「精霊のイタズラがしょっちゅうある。それがいつしかワルサ団と総称されるようになった」
「うん」
「学園の裏校則。高校2年生がワルサ団に対応すること。学園公認。生徒皆で、仲良く楽しくやりなさいと」
「はい」
「それさえ精霊の悪ふざけの気がするんだけど、2年生になると、生徒の中に、学園内限定の特殊能力を持つ者が現れ始める」
「へえ」
「毎年、テイストが違う。去年は、戦隊モノだった。今年はひねりがきいてて、ナヅケがあだ名をひらめくと、それが特殊能力になるんだ」
「ほほう」
「特殊能力を悪用することはできない。能力の発動は、時を選ぶ。基本的には精霊の関与があった事象において発揮される。まあ、みんな、退学になるのは嫌だし、楽しい方がいいし、あまり変なことにはならない」
「うむ」
ガイドは不思議そうな顔をして、私を見た。
何、そんなきれいな顔で。
「シルコは驚かないの?」
「めちゃくちゃ驚いてます」
「そう見えないね。俺の話、ちゃんと聞いてた?」
「ものすごく興味津々です」
私は嘘じゃないことを知らせたくて、力強く言っておいた。
ガイドは目をぱちぱちとさせた。
ガイドは言った。
「えっと。ちなみに、さっきは中庭で何が起こったか分かる?」
「塩が大量に混ざった花壇で、早送り。察するに、植物を塩分濃度の高過ぎる土壌で育てると、育たない、枯れる、ということでもって、ひまわりお化けを退治したのでしょうか」
「そういうこと。ひまわりは塩を吸収するなんて話もあるけど、さすがにあの量ではね。特殊能力だけど、それぞれ個人が使える力は限定的なんだ。事件に合わせて、それを指揮監督するのがシキ」
「そう」
私たちは教室に着いた。
荷物をまとめるシキと、もう立ち去りそうなシオと、どうやらシオを待っていたらしいナヅケしか、もう教室には残っていなかった。
鞄を持ちながらガイドが言った。
「シルコは、俺の説明で納得した?」
「はい」
「ええと。疑問はないの?」
「特には」
ガイドは怪訝な顔をした。
「うちみたいな学園、そうそうないと思うけど」
「はい。でも、そうなんですよね」
「そうなんだけど、感想はそれだけ?」
「世の中、私の知らないことの方が多いですから」
私は謙虚にそう言った。
ガイドは腕組みした。
「何だか、物分かりがよすぎて、案内しがいがあるような、ないような」
私はハッとした。
説明を受けて何の質問もしないなんて、まるで話に興味がないように誤解されてしまうかもしれない。
せっかく親切に案内したのに、その甲斐がない、ガイドがそう思うのなら、それは違う。
私は慌てて話した。
「ガイドが案内上手だから、いろいろ納得した。ありがとう。あれかな。やっぱりガイドは、昔から案内が上手なのかな?」
絶望的である。
たぶん、大事じゃないことを聞いている。
分かっているけれど、生来、不器用な性質なのだ。
ガイドはクスッと笑って言った。
「学園とか精霊とか特殊能力とかより、俺の案内に興味があるの?」
「た、たぶん」
引けない。
ここで引けるなら、ここまで不器用に生きてない。
何となく、シキとシオとナヅケに見られている気がする。
恥ずかしいから、余計に引けない。引けないから、同じことを繰り返して言ってしまったりして。
「ガイドに案内してもらって、いろんなこと安心した。案内上手は、もともと?」
ガイドは結局、絞り出した私の質問には答えず、鞄を持って歩き出した。
「一緒に帰ろう」
私は誘われてガイドと一緒に帰ることになった。
転校初日、上出来だと思う。
質問を無視されたのだけど、嫌な感じはしなかった。
てんぱってたのを、スルーしてくれたような気がする。
ガイドって、優しい人だ。