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13 近づく

 呆気にとられた後、なんだか満足した私のところに、ガイドがやってきた。


 そうだ、ガイド!

 ひどいじゃないか! 恥ずかしい現場を黙って見てるなんて。

 こういうときは、ガイドになんて言ってやったらいいんだろう。


「シルコ、行くよ」


 何か言うことを思いつく前に、ガイドに先に言われてしまった。

 そしたら、言われた通りにするしかない。


 しかも、ガイドは少し不機嫌な顔をしている。

 不機嫌なのかな。よく分からない。無表情。

 美形の無表情、怖い。


 親切にしてもらっているのに、何か言ってやろうなんて、おこがましかった。

 心を読まれたのか。


 おかげさまで顔には出ていないだろう。

 しかし、穏やかじゃない心を抱え、私はソワソワしていた。

 そんな状態で、私はガイドの隣を歩いた。




「シルコはさ、何でも受け入れるの?」

「何?」


 突然、ガイドが口を開いて、そう言った。その意味がよく分からず、私は困った。

 ちょうど、校舎に入ったところだった。


 どうしよう。

 ガイドが何を聞きたいのか分からない。


 とにかく返事をしなければ。


「そんなに何でも、受け入れてません」

「ニクに興味があったの?」

「? …はい」

「ニクを受け入れた」

「いいえ。私が受け入れたのではなく、ニクが私を受け入れてくれた」


 話の大事な点が相変わらず分からない。

 ダメな私であるが、一生懸命、私が大事だと思うことを答えた。


 ガイドはため息をついた。


「俺の話をすぐに受け入れる。俺の話を聞いて、俺のことしか聞き返さなかった」

「それはガイドが優れたガイドだからです」


 私たちは並んで階段を上った。

 2階が2年生の教室である。

 生徒たちの声が上から聞こえてきた。


 ガイドは踊り場で足を止めた。

 私も合わせて立ち止まった。




 ガイドが妙だった。

 私を見下ろすアイスブルーの瞳が、深い色を宿した。

 静かな湖面がわずかに波立つように。

 それは小さな波乱の予感。




 ガイドの瞳に目を奪われた私の耳元に、ガイドは触れるほど近く、唇を寄せて言った。





「俺の本当の名前は、カイ。おぼえておいて」





 ゾワゾワゾワッとした。

 何かよからぬものを耳から吹き込まれたような、甘く危険な感触があった。

 私が猫なら、全身の毛がブワッとなってたはずだ。

 そりゃ、もう、ブワッと。


 ガイドは少しだけ離れた。

 そして、きれいに笑った。


 ガイドの笑顔が再び近づく。





 凍りつく私の頬に、ガイドがかすかに唇を落とした。





 頬に触れたのは、柔らかな羽のようなほのかな感触。

 私の胸の鼓動はヤバイことになっている。

 しかし、顔には出ていない、と思う。




 ガイドは、私から少し離れた場所に立ち、安全な距離感を保ちながら言った。


「今のは、ハテナ学園の中では、よくがんばったね、という挨拶だから」

「挨拶」

「そう。ここではよくある挨拶。努力した友を称える行為なので」

「よくある」

「うん。特に深い意味はないから」

「そう」




 ガイドは優しい笑顔で再び階段を上りだした。

 私は、ヤバイ鼓動がおさまらないまま、ギクシャクした動きでついて行った。


 ハテナ学園。

 どうなっているんだ、ハテナ学園。

 私の頭の中は、そんな言葉でいっぱいだった。



「シルコ」

「はい」

「俺の言うこと、どこまでそのまま受け入れる気?」

「え?」



 私たちは階段を上りきった。

 もうすぐ教室。


 穏やかな笑顔でガイドは言った。


「俺が嘘ついてたらどうするの?」

「ああ、嘘つかれちゃったな、と思います」

「それだけ?」

「たぶん、傷つきます」

「そう」

「はい」


 ガイドが斜め上を見上げた。

 窓から差し込む陽光に照らされた銀髪が、繊細な輝きを見せた。

 ガイドは本当にきれいだと、私は見とれた。


 ガイドは言った。


「シルコ。前の学校で、トラブルメーカーだったろう」


 ドキーン!


「な、な、な、なんで」

「やっぱり」

「いえ、決して私は、本当に私は」

「分かるよ。シルコは一生懸命やったんだろう」

「はい」

「でも、クセのある人間に目をつけられてしまうんだろう」


 俺みたいな。

 ガイドの声は、そこだけ無声音で。


 ゾッとした。

 いや、そうじゃなくて。

 言っておくべきなのは。


「いえいえいえ、一番面倒なのは私自身で、誰よりもクセがあるから、本当」

「そこは否定しないけど。だけど、この学園の人間はだいぶ濃いからさ。気をつけたほうがいい」



 最後、ガイドは苦笑いした。

 そこには妙な感じは少しもなかった。


 なんだろう。

 警告なのかもしれない。

 私がしそうな失敗に対しての。

 そんな気がした。


 だとしたら、それはとても大事なことだ。



「ありがとう」

「うん」



 ガイドも私のお礼をするりと受け入れた。






 私とガイドは教室に入り、席に着いた。

 それからはこれまで通り。



 真ん中あたりの席から、ニクが振り返って笑顔で手を振ってくれた。

 小さな変化。


 放課後、なんと今日はできたてホヤホヤの友達ニクと一緒に帰ることになった。


 ニクは、教室に戻ってからサツキに謝ったそうだ。

 それからサツキに頬を打たれ、打ち返したと。

 そしてお互い、ありがとう、さようなら、と決別宣言をしたとのことだった。








 おまけ。

 ぜひ焼き肉パーティーを指揮してほしい、という熱い説得に対して、シキは一言。


「焼肉屋に行け」


 と言ったそうな。

 










 こうして終わった転校二日目。



 …

 …

 …ね、眠れない。

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