1 転校初日、はじまりはじまり
初対面だと、冷めてる人という印象をもたれることが多い。
でも本当は違っている。
ただ、気持ちに表現が追いつかないだけで。
一見、淡々とした顔でいるから、そう見えるだけで。
「シルコです。よろしくお願いします」
転校初日、私は相変わらずの無愛想な顔で挨拶をしながら、心で言い訳をしていた。
私が転校したのは、ハテナ学園という冗談のような名前の学園の高等部だった。
両親の転勤に伴い、縁もゆかりもない土地に引っ越したのがきっかけだった。
ド田舎である。
高校2年生の私には、選択肢が2つしかなかった。
片道1時間かかる公立高校。
歩いて15分の私立高校。
公立高校の場合、通学路につり橋がある。
渡らないとバス停に行けない。
なぜ、つり橋のこちら側に家を借りたのだ、両親。
毎日、つり橋を渡るのは怖くてイヤだった。
私はそれだけの理由でハテナ学園を選んだ。
放任主義の両親は、私の選択に異議を唱えることはなかった。
編入試験も楽々突破し、私はハテナ学園高等部の一員となったのである。
2年生は2クラスある。
私は、A組に所属することになった。
緊張している。
そういう時の私は鉄面皮のごとく見える。
らしい。
高校2年生というデリケートな年齢において、どうだ、この顔。
話しかけづらいだろう。
泣。
本人、そんなつもりないんです。
知らない人、怖いなあ。
仲良くなれる人いるかなあ。
割とそんな普通なこと思っているんですが。
肩先でワンレングスのストレートの水色の髪が揺れた。
冷たい顔に似合い過ぎるからどうにかしろと言ってくれた友達もいた。
髪型さえ融通がきかない自分を殴りたい。
硬い顔で着席したのは一番後ろの廊下側の席だった。
私を見るみんなの目が冷たかった気がする。
まだみんなとは制服も違う私は、小さなため息をついた。
「教科書、そろってないでしょ」
突然、隣の席の男の子が声をかけてきた。
びっくりした。
これがまた、親切っぷりに驚かされるだけではなく、びっくりするほどきれいな男の子だった。
銀髪の前髪がサラリと揺れ、アイスブルーの瞳が優しく弓なりになって微笑んでいる。
勿論、笑い返すことなどできない私である。
感謝でいっぱいという心にも関わらず、口から出るのはほんの一言。
「助かる」
なんじゃこりゃ。
我ながら、ひどい。
おかげさまで、そんな自分の絶望も顔には出ない。
美形男子は何のためらいもなく自分の机を私の机にくっつけて、教科書を見せてくれた。
ドキドキしたのは私だけらしい。
誰も何も反応しなかった。
こういうの、当たり前なのか。
授業はまったく頭に入らなかった。
授業が終わると、美形が机をそのままに、私に言った。
「俺のことはガイドと呼んで。この学園を案内するよ」
ん?
ガイド?
案内?
不思議に思いながら、私は彼に従ったのだった。