ロボちゃん
これで完成だ。
ユキトは眼前にそびえる人型ロボットを見据える。金属で成り立つ冷冷たるそのロボットは、いつか観たSF映画を憶い出させた。
翌日から、ユキトは人型ロボットにロボちゃんと名付け、自宅で経営しているカフェの従業員として仕えさせた。
「こんにちはユキトさん。ついに完成しましたか。え? ロボちゃん。それがこの子の名前ですか」
常連客のマモルが始めに言った。
「そういえば聞いてませんでしたね。どうしてロボちゃんを創ろうと?」
ユキトは簡潔に述べた。
「意味なんてないよ。ただ創りたかった、それだけだ」
長年一人でカフェを経営していた老人は、真っ白髭とシミと皺で、子どもからはサンタさんと呼ばれ、親しまれている。しかし、機械創りにのめり込んだ老人は、目の下を真っ黒に染め、僅かに陰鬱さを感じさせる。
二人はまじまじとロボちゃんを眺めた。ウェイトレス姿の彼女には表情はなく、機械とは到底考えられない美貌は、余計に冷たく思わせた。
「こき使ってやってくれ。ロボちゃんは言わば我々の奴隷なのだから」
その日からロボちゃんは店の看板娘として、そして、奴隷としてせかせかと働いた。
「おいロボちゃん。こっちに来て皿洗いを」
「ロボちゃん。荷物を運んでおくれ」
「ロボちゃん、ロボちゃん」
店内は『ロボちゃん』と呼ぶ声が頻繁に発せられた。その度にロボちゃんは「かしこまりました」と冷淡に一つ言い、無理難題をやすやすとやり遂げてみせた。
とある日。常連のサダモリさん言った。
「いやー、ロボちゃんがいて助かるねー。仕事は早いし、気はきくし。もうロボちゃんさまさまだね」
それを聞いたマモルも便乗しロボちゃんに感謝をした。気が付けば、店内は「ロボちゃんありがとう」の言葉で埋めつくされていた。
それから月日は流れ、一ヶ月もの時が経った。
「ロボちゃん。皿洗いお願い」
「ロボちゃん。荷物をあっちへ」
「ロボちゃん。ロボちゃん」
相変わらず店は『ロボちゃん』の声で溢れかえっている。
「ユキトさん。本当に感謝するよ。あなたがロボちゃんを創ってくれたおかげで、我々客もありがたい」
「ほんとほんと」
マモルもサダモリさんも、満足そうにユキトに話しかけた。ユキトは機械創りを止め、今はロボちゃんの世話や何やらに時間を使っている。そのおかげか彼の顔は、以前の陰鬱さはなく、優しい爺さんのように見えた。
「私もロボちゃんに感謝しているよ。創って良かった、ありがとうロボちゃん」
ユキトの言葉はロボちゃんに届き、
「ロボちゃんも嬉しい」
と、返してくれた。なんだか、ユキトにはすでにロボちゃんは機械ではなく人間のように思えてきていた。
「そうだ、ロボちゃんに何かお礼をしたいな」
マモルは唐突に語った。
「こんなに、僕たちの為にやってくれているんだ、感謝の一つも行動で表さなくちゃバチが当たるよ」
ユキトもサダモリも他のみんなも賛同し、感謝の気持ちを表した。ある人はロボちゃんの代わりに皿を洗い、ある人は荷物を運んだ。
「ロボちゃん、あれ食べたい」
「ロボちゃん、もっと楽しみたい」
ある日を境に、ロボちゃんから希望を言うようになった。その度にユキトたちは、「わかったよロボちゃん」と快く引き受けた。
それからしばらく。
「あれやって」「これやって」「皿洗え」「荷物運べ」
いつの間にか、みんなはロボちゃんの奴隷になっていた。