絶対的世界征服社
お嬢様は可愛い。
お嬢様は美しい。
お嬢様は力強い。
まったくどこから見ても完璧なお嬢様で、だから私はお嬢様が大好きなのだ。
細い黒髪も白い肌も。口を開けば汚い言葉ばかりが飛んでくるけれどそれもまたいい。近寄ればすぐに手を出されるけどそれもやはりいい。
でも別に私はドMだとかそういうのではなくて、相手がお嬢様だからである。
相手が知らない見ず知らずの女なら、目が合った時点で殺している。言葉を言う前に頭を潰すし、手を出す前に四肢を切断する。
私はお嬢様だけが好きなのだ。
「まずいまずい! こんなもの食べられるか!!」
言いつつ皿は綺麗になっており口の周りにはソースがついている。ついでにお腹はいい感じに膨れており、とてもまずいものを食べたようには思えない。
「でもでもお嬢様、完食じゃないですか。本当は美味しかったんでしょう?」
元々料理なんてしなかった私だがお嬢様と出会ってからすべてを見直しあらゆる料理を作れるようにした。最初のほうこそ丸焦げの料理を出してお嬢様が憤死しかけたことはあったが、もう何年も前の話だし、今更料理がまずいということは考えられない。
「美味しくないもん。残したら悪いから食べただけだ」
ツンと横を向いてしまうお嬢様だが、お腹がいっぱいで満足したのかだんだんとまぶたが降りてくる。眠くなってしまったようだ。
「じゃあ次ももっとまずい料理を作りますね」
空いた食器類を盆に乗せると私は広間を出て厨房へと戻る。
その途中の廊下で窓から外を眺めるのだけど、今日もどんより厚い雲。
見える山々は枯れ木が立つ禿山で動物の気配はない。といっても生まれた時からこんな世界だったので、今更どうとは思わないが。
次に視線を移して今度は廊下を見るのだが、やはり今まで無人の建物だったためいくら掃除をしても粗が目立つ。老朽化が進んでいるし、そろそろ別の場所に移らないといけないかもしれない。しかしこの場所もそれなりに気に入っているのでなかなか出ていけないのが現状であった。
「……できれば一箇所に安定したいけど」
やはり気を休めて落ち着ける場所が欲しいが仕事上それは難しい。ここを選んだのだって市街地から外れ人が少ないのと、建物が大きくそれなりの人員を収容できるから。
条件に当てはまる場所はそうそうないし、ここから出ていける日はまだ少しかかりそうだ。
私は盆を手に乗せ今後を考えるとはあ、とため息をついた。
「――?」
しかし。
盆の上のコップ。残っていた水の水面がかすかに波紋を立てている。意識を集中させれば足元が揺れているし、空気も震えている。この付近では地震ということは考えにくいし、そこでとある可能性に至った私は盆を放り投げ後ろを振り向くと即座に全身に力を込め衝撃に備えた。
次の瞬間、つい先程まで私が歩いてきた廊下の右側の壁が爆煙を噴出しながら崩壊しだす。一つが数十キロはあるであろう石のブロックが軽々と吹き飛ばされ、狭い廊下の中を圧縮された爆風が吹き荒れる。
突然のことに私は手で顔を庇いながら思わず目を細めた。
だがその視界でも確かに、私は捉えた。
爆発の中から弾丸のように飛び出すお嬢様を。
「うわあああああああああ!! どこだー!!」
髪を振り乱し疾走するお嬢様だがその姿はやはり可愛い。瞳に涙を溜め込んできっと私を探しているのだろう。けれどその瞳の先には私がいるはずなのに私との視線は合わない。まるで見えていないように、いや、実際見えていないのだ。
お嬢様は全盲だ。
生まれた時こそ視覚は正常だったらしいがあるとき完全に光を失ったらしい。
「お嬢様! ここですよ!」
私はそうして膝を折って両腕を広げる。お嬢様はそこで私の居場所を把握したようで、転ぶことなく迷うことなく私に飛びついて顔を胸に埋めた。
「な、なんか壁歩いてたっ! ちっこくて早いやつ!!」
「大丈夫ですよ。あとで私が駆除しておきますから。お嬢様は歯磨きして寝ててください」
こんなお嬢様でも私の主。
そして絶対的な力を有する組織のリーダー。
私は壁面上部の青いラインを見る。
「ダツ。仕事の時間です」
どこに行ってもどんな時も私がこの人を守る。
それがこの世界を征服するために必要なことなのだ。
私はお嬢様を抱きしめながらそう考えると、溢れそうになる笑いを必死に堪えた。
おじさんが活躍する話を書こうとしたらまさかの幼女とメイドの話になっていて自分でも混乱している。
最後の「ダツ」とは活躍するはずだったおじさんの一人です。
きっと彼ももっと出たいだろうに……。