病弱な自分の所に姉の婚約者が来るんだが
普通に気持ち悪い
前世社畜だったからか。一日寝て過ごす日々を過ごしたいと、病気になれば休めるのかと思っていたけど、ごめんなさい。反省しています。
ベットから起き上がれない身体。何かを頼もうとするたびに止まらなくなる咳。
病気がここまでひどいなんて思ってもいなかった。
「大丈夫かい。リーチア」
心配そうに声を掛けてくるのは、お姉さまの婚約者のロイドさま。
お姉さまに用があってきたついでにわたくしのお見舞いに来てくれたのかなと嬉しく思い、
「ロイド……さま……あり……」
「ああ。無理してしゃべらなくていいよ。ゆっくりお休み」
労わるように触れてくる手。それが汗でぼろぼろになった顔とか、風邪を引くからとそっと布団を掛けようとする時に胸に手が当たる。
「ロイド……さまっ?」
「んっ。どうしたのかな。リーチア」
首を傾げて尋ねてくる表情に自分が気にし過ぎかと、
「なんでも……ないです……」
と首を横に振った。
それからロイドさまは、よくお見舞いに来てくれた。
お見舞いに持って来てくれたお花を飾ってくれて、病気でも食べやすい物をとゼリーとかを持って来て、自らの手で食べさせようとする。
優しい方だと思ったのだ。最初は。
ベットから起き上がれるように背中を支えてくれて、口元にゼリーを持っていって食べさせてくれる。
だけど、背中を妙に撫でてくるし、ゼリーが口より大きくて零れてしまった時に指で拭いてくれて、その場所がなんと言うか……首から落ちて、その胸元に………胸の辺りに落ちても指で拭いて、
「あの、汚れ……」
止めてほしいとやんわり告げるが、
「ああ。ごめん。そうだったよね」
と布巾を取り出して拭いてくれるが、胸を集中的に撫でていて、
(これ、セクハラだ)
と言うかなんで近くにメイドがいるのにメイドは誰一人止めないのかと見渡すが、周りの目は微笑ましいものを見るようなものだったので誤解しているのだと気付いた。
たぶん、外堀を埋めているのだろう。わたくしの知らないところで。
そう思うと気持ち悪くなった。だけど、ここで吐いたらますます看病するという口実で居座るつもりだと思ったので、必死に耐えた。
人は気付いてしまうと今までの行為もすべて裏を取ろうとしてしまう。
体調を崩すたびにお見舞いに来てくれるのを姉のついでだと思っていたのだが、側に仕えているメイドではなく、姉の侍女。母の侍女が何らかの用事で訪れた時に正直に話してほしいと必死に頼み込んだ。
姉の侍女はこちらに怒りの感情を向けてきた。
「貴女が体調を崩して、我儘を言うたびにマリンダさまにリーチアさまが心配だから出掛けるのやめようとお断りの言葉を告げてくるのです。あんな男どうでもいいですけど、マリンダさまを悲しませるなんて許せない!!」
こちらが正直に告げてほしいと告げたからこそ出てきた本音で、あの男は姉よりもわたくしを優先している事実に恐怖を感じた。
そして、母の侍女に、
「将来妹になるし、このままの状態では結婚相手も見つからないでしょう。ならば未来の兄として労わってあげたいとおっしゃって……」
表面的には素晴らしい言葉だけど、今までの行いを見ているとそんな綺麗な言葉に寒気を感じる。だから、そんな正直に話してくれた姉の侍女と母の侍女に頼んで、信頼できる者で構わないからメイドとしてしばらく自分の側に置いてほしいと頼む。
そして、客観的にロイドの動きを見ていてほしいと。
どういう意味か分からない二人だったが、わたくしの言葉が母と姉に届き、それぞれ自分のメイドをわたくしの側につけてくれた。
それから数日後。
「体調はどうだい。リーチア」
いつものように気遣う声と共に、
「ああ。こんなに熱が……」
と身体を執拗に撫でるように触れていくロイドの手。それに必死に耐えて、
「今日は病気によく効くという飲み物を持ってきたんだ」
わざわざ自分が毒見をして、それを自分が口付けた場所を正面に持って来て、そこに口を付けるように促して、躊躇っていると、
「もしかして、コップを持つのも辛いのかな」
と支えるような仕草でコップを口元に押し付けてくる。その際背中を支えているふりをして撫でているのも鳥肌が立つ。
それに微笑ましいものを見るようなわたくし付きのメイドとそれに対して不快感を表に出さないように抑えている母と姉が信頼していると送り込んできたメイド。
メイドたちの目を通してすぐにこの件は報告されるだろうとわたくしの不快感を察してくれて。
「なぜだ。なんでだっ⁉」
窓の外。門の近くで喚く声が聞こえる。
「なんで婚約を破棄なんて、私はただリーチアを案じてっ」
「案じている相手にあんな行為をなさるのですね。最低です」
姉の声も聞こえる。
「あの男はリーチアさまと自分が想い合っているが、病気の件でリーチアさまが自分とのことを諦めてしまったが、ならば義理の兄妹として仲を深めていたとリーチアさま付きのメイドたちに話をしていました」
そんな嘘に騙されて主君たるリーチアさまに苦行を与えていた者たちは、即行首にしましたがと報告してくれたのは元は母付きのメイド。
姉と婚約してこの家を継げると思っていたのに姉の婿であって、継ぐことのできない鬱憤。後、姉の生真面目な性格が気に入らなかったから可憐な妹と愛を育んでいたと姉に向かって正直(?)に告げていて、姉のことを蔑ろにしていた。
それで姉は病気の妹を気遣って我慢していたのを姉付きの者たちがイライラしていた日々を過ごしていたのだが、今回真実が分かって姉が気づかなくてごめんなさいと謝罪してくれた。
母も父もそんな男を姉の婚約者にしてしまったことを悔やんでいたが、あっち有責で婚約が破棄出来たのだからもう思い出したくない。とこの件は終わりにした。
だけど、思う。
(前世の記憶が無かったら相手の行いがセクハラだと気付かずにされるがままだったのではないだろうか……)
それを考えると思い出してよかったと……。
もしかして、これが前世に願ったことに対しての罰だったのか。それとも別の理由だったのか。
それから数年後。病弱だったのが嘘みたいに健康になっていき。姉たち家族は、
「あの男が毒でも仕込んでいたのでは……」
と言っていたが、真相はいまだ藪の中であった。
まあ、それもありそうだけど、神様の許しが出たのかなとわたくしは自分の心の平穏のためにそう思っておくのだった。
婚約者との約束をすっぽかして病弱な異性のお見舞いって、こんな下心あるとしか思えなくて




