泥人形の怪
この話は私が子供の頃、父方の祖父から聞いたことである。しかもそれは祖父の子供の頃のことだったというので、実際にあったのはもうずいぶん昔のことになる。
祖父が子供の頃。
家が農家だったことから屋敷内には広い庭があり、祖父はそこでよく泥遊びをし、泥玉や泥人形を作って遊んでいた。
ある日。
祖父は近くにあった田んぼで泥遊びをした。
そこには材料となる粘り気のある土が無尽蔵にあり、それで泥人形を作って遊んだのだが、その日は自分の背丈と変わらないほどの大きな泥人形ができたそうだ。
その晩。
縁側の雨戸がドンと大きく鳴った。
それは雨戸に何かが投げつけられる音のようで、それも続けて三度ほど音がした。
何事かと家族全員で玄関から出て、音がしたあたりの縁側を明かりで照らすと、雨戸に泥の塊が投げつけられた痕跡があった。
そのとき……。
祖父は父親からこう問われたという。
「おまえは今日、田んぼで泥人形と泥玉を作って遊んだだろ」
祖父がうなずくと、さらに聞かれた。
「それでその泥人形はそのままか?」
「うん」
「その場所にこれから連れていくんだ」
普段はほとんど声を荒げることのない父親が、このときはいつになく口調が険しかったという。
祖父が泥遊びをした田んぼに案内すると、父親はそこにある泥人形をすぐさま叩き壊し始めた。そして、こう言ったそうである。
「あれはこれのしたことだ」
雨戸に泥を投げたのはこの泥人形で、雨戸に投げつけられていたのは泥玉だと……。
田んぼからの帰り。
父親は幼い祖父を諭すように話した。
田んぼで泥人形を作ったら、それは田んぼを離れる前に壊して、元の土に還さなければならない。
そのままにしておくと泥人形に、そこらに潜む何物かの霊魂が宿り、泥人形を作った者を呼びに来るのだという。
今にして思うに……。
この祖父の話は、子供が大事な田んぼで遊ぶことの戒めだったと思われる。
ただ実際。
泥人形が壊されるとき、祖父は泥人形の悲鳴のような声を聞いたとも話した。




