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第❶話 高二病と電気銃少女

 …現実は、アニメや漫画みたいに上手くはいかない。

 当然ながら、人生を変える様な運命的な出会いも、儚い恋も…そんな物語みたいな出来事フィクションは人生に訪れない。


 それでも愚かな人類共は、そんな冴えない日常に変化を望んでいる。

 …噂もそれと同じで、結局は皆んな、退屈な日常に刺激が欲しいだけなのだ。


 そんな退屈な日常を、俺…──南瀬みなせ律斗りつとは愛している。


 毎日の様に通る通学路、グルグル回るいつもの階段、退屈な授業、大してやる事も無い放課後と部活、俺以外に誰も居ない部室、変わり映えのしない帰り道…──きっとそんな平穏な日常が一番なのだと思う。


「はぁ…そろそろ行くか」


 俺は溜息の後に小さいく呟き、自分の席から立ち上がった。

 そのまま、放課後のHRが終わって騒がしくなった教室に目を向ける。

 クラスの連中が友人と馴れ合ったり、部活仲間と楽しいそうに教室から出ていく…。


 いつもの放課後、誰も俺なんて気にしないし、気に止めない。

 多分、この教室と同じ様に、俺が居なくなったとしても…世界は、何も変わらずに廻り続けるのだろう。


 俺は、それを横目で見ながら部室へと向かう…──そんな教室の、今日一度も使われる事の無かった席に目が行った。


 そういえば、このクラスになってから、こんな俺に話しかけて来るもの好きが居たっけな…そんな事を考えながら教室を後にする。


 廊下に出た俺を他の生徒達が避けていくのは…まあ、いつもの事だ。

 先程、自分が居なくなっても何も変わらない…なんて思ったが、少しは変わるだろうか。いや、無いか…


 そのまま俺は廊下を真っ直ぐ進んで、三階に続く階段へ登って職員室の丁度真上に位置する図書室に向かう。


 …そこが、我等がメディア研究部の部室である。

 メディア研究部なんて大層な名前だが、簡単に言えば図書部と写真部のハイブリッドだ。しかも、一番メディア感が強いパソコン部は入ってないという完全な名前負けである。

 それに部員の数は、俺を含めて八人で大半が幽霊部員だったり来たり来なかったり、活動は殆どしていないときた。


「まあ…誰も居ないよな」


 扉を開けて中に入るが、相変わらず図書室に他の部員は居なかった。…てっきり鍵が開いていたので、先生か滅多に来ない部長あたりが来てると思ったが…どっちも、一回来てからすぐにどっか行くからな…


 俺は、そのまま何処かの席に着いて、ソシャゲでもやろうと思ったのだが…──『ゴトッ…』と、隣にあるが図書室の中にしか入口の無い準備室から物音がした。


「ん?…なんだ?」


 部長がやっぱ来てたのか?…俺は気になって、そのまま図書準備室の扉に近付き、そこを開けた。


 …その瞬間、気付くと俺は思わず「はぇ?…」という間抜けな声を上げていた。


 …何故か、準備室には着替え中の知らない女子生徒が居たのだ。…いや、え?…何で鍵掛けてないの?

 思考は全てそっちに持っていかれているのに、その長い黒髪の女子の肌蹴はだけたカッターシャツの隙間から覗いた水色の布地に俺の視線は釘付けになる。


 しかし、自分の((無意識))に気付いて不味いと思った俺に対して、その少女は悲鳴を上げるでも怒鳴どなるでもなく、懐から何かを取り出して…──。


「…って、ちょっ…スタンガン!?」


 彼女が何処からか取り出したのはスタンガン…──しかもバチバチバチッとそれをそのまま俺に向けて来た。


「えっ?危なっ…!?」


 慌てて俺は後退するが、その拍子に尻餅を着いてしまう。…そんな俺を上から見下ろして彼女は言う。


「随分と大胆な覗きがいましたね」


 少し現実離れした光景に俺は身体は硬直してしまう…──下着姿にカッターシャツを羽織った女子高生に突き付けられた水玉模様のスタンガン…


 しかし、俺の目は先程までとは違い、そんな彼女の下着姿やこの現実離れした光景シュチュエーションではなく…──彼女の星空の様な綺麗な瞳に目を奪われてしまった。


「黙ってないで、何か命乞いをしたらどうですか?」

「いや…ごめん。着替えてんの知らなくて、ノックしなかったのは悪かっ…って命乞い?」

「はい、今から貴方の記憶をこれで消しますので、覗き魔さん」


 彼女はスタンガンを再びバチバチッと鳴らすが…日本のスタンガンはアニメや漫画みたいに気絶や記憶を奪うとまではいかない筈だ。…でも痛いのは勘弁だ。


「覗き魔じゃないし事故だ。…後、一応言っとくと、日本製のスタンガンに記憶を消す電圧は無いぞ」

「いえ、記憶が消えるまで((コレ))で頭部を殴打するので問題ありません」


 そう言って彼女は下着姿にカッターシャツを羽織ったままで、スタンガンを両手で持って振り上げた。


「…ちょっと、待って!?問題しかない!不可抗力だ!話せばわかる!」


 俺は咄嗟に両手で自分の頭を守りながら命乞い…いや、抗議をした。


「それが遺言ゆいごんですか?…在り来たりですね。まあ、貴方の最期の言葉は、ちゃんとメモしておいてあげます」

「待て、お前はアレなの!?…漫画とかに出てくる系の、被害者の最期の言葉をコレクションするタイプの殺人鬼か何かか!?」

「面白い事をたまう死人ですね、肉塊は喋らないんですよ?」

「まだ死んでねぇよ!?…てか目に毒だから服着て!?…」


 そんな感じで取り付く暇は無い。何なら俺の事をゴミを見る様な目で見ている。


「…おいおい、騒がしいなぁ。お前ら、図書室では静かにだぞー」


 俺が謎のスタンガン少女と攻防を繰り広げていると…呆れた声が図書室の入口の方から聞こえた。


「…って、南瀬が((新入部員))と図書室で不純異性交遊をしてるだと!?」

「どう見たらそう見えんの!?…明らかに絶賛襲われ中だけどぉ!?」


 俺は思わず、図書室に入って来た女性にツッコミを入れたが…この人は我等がメディア研究部の顧問で現国の担当教師である松井まつい理歩りほだ。


「いや、ドMな南瀬の趣味に合わせてるのかと思ったんだが…」

「教師相手に、『スタンガンで殴られるのが趣味です!』…なんて愉快な性癖を暴露した覚えはない!」


 そんな俺を見ながらニヤニヤと笑う松井先生…普段から俺を揶揄やゆして遊んでいるが、こんなんでも既婚者である。


「そんな事より松井先生!それ没収して下さい!その人、学校に関係ない物持って来てますけど!」


 俺は少女の手に握られたスタンガンを指差し、こちらに近付いて来る松井先生に必死に助けを求める。


「いや、最近は何かと物騒だからなぁ…別に良いんじゃないか〜?」

「アンタはそれでも教師かよ!」


 適当過ぎる顧問に再びツッコミを入れた。…しかし、既にその時には、彼女はスタンガンを振り上げた手を引っ込めていた。


「…それより芥、いつまでも下着姿で居ると風邪をひく、早く着替えてきた方が良い。…それに、目の前の男はお前みたいな後輩女子が大好物だからな!」


 松井先生は、今だ下着姿の彼女にそう言って着替えをうながし…俺は、羽織っていたカッターシャツで下着姿をサッと隠した彼女に睨まれる。


「…って、おおおい!?めっちゃ誤解されてるんでけど!松井先生!?」

「誤解?…お前の読んでるライトノベルのヒロインって後輩キャラばかりじゃないか」

「…馬鹿な、何故それを知っている!?趣味性癖の侵害だぞ!」


 そんなやり取りを松井先生とする俺に、スタガン少女は冷ややかな目で見詰めている。


「…なるほど、この男には用心します」


 そう言って、スタンガン少女はそのまま図書準備室の中に戻って行った。誤解はされたままの様だが…俺は取り敢えず床から立ち上がる。


「いや、別に俺は後輩好きって訳では…ん?ちょっと待て、新入部員?…さっきのスタンガン少女が?」

「そういや、南瀬には言ってなかったな。…新しく我らがメディア研究部に入る事になった1年生のあくた夜空よぞらだ」

「…いや、本当に初耳なんすけど?」

「すまんな南瀬、私は面倒だと思う事は後回しにするタイプでな」

「…この駄目教師め」


 松井先生と話していると、すぐに扉が開いて、制服姿になった先程のスタンガン少女が出て来た。

 …てか着替え早っ…というか本当に後輩だったのか、胸元のリボンが今年の4月に入学して来た新入生の証の桃色だ。


「そうだ芥、紹介してなかったが、コレは南瀬律斗だ。一応、2年で先輩だから困った事があれば頼ってやれ」

「先生、悪いですけどコレに頼る気は無いです」


 コレって言うな、泣くぞ…まあ、つまり松井先生が報告をおこたっていた…そして、この芥夜空って子はメディア研究部に入ったから先に図書室に居たらしい。


「…ところで芥は、何で図書準備室で着替えてたんだ?」

「…訳あって昼休みに制服がビショ濡れになったのでジャージで過ごしていたんです」


 びしょ濡れって…今日は雨も降って無いのに、何があれば制服がびしょ濡れになるのやら…


「…というか先輩、この流れで先程の事を無かった事にしようとしていませんか?」

「いや、あれは事故だって、謝ったじゃん…ノックしなかったの俺も悪かったけど、鍵を掛けてなかったお前も悪いだろ?」

「いえ、準備室の鍵が壊れていましたので」


 そういや、先週くらいに鍵が壊れてたっけ…いや、でも確か鍵の件は松井先生に報告した筈だ。


「…もしかして松井先生、まだ鍵なんとかしてくれてなかったんすか?」

「…悪いな南瀬、私は面倒臭い事は直ぐに忘れてしまうんだ」

「反省する気無いなこの人!?」


 全くこの先生は、面倒臭がりが過ぎる…まあ、割と去年からそんな感じだから慣れたけど。


「まあまあ、喧嘩はそこまでにしようじゃないか。…君達は同じ部活の先輩後輩になるんだ、握手くらいしたらどうだい?」

「…嫌です、こんなケダモノと握手なんてゴメンです」


 そう言いながら芥は俺にスタンガン向けて来る。どんだけ警戒されてんだよ、俺…


「…てか、こっち向けんなよ。危ないから、その物騒なの仕舞ってくれない?」

「物騒とは失礼ですね、護身用です。…というか、これ可愛いでしょ!?…ほら、良く見て下さい!」

「ビリビリさせながら、そんな危ないモンを近付けて来んなよっ!」

「…いや、先生は二人がもう仲良くなってくれて嬉しいよ」


|「どこが!?」(「どこがですか!」)…思わず俺も芥もハモってしまう。


「やはり仲が良いじゃないか。…どうだ芥、南瀬は目付きの割に悪い奴じゃなさそうだろ?…というかお人好しの馬鹿だしな」

「…こんな短時間で人のしなんて分かりません。人間は自分をいつわる生き物ですから」


 一言も二言も多い松井先生に色々と文句を言いたい事もあったが…一応、せっかく俺のフォローしてくれてるし黙っておこう。


 それに芥も、不服そうな顔をしながらスカートの中にスタンガンを…スカートの中!?どうやって仕舞ったの!?


「…仕方ないです、今回は見逃して上げますよ、先輩」

「おお、そりゃどうも…」


 芥と目が合う…──彼女の瞳は星空の様な青色…やはり、その瞳に思わず見惚みとれてしまいそうになる。


「えっと…まあ、よろしく。…特に先輩らしい事はできんけど…」

「先輩に期待なんてして無いので大丈夫です」


 しかし、何より…どこか詰まらなそうな…その目に、見覚えがある様な気がしたのだ。


 第①話 高二病と電気銃少女…[完]

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