過去の記憶と甘い時間
最近、話の内容をヘビーにしすぎたので少し甘めな話を書きたくなりました。
深冬ちゃんからデートに誘われた時、
なぜか胸がときめいてしまった。
昔、僕は夏蓮に恋をしていた。
そして今、目の前にいるのは――
その夏蓮によく似た少女だ。
そんな女の子にデートに誘われて、
何も感じない方がおかしいだろう。
午前十時。待ち合わせの時間だ。
風が少し冷たさを帯び、
秋の訪れを感じさせる。
しみじみと季節の変化を噛み締めていると、
スマホが震えた。深冬ちゃんからだ。
『もう少しで到着します!』
「お待たせしました!」
待ち合わせ場所に現れた深冬ちゃんは、
思っていたよりずっと静かな装いだった。
白でも黒でもない、
少しくすんだ青のパーカー。
主張しすぎない色なのに、不思議と目に残る。
袖は少し長く、指先が半分ほど隠れている。
下はシンプルなスカート。
動きやすさを優先したような丈で、
飾り気はほとんどない。
足元はスニーカー。
新品ではないが、
丁寧に履かれているのが一目で分かった。
目立たない。
でも、雑でもない。
髪は下ろしたまま。
きちんと整えているはずなのに、
どこか“整えすぎていない”感じがする。
アクセサリーは何もつけていない。
ピアスも、ネックレスも。
まるで、余計なものを持たないと
決めているみたいだった。
「……どうかしました?」
視線に気づいた深冬が、首をかしげる。
「いや。
思ったより、普通だなって」
「普通が一番楽ですよ。
期待されると、疲れるので」
そう言って、小さく笑った。
「それじゃあ、行きましょうか」
「どこに行くか、決まってるの?」
「ずっと前から行きたかった店があるんです」
店の前に立った瞬間、
甘い匂いが鼻をくすぐった。
放課後の喧騒に紛れながらも、
ここだけやけに穏やかな空気が漂っている。
「……ここ?」
思わずそう聞くと、
深冬ちゃんは小さく頷いた。
「はい。とても有名な店なんですよ。
たまたま予約が取れたんです」
「僕でよかったの?
他に友達とか誘わなかったの?」
「先輩と行きたかったんです。
ここ、カップル割があるので」
そう言って、少し照れたように笑う。
僕はそれ以上突っ込めず、
曖昧に相槌を打った。
店内は女性客ばかりで、
少し場違いな気がした。
適当に注文を済ませた後、
ずっと胸に引っかかっていたことを口にする。
「……ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「大丈夫ですよ」
「どうして君は、
夏蓮の妹だってことを隠して
僕に近づいてきたんだ?
僕のこと、知ってたはずだよね」
「簡単ですよ」
深冬ちゃんは、あっさりと笑った。
「面白かったからです」
その笑顔は、
驚くほど夏蓮に似ていた。
「……面白かった?」
呆然とする僕を見て、
彼女は言葉を続ける。
「濡れ衣を着せられてたのは
可哀想だと思いましたけど、
絶対にやってないって分かってたので。
少し、遊ばせてもらいました」
「……なるほど」
正直、まだ飲み込めてはいない。
僕からしたら、全然笑えない話だ。
「それより」
深冬ちゃんが姿勢を正す。
「私の本題を話しても、いいですか?」
そう言いかけたタイミングで、
注文していたものが運ばれてきた。
「……先に食べませんか?」
「そうだね」
パンケーキを口に運びながら、
意外と甘いものも悪くないな、と思う。
深冬ちゃんも、
美味しそうに頬張っている。
その姿を見て、
――ああ、この子も普通の女の子なんだな、
と少しだけ安心した。
食後のコーヒーを飲みながら、
改めて話を切り出す。
「それじゃあ……
さっきの話、聞いてもいい?」
「はい。
先輩には、私のお姉ちゃんから
手紙が届いたはずですよね?」
「あの手紙が、どうかしたの?」
深冬ちゃんは一度、カップを置いた。
「あれには、続きがあるんです」
ハーゼリーラ最終が古戦場までに間に合う気がしません。




