ジオファリン
きみは、生物が繁殖によって増えると考えてはいないだろうか?
実はそうではない。生物は、その種族の幸福度で増える。
考えてもみたまえ。幸福なホモ・サピエンスと哀れな野生の畜生とで、どちらが多いのかを。
しかし、その幸福も直に終わる。
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「先生! いかがでしょうか」
「ふむ。これはよくない」
「なにがでありましょうか」
一人の導師が、政治家に向き直る。
「最近の若者は、幸福度が足りん」
「それが出生率の低下、ひいては自殺の増加につながっていると?」
「人という種が自殺している。如何にもそうとも」
「如何いたしましょう」
「やむを得ん。ジオファリンじゃ」
「ジオファリン、でしょうか」
「うむ。人間に生まれたいという魂をジオファリンの幸福により増やすのじゃ」
そこからはとんとん拍子だった。ジオファリンを投与され幸福になった若者を見た魂たちは人間に生まれる。自殺者は減る。
「もっと増やせないのか?」
「人にせよ、ジオファリンにせよ、これ以上は増やせん。ジオファリンにおいては、緩やかに減らそう」
しかし政治家は、奴隷制のある国の政治家であり、もっと人が欲しかった。欲が出たので、ジオファリンを盗んだ。
ジオファリンは使っても減らなかった。全国民に、100ペンほど飲ませた。
……人々は、幸福に飽いた。ジオファリン以外の幸福にである。
電気も付いていない家で、赤子が泣いている。母親は乳房を垂れ、ジオファリンの余韻に浸っている。
おんぶ紐で抱かれた赤子は、乳房には目もくれず、ぐずっている。赤子もまた、ジオファリン中毒者であった!
電力消失により家電は動かず、インフラ整備はされず……事態を重く見た政治家は、ジオファリンを禁止した。6ヶ月を要した英断であった。
起きるべくしてデモが起こった。
そして政治家は、国外逃亡を図った。
道中彼は、道を塞いだ同僚により首を切られて死んだ。42歳の若さであった。
そしてこれが、彼のできる唯一の贖罪であり、彼の同僚のできた最後の善行であった。(最も、結果を見れば悪行かもしれない。)
かくして、ジオファリンは収まるべき場所、つまりは、彼の政治家の国民の国の中に納まった。
その悲劇の国はもうないので、ハッピーエンドであろう。
めでたし。めでたし。




