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風の国のお伽話(改稿版)  作者: 花時雨
第五章 旅立ち

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第九十八話 小物

承前


「謹んでお引き受け致します」

「おお! 受けてくれるか!」


 半ば諦めていたユーキの受諾の言葉に国王が立ち上がり、喜色を隠さずに大声を出した。


「ピオニル領臨時領主、謹んで(うけたまわ)ります。若輩で微力ではありますが、かの領民のために尽くしたいと思います」

「有難い、礼を言うぞ。ユークリウス、よくぞ決断してくれた!」


 国王はユーキの言葉を何度も頷きながら聞き、感慨深げに感謝の言葉を言った。そして部屋の隅に控えていた侍従に命じた。


「直ちに内相を呼べ。急いで任命の準備をするのだ!」


 命じ終わると国王は今更ながらに厳粛な顔を取り繕って椅子に座り直し、「オホン」と一つ咳払いをしてからユーキの方に身を乗り出して言った。


「ユークリウス。補佐にはできるだけ有能なものを付けるが、何か領政で困ったこと、わからぬこと、その他関係無いことでも構わん。何でも良い、何かあったら直ぐに知らせてこい。助けは惜しまん」

「有難うございます、陛下。お引き受けしたからには陛下に甘えることなく、自分でできる限りのことを致したく思います。ですがどうしても力及ばず領民を救えぬ場合には、お助けください」

「良くぞ言った。ユークリウス、我が民を頼んだぞ」


 満足そうに頷く国王の後を受けて、スタイリスとクレベール両王子が口々に祝いの言葉をユーキに述べた。


「ユークリウス、小さい領の臨時とはいえ、領主となったこと、祝いを言わせてもらおう。私も監察に連れて行った甲斐があるというものだ」「ユークリウス殿下、私からも。我々が受けられなかった任務を引き受けられたこと、感謝している。我々の分まで励んでくれると嬉しく思う」

「スタイリス殿下、クレベール殿下、有難うございます。また、監察の際の御指導も有難うございました」


 国王は王子たちが言葉を交わすのを聞きながら、表情を緩めて椅子の背(もた)れに体を預けている。緊張が解けたのか、顔から心労が消えて血色も良くなったように見え、出す声も柔らかくなった。


「ユークリウス、正式な任命は準備が整い次第だが、明日の午後にはできるであろう。謁見室で行うので、明日はそのつもりで登城するように。領主を命じられたこと、祖母や両親に早く知らせたいであろう。いろいろと準備もあるであろう。今日はこれで下がって良い。スタイリスもクレベールも御苦労であった。ああ、スタイリス、待て」


 国王はユーキに退出を許したが、自分も用事は済んだとばかりに早くも立ち去ろうとしていたスタイリス王子を呼び止めた。王子は足を止め、訝し気に振り返る。


「陛下、何か?」


 国王はそのスタイリス王子に声を重くして命じた。


「明日から、ユークリウスは領主の役に付く。お前は監察が終わり、無役に戻った。これまでは親族の気安さと見逃してきたが、明日からはユークリウスのことを呼び捨てにしてはならん。きちんと敬称を付けて呼ぶように。良いな?」

「……陛下の御命令とあらば、是非もなく。承りました」

「うむ。では、下がって良い」

「はい、失礼致します」


-------------------------------


 国王の執務室から廊下に出ると、ユーキは二人の王子に礼をして急ぎ足で去った。その小さくなる背中を弟と共に見送りながら、スタイリス王子が言い放った。


「ユークリウス『殿下』、か。敬称が欲しければ自分で言えばいいものを。気の小さい小物め。何度言ってやっても威厳というものが身に付かないから、いつまでたっても小物なのだ」

「そうでしょうか」

「ああ、そうだとも。今回俺が連れて行ってやって少しはましになったから、これからは目を掛けて使ってやろうかと思ったのにな。あんな田舎の小さな領を引き受けて嬉しそうにしやがって。何の良いこともないだろうに」

「かの領民を救いたいと思ったのでは」

「いや、むしろ自分の身の程を(わきま)えたのだろうよ。どうせいずれは臣籍降下の身の上だったのだ。行先が早く決まっただけだな。陛下にとってもいい厄介払いだ。あくせく働いて、そのうち子爵位を授けられて、小物らしくあの田舎に埋もれて行くのだろう。あいつにはお似合いだな。俺が『殿下』と呼んでやるのも、暫くの間だけだ」

「陛下は臨時とおっしゃっていました。少なくとも一度は中央に戻されるおつもりでは」

「ふん、どうだかな。俺やお前ならそうだったろうがな」


 クレベール王子の答えを、スタイリス王子は鼻で(わら)って振り返った。


「クレベール、お前はどうなんだ? 一時の事だと思うのなら、俺に遠慮せず、引き受けても良かったんじゃないか?」

「遠慮してはおりません。得にならないと思っただけです」

「そうか? 俺からうまく離れる好機だったんじゃないのか?」

「そのようなこと、考えたこともありません」

「嘘を吐け。俺の目の届く所にいたのでは、いつまでも芽が出ないと考えているくせに」

「そんなことはありません」

「はっ、まあいい。ああ、控室に茶を持ってくるように言ってくれ。俺は先に行って休んでいる」


 言い捨てるとスタイリス王子はすたすたと歩いて行ってしまった。離れていくその背中を見ながら、クレベール王子が呟いた。


「ユークリウスが、領を引き受けるのが領民のためになると思ったように、従者代わりにされてでも今は貴方の側にいることが国民のためになる、私はそう思っているだけですよ」


 つい口から出てしまった自分の言葉。クレベール王子は慌てて周りを見回した。幸い近くには誰もおらず、ほっと息を()きながら、兄が()いたユークリウス殿下への悪口雑言に思いを巡らせた。


『ユークリウス殿下は気の小さい小物』、これも貴族の間の噂にするのだろう。『馬鹿正直の糞真面目』、これは陛下が冗談でユークリウスに言われたことをスタイリスが宴席などで貴族に吹聴し面白可笑しく広めたものだ。

 ユークリウスがその通りの石頭の小物なのなら構わない。だが、もしそうでなかったら、広めた噂はかえって広めた者に(あだ)()して『小物は一体誰なのだ』と戻ってくるだろう。多分そうなりそうだ。


『威厳が無い』とスタイリスは言うが、見当違いもいいところだ。威厳とはあの男のように身分を笠に威張ることではないのだ。監察の際の最後の会議で、あるいは今日の子爵への裁断で、ユークリウスが意見を述べる堂々たる態度に多くの貴族が敬意を払って傾聴するのを目撃した。あれこそが威厳と言うに相応しい。

 陛下はスタイリスに、ユークリウスを敬称付きで呼べと言った。それは多分、陛下の心中ではもう既に二人の地位は逆転していることを意味しているのだ。

 もしユークリウスが臨時領主の難役を見事に(こな)して見せれば、王都に戻される時には間違いなく大きな役が与えられる。そこでも成果を上げればその先はどうなるか。


 一方のスタイリスは、自分の血が陛下に近い、容姿抜群で庶民に圧倒的な人気がある、その二つだけに頼り切り己を省みようとしない。学んで知識を蓄え根を張り巡らせ働いて経験を積み枝葉を茂らそうとせず、誰かが育てた果実が自分の手の中に落ちてくるのを待っているだけだ。これでは将来は先細りだし、仮に王となったとしてもお飾りにされて終わるだろう。

 ユークリウスを『使う』と言ったが彼を使い切れるわけもなく、むしろスタイリスが『仕う』になってしまうのではないか。


 だがそうは言っても、さてでは自分自身はどうかと(かえり)みれば、玉座に着き周囲の畏敬を集めるような人物ではないことはわかっている。

 いずれは他に生きる道を見付けねばならない。そうだとすれば、誰を抑え誰を扶けるべきかの決断の時が近付いている、そう思わざるを得ない。

 だが、何があっても母は絶対に護らなければならない。どうするべきか。母を父から引き離し、スタイリスから護ることさえできれば。しかし母は父を心から愛している。離れようとはしないだろう。どうすれば良いのか。


 クレベール王子は思案を巡らせながら、従者を探しに行った。




 その頃、国王の執務室を次の面会者が訪れていた。

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