第六十四話 魔の森の伝説
王国歴223年5月(前話の約一週間後)
監察団はピオニル子爵領を目指して出発した。
王族が正副使であるため、通過する各領では領主館に宿泊して領主あるいはその代理の挨拶を受けながらの旅である。
正使スタイリス、副使クレベールの二人の王子と随行の多くの者が馬に乗って前を進み、荷物等が馬車で続く。第三の王子ユーキも愛馬シュトルツに乗りクルティスと共に一行の中にいる。シュトルツはスタイリス王子の乗馬を見るや鼻息を荒くして近付こうとし、ユーキは慌てて手綱を引き絞って愛馬を宥めた。シュトルツは不満そうに前掻きしていたが、それでもユーキに従ったのは、彼もまた成長している証なのだろう。牧場にいた以前であればいきなり躍り掛かって噛み付いたかもしれない。
道中、初日はまあまあの天候だったが、二日目、三日目は雨風に見舞われた。毎年この季節特有の『春のエルフ渡り』と呼ばれる嵐だが、幸い今年は進めないほどの激しい風雨ではなかったので一行は騎乗用の合羽を羽織り、通常より遅いながらも先に進んだ。
三日目の宿に用いた領主の館で聞くと、天候は二日間相当荒れて主街道も南へは人も馬も、勿論馬車も通行できなかったと言う。どうやら嵐は南に偏ったようだ。
四日目、昨日までとは打って変わった好天に恵まれた。雨で埃が洗い流されたのか、この季節にしては空が抜けるように青く、鞍上は気持ちが良い。道は泥濘んで後続の荷馬車は遅れがちになるが、夜までに追い付いてくればそれで構わない。
行程はこの先、ローゼン大森林に沿って進むことになる。街から出て暫く行くと、雨で増水した、森の中から流れてくる小川に差し掛かった。
架けられた古びた木橋を渡るときに、スタイリス王子が川の流れを見ながら、誰にともなく言い出した。
「そう言えば、この森の中に小さな湖があるらしいな」
「ええ、それなりに綺麗な湖で干ばつの際も涸れないらしいです。千年ほど前には無かったらしいのですが、言い伝えでは、妖魔同士の争いで大きな陥没が生じ、そこにいつの間にか湧き出た水が溜まって湖となったと言われています。五百年前にはもう今と同じ程度の規模になっていたとか。この森自体、大昔はそれほど広くなくて荒れ地も多かったそうですが、湖ができてから繁りだし、今では国の南部を東西二つに分ける大森林です。今もまだ拡がり続けているらしいです」
一行の一人が答えると、スタイリス王子はそちらに顔を向けた。何の気無しに言い出したことだったようだが、思わぬ答えに興を唆られたようだ。
「ほう、イザーク、貴様詳しいな」
「はい、私の父の領はこの森に直接には面しておりませんが、隣接する親領である宰相閣下の御領は東側でこの森に接していますので」
「そう言えば、お前は宰相の紹介で俺の所に来たのだったな」
「はい、宰相閣下はわが父の寄親で、遠縁でもありますので」
そう答えたイザーク・アルホフ男爵令息は正使スタイリス王子の側近の中でも有能とされている一人である。今回は辺境伯と言う有力貴族からの訴えを受けての監察ということで、正使殿下が使い易く十分な能力を持つ者として宰相に選ばれている。
スタイリス王子は「そうだったな」と応じると、森の奥を見通そうとして投げた視線を上げて立ち並ぶ大樹を見上げた。
「それにしても鬱蒼とした森だな。今でも妖魔がいるんじゃないか?」
「殿下、この森の呼び名を御存じありませんか?」
「『ローゼン大森林』だろう」
「その通りですが、森の付近の住民は誰もそうは呼びません。『ローゼン』は実はこの森の主たる妖魔だと言われているそうで、その名を呼ぶのを恐れ、『黒く深き魔の森』と言います。この森は多くの領に跨りますが、どの領でも近在の村人はこの森には入りたがらぬそうで、事実上、どの領にも属さぬ扱いです。深く入り込むと妖魔の虜にされて、出てこられなくなるのだそうで。国の東西を繋ぐ道を拓こうと横断を試みた者もいたようですが、その姿は失せてしまったそうです」
「ほう。誰も生きて還った者はいないのか?」
「ほぼ皆無ですが。唯一知られている横断者は、宰相家の初代侯爵だけだと言われています。その初代侯爵も、横断については終生黙して語らなかったそうです。私も我が家の寄親である当代の宰相閣下にお話を伺ったことがあるのですが、お家の言い伝えでも初代侯爵は口を固く閉じて首を横に振り、唯一語ったのは『何者も彼の森に入ってはならん。樹を伐って土地を拓くなど以ての外である』だけだったそうです」
「ほう。余程の怖い思いをしたのか」
「それ以外の噂話では、昔に若い男が迷い込んで行方知れずになり二度と出てこなかったり、何十年も経ってから出てきたのに全く齢を取っていない若人のままであったり、そうかと思えば半日も経たずに出てきたのに爺になっていたり、などということも屡々あるとか」
「あっというまに老けたとは、湖の魔に捕まって、精を吸われたとか?」「それが美人なら、本望なんじゃないのか?」「初代侯爵も、森で良い思いをしたのを奥方に知られまいと沈黙を守ったのかも」
アルホフ卿が言い伝えを教えると、他の随行者たちがスタイリス王子への追従のつもりか、口々に茶化して笑った。
それに乗っかって、スタイリス王子も下らないことを言った。
「あり得るな。ユークリウス、お前はまだ女に縁がないんだろう? この間の宴席でも令嬢どもに良いように揶揄われていたそうじゃないか。この際、妖魔でもいいから相手をしてもらって経験を積めばいいんじゃないか?」
正使殿下がユーキを小馬鹿にして笑うと、周囲の何人かが「違いない!」と無礼なことを言って諂い笑いをした。相手をしても咎めても、どの道さらに揶揄われるだけで仕方がないので、ユーキは黙って放っておくことにした。
だが、それを機に、アルホフ卿以外の随行の者たちが口々に話し出した。
「最近も、人攫いから逃れようとして森に走りこんだ村の少女が、そのまま出てこられなくなったとか」
「うん? 私の聞いた話では、少女を攫った拐かしの一団が追手の衛兵から逃れようとして森に入ったところ、少女だけが森のかなり離れた場所から出てきて、拐かしも衛兵も諸共に行方不明になったことになっているが」
「村の少女じゃなくて、女行商人が盗賊に襲われて森に逃げ込んだんじゃなかったか?」
がやがやと笑いながらの下らない噂話だが、自分が知らない方に話が広がって気に障ったか、スタイリス王子が苛々した声を出した。
「ああ、もういい! 馬鹿馬鹿しい。ただ迷子になったものを魔のせいにしたがるとは、田舎者の迷信好きにもほどがある。それで森に入るのを怖がるとは、臆病者の言い訳にしても下手すぎる」
思いがけずお気に障ってしまったその御様子に、側近たちは慌てて機嫌を取ろうとし始めた。
「そうですとも、スタイリス殿下。湖の様子がそれなりに知られているということは、少なくともそこまでは無事に行って帰ってこられた、ということでしょうに」
「ここはひとつ、殿下が湖まで行ってその妖魔とやらを退治してみせられては? 勿論、私共もお供致します。そんなもの、実は臆病者どもの夢想の中にしかおらぬとは思いますが」
すると一人が如何にも『閃いた!』という顔付きで言いだした。
「今、良い伝説を思い付きましたよ! 湖の岸辺には不折の名剣が刺さっていて、それを抜いて持ち帰った者は愛を司る水の精の加護を得て救世の名君となり、絶世の美女を娶ると言われている、というのはどうです、殿下?」
「伝説を今思い付くって、おかしいだろ! どうですと言われても、そんなもの聞いたことが無いぞ」
スタイリス王子は眉を顰めて返したが、雑談とはいえ会話の中心が自分に戻ってきたのでまんざらでもなさそうである。言い出した男は、これは的に当たったと見てさらに話を盛り上げようとした。
「いえいえ、これから殿下が刺さった剣を抜くのです。そして完成した伝説を我々が広めれば良いのです。街の酒場で馬鹿な雀どもに酒を飲ませて話してやれば、勝手に囀ってあちこちに広めてくれますよ」
他の者たちも後から続いて尻押しをする。
「殿下の国民人気がさらに上がりますな!」「元々殿下は美しい令嬢方からも人気の的ですから、国一番の美女を娶られるのは間違いありませんしね!」
スタイリス王子はにやっと笑った。急拵えの与太話ではあるが、どうやら周囲から持ち上げられてお気に召したようだ。
「まあ、下々に広めるかどうかはともかく、宴席での話の種にはなるかもな!」
しかしこれでは監察の使命から遠く離れた道草だ。如何わしい話の成り行きに、ユーキが遠慮がちに正使殿下を諫めようとした。
「殿下、国王陛下の使者が寄り道をするのは如何かと思いますが……」
だが、正使殿下は「ふんっ」と鼻先で嗤うと顎をしゃくって一行が進む道の先を示して見せた。
「ユークリウス、つまらないことを言うな。お前は堅物すぎる。前を見てみろ。追い付きそうだろうが」
突き出された顎の先を辿ると、前方に先を急ぐ馬車が小さく見える。ピオニル子爵が乗る馬車だ。国王の監察団が来ることを自領に告げようと監察団に先んじて王都を馬車で出発したのだが、ここ数日のエルフ渡りの雨風で進めなかったのだろう、昨日に追い付いてしまったのだ。今朝は早くに慌てて宿を出発したらしいが、泥濘んだ悪路のせいで遅々として進まず、距離が開くどころか徐々に近付く有り様だ。このままでは追い付き追い抜いてしまいそうだ。
「監察の知らせと監察団が同時に着いては、何の準備もできんだろう。王族を迎える体裁が整わなくては、子爵も格好が付かんだろうし監察団の威厳にも関わる。余計な恥をかかせないために、ここは少し余裕を与えてやっても良いではないか。そのための待機なら、問題はあるまい? どうせ我々の荷馬車も遅れているのだ」
それは違うだろう、下らないお遊びをしている場合じゃない、隠蔽工作を防ぐためにできるだけ早く到着すべきだとは思ったが、団の権限を握る正使に逆らっても仕方がない。副使のクレベール王子も森の話をしたイザーク・アルホフ卿も何も言わずに黙って正使殿下に従う態度を見せている。
「承知致しました。お教え有難うございます」
ユーキが遜ると満足したらしく、スタイリス王子は側近たちと時間潰しの相談を始めた。
「それで、使う剣はどうする。俺が今帯びているやつは、皆が既に知っている銘剣だから、湖で抜いてきたといっても通じるまい?」
「剣など何でも良いのですよ。後から柄や鞘をそれらしく装飾してやれば済みますから。どんな剣でも使わなければ百年経っても折れることは無いのです。古い伝説の剣ならば、粗末な方がむしろそれらしいですな」
「そうだな」
スタイリスは団員たちをじろじろと眺めまわしたが、随行者の従者の一人に目を留めると「おい、お前」と声を掛けた。
「お前の剣を寄越せ。見た所、一番古めかしい安物はお前のやつだろう」
勝手なことを言われては、従者の男もさすがにむっとする。
「それはちょっと……」
「いいじゃないか。ただとは言わない。そんなに高くもないだろうが、色を付けてやる」
スタイリス王子はそう言って財布を弄ると、ヴィンド金貨を投げて寄越した。男は慌てて手をばたばたさせ、それを辛うじて受け止めた。腹は立てたようだが、今、腰に下げているのは普段使いにしている安物で、主に授かった大切な剣ではない。一ヴィンドあれば数振りは買える程度の代物であることは間違いないし、正使殿下に逆らってもこの先良いことは何もない。渋々、鞘ごと剣帯から外して渡した。
スタイリス王子はそれを左手に持つと満足そうにニヤリと笑い、木立の中に入ろうとする。
「では行くか。川沿いを行けば、道に迷うこともないだろう」
「あの、殿下、私はここで供の者と共に皆様をお待ちいたしますわ」
随行の一人が躊躇いがちに声を上げた。ベアトリクス・ディートリッヒ伯爵令嬢、随行者の中で唯一の女性だ。
「私は、魔とか霊とか、そういうものが苦手ですので、お恥ずかしい次第でございます」
「ふん、まあ、女は怖がりだからな。仕方あるまい、好きにしろ。男は全員来い」
スタイリス王子は言い捨てて森に分け入った。ベアトリクスとその従者を除いた随行者たちも続いて行く。
ユーキとクルティスは菫と菖蒲の言葉を思い出して顔を見合わせたが、正使の命令では止むを得ない。不承不承ながら従うことにして、森に向かって共に「失礼致します」と一礼してから後を追った。
一行は徐々に密になる木々の間を小川に沿って馬を進めた。当初は互いに軽口をたたいていたが、静まり返って鳥の声もしない雰囲気に、徐々に無口になった。
小一時間ほど行くと、湖に出た。一行が思っていたよりもずっと大きい。湖岸は大半が樹木に覆われて鬱蒼としている。向こう岸の木が低く見え、湖というより沼と言った方が良いような印象だ。
風の精の御威光がこの魔の森に届かなくはあるまいが、風は無く、湖の湿気で空気が重く感じられる。物音も無い。無風で葉擦れの音が無いばかりか、一同の馬の足音も草葉に吸われて響かない。自分の呼吸だけが掠れて聞こえる。まるで生きとし生けるもの全てが口を噤み息を殺し、身を竦めて物陰に潜んでいるような厳かさが漂っている。
「おお、如何にも妖精がおりそうな様子だな! よし」
スタイリス王子は道中ずっと森の雰囲気に気圧されていたが、辺りの情景に満足したのか、上機嫌で馬から降り、取り上げた剣を抜くと一人で湖岸に近付き、いきなり一度二度、左右に振った。
スタイリスたちから遅れて森から出てきたユーキは、それを見て思わず小さく叫んだ。
「危ない!」
だが、スタイリス王子は怪訝な顔をして振り返ると不満そうに咎めた。
「何が危ないんだ? 誰もいないところで何の危険がある。まさか、俺が自分の足を斬るような素人とでも思っているのか?」
「誰も? ……いいえ、申し訳ありません」
ユーキはスタイリスの言葉に戸惑う様子を見せたが、無礼を詫びた。それに満足したのか、スタイリスは気を取り直したようで剣を高く掲げた。
「ふん、良いだろう。では、伝説の英雄になるとするか!」
そう言いざまにもう一度振り下ろそうとした刹那、手が滑ったのか、剣を取り落としてしまった。
ユーキははっとしたが、スタイリスの手を離れた剣は地面に落ちず、そのまま空中に留まった。
「ん? 今のは何だ? これはどういうことだ? 何が起きた?」
スタイリスは驚きのあまり左手に持っていた鞘を取り落とし、右手を左手で押さえながら一歩二歩と後退った。
剣は空中で横に倒れたが、地には落ちず水平になって止まっている。かと思ったら次の瞬間、ふるふると震えながらゆっくりと回って向きを変え、先程まで自分を振り回していた相手に切っ先を真っ直ぐに向けた。
「ど、どうなっているんだ? 何だこれは?」
「え? え?」「こ、これは」
スタイリスと側近たちが口々に驚きの言葉を発する。ユーキも思わず「妖精?」と口にしてしまった。
皆が驚いているうちに剣は少し上がり、するするとスタイリスに向かって真っ直ぐに落ち掛かってくる。
「うわ! やめろ!」
咄嗟に避けようとした王子は尻餅を突いてしまった。「ひぃぃっ!」と情ない悲鳴を上げて瞑った目のその前を剣が通り過ぎる。そのまま真っ直ぐに、王子が力無く広げた両腿の間に落ち、グザッと濁った音を立てて地面に突き刺さった。
王子は顔面を蒼白にし後ろ手を突き這い下がって逃れると急いで立ち上がり、躓き転びしながらも馬に駆け寄った。狼狽のあまり何度か鐙を踏み外したが、馬の首にしがみ付き藻掻いて鞍に上がると、もう振り返りもせずに馬の腹に拍車を当てて一目散に逃げ出した。
他の皆も慌ててその後を追う。ユーキたちもそれに続いた。
声もなく数分間逃げたところで、スタイリス王子が漸く馬を停めた。皆が追い付くと、体と声を震わせて問い掛けるでもなく呟いた。
「何だったんだあれは……」
「殿下、妖魔が剣に憑り付いたのでは」
「何だと? ありえない! 何かの錯覚だ!」
周囲の一人が恐る恐る言うと、自分は認めないとばかりに大声で遮った。それでも体の震えは止まらず、顔も蒼褪めたままで叫ぶ。
「妖魔などいる筈が無いだろう! 見間違いだ! 俺は剣の達人だぞ! 剣が勝手に手を離れて俺を刺そうとするなんて! ありえないだろう!」
「そうですそうです」「殿下の剣が空中を勝手に動くとか、ありえません!」「剣が狂って殿下に刃向かうなど、あっていい筈がありません!」「その通りです」「錯覚に違いありません」「我々皆が夢でも見ていたのです」
周囲の者も蒼い顔で叫ぶ。口々になされた追従に少し落ち着いたのか、スタイリスは大きく頷いた。
「そう、そうだ。だが」
周囲を見回すと、無表情でいたユーキに目を止めた。
「剣をあのままにしておくわけにもいくまい。子供が拾いでもしたら危ないからな」
そしてニヤッと笑って湖の方向を指差して命じた。
「ユークリウス、取ってこい。お前、さっき『妖精?』とか言っていたな。いもしないものに怯えているようでは、王族の恥だ。剣を拾って、そのついでに妖精などいないことを確認してこい」
どうやら自分が怖い思いをした腹いせに、ユーキに肝試しをさせたいらしい。
「……承知しました」
ユーキは一瞬考えたがシュトルツの手綱を引いてその頭を返した。
すぐにクルティスが続こうとしたが、スタイリスが口を歪めて薄ら笑いしながら引き留めた。
「待て、お前は敷物を出せ。ユークリウスが戻るまでここで休憩する」
ユーキを一人切りで奇怪な場所に行かせ、脅えながら戻ってくる姿を曝させて嗤いものにすることで自分の醜態を無かったものにし、溜飲を下げたいのだろう。その意図に気付いた周囲の者たちは困ったような半笑いを顔に浮かべて黙り込んでいる。
クルティスは無表情のままユーキを見たが、ユーキが頷いて見せると「承知しました」と返事をして下馬し、周囲の者に気付かれぬようにまた森に向かって一礼して、「(暫し場所をお借り致します)」と心の中で呟いてから休憩の準備を始めた。
ユーキは急ぐでもなく躊躇うでもなく、湖畔で自分が見たもの、皆が口走っていたことを考えながら湖に向かってシュトルツを進めた。
どうやら、他の皆は剣が独りでに動いたと思っているらしい。自分が見たものとは若干違うようだ。
そのどちらにせよ、信じ難いことではあるのだが。
そうこうするうちに森が開け、先程の場所が目に入った。
それ、ユーキが見たそれは、まだそこにいた。こちらに背を向け、地面に刺さった剣を抜こうと踏ん張りながら。
ユーキがシュトルツから降り、手綱を立木に繋ぐ間も懸命に力を込めている。声を掛けるべきか否か迷いながら歩を進めると、その少女がこちらを振り向いた。
「やっぱり戻ってきたね。ちょっと手伝ってくれないかなあ、王子君」




