第百二十二話 仕込み
王国歴223年7月中旬
宰相ミンストレル侯爵に護衛として仕えるその男は、少し前からその酒場に、正確に言えばその酌婦のところに入り浸っていた。
酒場と称してはいるが、王都の南街区の花街通りからは離れたところにありながら、個室で酌夫酌婦が密に接客する如何わしげな店である。表立っては貴族や商人に密談用の場所を提供するという態で営業の許可を得ているが、店の前では厳つい用心棒が夕涼みをしている振りで腰掛に座り込み、当局や衛兵の手入れが来ないか見張りをしている有り様では何をか言わんや、である。
最初に訪れたのは偶然、気紛れである。
任務終わりのほっとした気分で普通の居酒屋で一杯やって、気持ちが軽く大きくなった。どこへ行くともなくふらふらと歩いていたら、客引きの女に袖を引っ張られてつい入ってしまったのだ。
そこであてがわれた酌婦が思いも掛けず好みの色女だったのが、運が良かったのか悪かったのかわからない。
いや、素面で考えればわかる。運が悪かったのだ。上位貴族の護衛、それも臣下の長たる宰相の身を護る者が来て良いような店ではない。それはわかっていたのだが、一度切りのつもりがつい二度三度と来てしまった。
「『リザ』と呼んでちょぉだぁぃ」と甘え声で言ったその酌婦は、男に会えば喜び、勤めを労い、些細な手柄でも打ち明ければ存分に誉めそやしてくれる。時につれない素振りをしたかと思うと、次の瞬間には、撓垂れ掛かって頼り切ってみせる。
手練手管とわかっていても、こちらの心の機微を読んでふとした隙間に入り込む。その上に男好きのする顔を緩めて柔らかい体をしっとりと押し付けられては堪らない。あっと言う間にどんどんと深入りして、今では当直明けやら非番の日にはずっとこの女のところで過ごすようになってしまっている。
こんな違法営業の店に足繫く出入りしていることが露見すれば、折角の名家での勤めを失うことになる。それはわかっているのだが、この女に囚われてどうにも離れることができないでいるのだ。
「ねえぇ、旦那さまぁ、暫く振りじゃないのぉ。ひどいわぁ。すぐにまた来るって言ってたくせにぃ。もうあたし、淋しくってぇ」
肩肘張った勤めで日中を堅苦しく過ごしている男には、女のこんなだらしのない口調ですら耳に優しく、心を解きほぐしてくれるように思えてしまうのだ。
「済まないな、リザ。任務の都合で止むを得なかったんだ。ほら、これをやるから機嫌を直せよ」
「あら! 嬉しいわぁ。……この首飾り、銀製ね。うふふ。ありがと。ねえ、掛けてくださらないぃ?」
女は服の胸元を開いて白粉が塗りたくられた肌を見せながら、男に向かって顔を突き出して目を閉じた。
「ああ、いいとも。ほらよ」
男が応じてその伸ばされた首に海色の石が下がった白銀の鎖を掛けてやると、女は両手を伸ばして男の首に回してぐいっと引き付け、男の唇に自分の真っ赤な唇を短く押し付けて離した。
移された紅を手の甲で拭いながら目尻を下げる男に、膨らみの半ばまで剥きだした胸を左に右に軽く回して今掛けてもらったばかりの首飾りの藍玉を、そして深い谷間を見せ付ける。
「どおぉ? 似合う?」
「ああ、良く似合ってるよ。大切にしてくれよ」
「ええ、わかってるわぁ。ほら、もう一杯飲んでちょおだいな」
女は男の腕に抱き着き、胸を押し付けながら男の杯に濃い酒をとぽとぽと注いだ。瓶を逆さになるまで傾けて最後の一滴まで垂らすと、嬉しそうに目顔で『飲んで』と促した。
「おう。今日は随分飲ませるな」
男がそう言って杯の半ばまでをくいっと飲むと、女は意味ありげに妖しい笑みを顔に浮かべて見せた。
「だって、明日は非番なんでしょぉ。沢山飲んでいい心持ちになってぇ、沢山楽しいことを二人切りでしましょうよぉ」
「ああ、よかろう」
「……ねえ、今度は黄金のが欲しいわぁ」
「金って、そんな高いもの、手が出ねえよ」
「あら、良いお家に勤めてらっしゃるんでしょぉ? 知ってるわよぉ。お給金も凄ぉく良いって」
「おいおい、大きな声を出すなよ」
密談用の部屋で声が他に洩れ出しはしないと知ってはいても、声高に言われると胆が冷える。男がつい咎めると、女は厚い下唇を尖らせた。
「声も出ちゃうわよ。あたしなんか、こぉんな場末の居酒屋で、普段は下種でいけ好かない男どもの酒の相手をしてるんだからぁ。貴方はあたしにとって特別の人だと思ってるのよぉ。貴方もそうなんでしょぉ?」
「そうは言ってもなあ、それを買ったらもうからっけつになっちまったんだ。当分我慢してくれよ」
「……そう、わかったわ。ねぇ、今日は部屋まで送って行ってくれるんでしょぅ?」
「ああ、勿論いいとも」
「嬉しいことぉ。さ、待っててねぇ、次のお酒を持ってくるからぁ。沢山飲んでねぇ」
そう言って座を外した女は暫くして新しい酒瓶を持って嬉しそうに戻ってきた。勧められるままにだらだらと飲み続けた男が女と一緒に店を出た時にはもう夜もとっぷりと更けていた。
繁華な通りは店から漏れ出る照明で少しばかりの明かりがあるが、少し歩くともう月明かり星明りしかない道も多い。女が片手に持ったカンテラだけを頼りに足元を確かめながら歩く。女はもう片手で男の胴を抱え、盛り上がった胸を押し付けるように寄り掛かっている。
酔って熱くなった顔には夜風が心地良い。
男は酒の酔いも助けに、女の肩を抱いて自慢げにしている。女は飲む振りをして実際にはあまり飲んでいなかったのだが、それでも酔っているのか、男の体重でふらついているのか、歩き方が覚束ない。
よたよたと二人で歩くうちに、女が横道の先を確めるようにカンテラを二度上げ下げした。
「こっちよぉ」
導かれるままに真っ暗な人気の無い道に入ると、向こう側に明かりが三つ、四つ、五つと現れた。
こんな所でも人通りがあるのだろう、足早に近付いてきた複数の人影と擦れ違おうとした時に、その明かりが立ち止まって男と女を取り囲んだ。
「よう、御機嫌だなあ」「別嬪さんといちゃいちゃと、見せ付けてくれるじゃあないか」
現れた連中は、カンテラの光を下から受けて、不気味な薄笑いを顔に浮かべている。
男は女を背中に庇って道の端に寄ると、怪しげな連中に向き合った。素早く目を走らせて相手を数える。六人だ。
「何の用だ」
「いやあ、大した用じゃない。俺たちもこれから楽しみに行こうと思ってたんだが、如何せん、懐が寂しくてな。ちょっと用立ててくれねえか」
連中の一人がそう言うと「へへっ」と一歩を近寄ってくる。男は一歩後退った。
「断ったらどうする」
「どうもこうもねえな。断ろうが断るまいが、もらうものはもらうだけだからなあ」
強請り集りの破落戸らしい。連中の頭と思しき男はそう言うと、周囲の者達に向けて顎を振った。それを合図に破落戸連中は一斉に手に提げていたカンテラを道の端々に置き、じりじりと詰め寄り始めた。明りを背後にした六つの影が、男女に向かって伸びてくる。顔は陰になってはっきりしないが、口の端が上がって見えるのは嗤っているのだろう。
頭の男が訳知り声で楽しそうに獲物に言う。
「お前さん、その風体からすりゃあ、結構な良家の御家中なんだろう? いけねえなあ、そんな安物の女に抱き着いてちゃあ。お家に知れたらどうするんだい?」
「……」
「なあに、心配するこたあねえ。俺たちは口が堅い。広い世間で折角偶然出会ったんだ。これから末永く仲良くしようじゃあねえか」
「そういうことか」
どうするべきか。男は迷った。
こう見えても宰相の護衛である。本気を出せば、そこいらのチンピラの三人や五人、斬って捨てることもできるだろう。だが今はかなり酔っているうえに、女が後ろにいる。庇いながら闘うのは不利が大きい。
腰の剣を抜けば、相手も刃物を出してくるだろう。刃傷沙汰の大騒ぎになると、例えこちらは罪にはならなくても衛兵局に事情を説明しなければならなくなる。
それに今は他に人気は無くても、刃音が響き悲鳴が上がれば、聞き付けた者が何事かと寄り集まってくるかも知れない。宰相家の護衛が場末の酌婦を連れて酔っぱらって人を斬ったという話を尾鰭を付けて広められては、主である宰相に迷惑が掛かり、自分は勤めを失うだろう。
それは困る。
幸い、辺りは暗い。カンテラの明かりでは俺の顔もそうはっきりとは見えないだろう。俺がどこの家中かも今はまだわかっていないはずだ。ここさえ切り抜ければどうということもない。
「有り金は出す。それで勘弁してくれないか」
取りあえず言ってみたが、連中に手を緩めそうな気配は無い。
「そうは行かねえなあ。これだけ人数がいるんだ。財布に入る程度の端金じゃあ話にならねえな。どうしてもって言うなら、お前、いい物を着ているじゃねえか。結構な金になりそうだ。それも身包み置いて行ってもらおうか」
「それは困る」
「良いじゃあねえか。どうせ女の部屋に行ったら、全部脱いでお楽しみのつもりだったんだろう? 手間を省いてやろうってえんだ。ああ、そうだ。剣は勘弁してやろう。裸の男が腰から剣やら何やらぶぅらぶぅらとさせながらうろつき回ってますぜって衛兵に教えてやれば、連中、喜んですっ飛んでくるぜ。お家にもすぐに知らせが走って行きゃあ、ますます楽しかろうよ。だが、そんな手間はいらねえ、さっさとお家と名前を言うんだな」
一人がそう言うと、他の連中も下卑た嗤いを合わせる。どうやらどうしてもこちらを喰いものにするつもりらしい。交渉の余地は無さそうだ。
「仕方が無い、ちょっとは痛い目を見てもらうとするか」
そう言うと、連中がさらに嘲り嗤いを深くした。
「おもしれえ、やってもらおうじゃねえか」
目の前にいた体の大きい男が拳を上げて見せる。
だがその時、「ガツッ」という音がして、連中の一番外にいた背の低い男が「ぐぇっ」と声にならない声を上げて倒れた。
「何だ!?」「どうした?」と連中の目がそちらに流れたその隙に、男は目の前の頭の男の顔に拳をお見舞いした。堪らず倒れた所に腹を蹴り上げると、反吐と共に悶絶した。
顔を上げると、最初の男に後ろから忍び寄って一撃で昏倒させたらしい者が、さらにもう一人の破落戸が振った手をいとも簡単に絡め捕っている。その手を軽く捻じって腰を落とさせ、腹に膝蹴りを入れると破落戸は膝から地面に崩れ落ちた。
相当の手練れだ。
その者は倒れた連中は放置して、こちらに走り寄ってきて横に並ぶと腰の剣に手をやった。
「良家の御家中と知って狼藉を働こうとした以上、無礼討ちされても不足はありませんね?」
そう言うと、すらりと鞘走りの音を響かせて剣を抜き、残りの連中に向かって構えて前に出た。すかさず横に並んでこちらも剣を抜く。
六人いた破落戸の三人が倒れ、残りは三対二である。
だが、助っ人に入った男が凄腕なのは一目瞭然だ。しかもその全身からは容赦なく斬り捨てようという殺気を、抜かれた刃に反射するカンテラの光よりも妖しく漂わせている。
勝ち目が無いと悟った破落戸たちは、倒れている男たちを助け起こすと、「くそぅ、憶えてやがれ!」とありがちな捨て台詞を吐いて逃げて行った。
助かったと安堵の息を吐いて剣を鞘に戻すと、助っ人に入った男も剣を収めながら声を掛けてきた。
「御無事ですか?」
「ああ、大事ない。お蔭で助かった。女連れでまともに戦えない有様で、貴方が来てくれなかったらどうなっていたかわからん」
「女連れ、ですか?」
「ああ」
そう言って振り返ったが、そこにいるはずの女はいない。いつの間にか逃げたのだろうか。大丈夫だろうかと心配そうにすると、助けに入った男は言い難そうに告げた。
「恐らく、その女とやらも連中とぐるだったのではないかと思います」
「何だって?」
「遠くからあなた方の明かりが見えたのですが、持っていたのはその女ですね?」
「ああ、そうだが」
「その明かりが二度上下したのを切っ掛けにして、あの連中の明かりが現れたのです。多分、獲物を連れてきたという合図だったのではと」
「そんな馬鹿な」
「勿論、はっきりとはしません。ですが、もし良家の御家中なのであれば、あの連中の言う通り、その手の女とは繋がりを断たれた方がよろしいのでは? 実は私も似たようなしくじりをしましたので」
確かに、あの女には随分貢いで、懐はかなり寒くなっている。今回与えた銀製品で、蓄えも底が見え始めている。この上に贅沢な品を強請られては、自分の財布だけではどうしようもなくなるところだった。『蜜が枯れればフェアリーも花弁を蹴って去る』と言うように、あの女もこちらを見捨てるついでに強請り集りの餌食にしようとしたのかも知れない。
未練は無いではないが、身綺麗にする良い機会かもしれない。
それよりこの男だ。
相手が六人もいたのに物ともせずに助けに飛び込んで来た。腕は見ての通りだし、そのうえ義侠心も相当なものだろう。
このままにしておく手は無い。
道に置かれたカンテラを取り上げて男をよく見ると、服は粗末なうえに、継ぎ接ぎがあちこちにある。おそらく仕官先を何かの過ちで首にされ、苦しい暮らしをしているのだろう。
それならば。
「恥ずかしながら確かに言われる通りだ。考え直すことにする。御助言忝い」
「それが良いでしょう。それでは」
感謝の言葉にそう軽く応じると頭を軽く下げて去ろうとする男を急いで引き止める。
「お待ちあれ。私はエンテルという者、よろしければお名前をお聞かせいただきたい」
「名乗るほどの者でもありませんが、シュレーゲと申します」
「シュレーゲ殿、危難を助けていただいて、そのままお別れするわけにはいかない。何かお礼をさせていただきたい」
「いえ、そのようなつもりではありませんので」
「そう言われてもこのまま何もせずにお帰ししては、私が主人に叱られる。先程、しくじりをされたと言われた。失礼ながら、もしや仕官先をお探しではないか?」
シュレーゲと名乗った男はエンテルの問いに俯いたが、顔を上げると恥ずかしげに打ち明けた。
「……どちらの御家をしくじったかは、どうか御容赦ください。実は勤め先を探しており、今日も伝手をあれこれと辿ろうとしてうまく行かず、その帰りなのです」
「こう言っては無礼だが、それは好都合。実は、私の主が護衛を増やそうと腕の立つ者を探している。先程の荒技、シュレーゲ殿であれば願ったり叶ったりというもの。よろしければ明日、我が主、宰相ミンストレル侯爵閣下のお邸をお尋ねくださるまいか。お礼代わりに私から主に推薦させていただきたい」
「エンテル殿、願っても無いことですが、本当によろしいのですか」
「無論。ひょっとしたらこの命を奪われていたかも知れなかったのだ。御恩を返させていただきたい」
「……実を言うと、夜道を歩くのに灯りも持てず、明日の糧の当ても無いほどに困窮し、藁をも縋りたいところでした。ではお頼りさせていただいてよろしいでしょうか」
「是非に」
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ペトラ・グラウスマン伯爵は弟のトーシェ・シェルケン侯爵の邸に現れると、従者は別室に待たせ、トーシェが待ち構えている応接室にずかずかと早足で向かった。
案内の者が引き下がって扉を閉めると、部屋の中にいるのは姉弟と、壁際に控えたシェルケン家に代々仕える忠実な家令のハインツの三人切りである。
ペトラは内心の喜びを隠し切れず、顔に笑みを浮かべながら弟に近付くと嬉しそうに知らせた。
「トーシェ、シュレーゲはうまく入り込んだわよ。身元は消してあるから、ミンストレル如きに覚られることは無いでしょう」
トーシェは得たりと立ち上がり、拳を握った。
「よし、ペトラ姉さん、やりましたな」
「ええ、やったわよ」
「重畳、重畳。ですが事有るまでは宰相閣下奴に誠実に忠勤を励み、決して疑われることが無いようにさせてください」
「わかってるわよ。大丈夫。あの子はそんなヘマはしないわ。誰かさんがどこかに送り込んだ代官とは違うわよ」
ペトラは皮肉な笑顔を浮かべながらトーシェの隣の大きな安楽椅子に体を沈めた。
侯爵も椅子の間に据えられた楕円の卓の上に用意された二つの玻璃の杯に赤々とした葡萄酒をとぽとぽと注ぎながら、ごまかすように「はっはっは」と笑う。注ぎ終わると杯を両手で取り上げ、一つを姉に渡して椅子に戻った。
「姉さん、その話はもうお止めください。仕掛けに使った連中はどうされました?」
「雇った破落戸どもは始末できたけど、女は姿を晦ましたわ。素早い女狐だわね」
伯爵は杯を弟に向かって差し出した。
「その女にこちらの名は明かしていないでしょうな」
「当たり前でしょ、大丈夫」
「ならば上々、捨て置くのが良さそうですな。退く汐時を心得ている女ならば、仮にこちらを知ったところで脅してくるような愚かな真似もしないでしょう」
侯爵も杯を高々と掲げた。
「迂闊なるミンストレル宰相閣下の残り少ない人生の幸福を祈って」
「あらあら。乾杯」
二人は嬉しそうに口を付けると葡萄酒を一気に干して杯を卓に置いた。口の回りが付いた酒で赤黒く汚れているが拭おうともしない。
「姉さん、腕利きを出していただき、感謝しますぞ」
トーシェが再び葡萄酒を注ぐと、ペトラは杯の脚を持ち顔の前でゆらゆらと揺り動かし、片目を閉じて赤い液体越しに見えない弟を睨んだ。
「トーシェ、あの子は私の取って置きよ。上手く使って、決して犬死にはさせないでよ。指示は私の方から出すわ。迂闊にそちらから接触してミンストレルに露見するようなことは絶対にしないでよ。それに事が終わったらまた私の手元に戻してもらうから」
「わかっていますとも」
侯爵は姉に応じると、脇に控えていた家令ハインツを振り返った。
「どうだ、ハインツ。お前は危ういと反対したが、儂たちの思惑通りうまく行ったであろうが」
「御意。畏れ入りました」
「シュレーゲは折角送り込んだ毒だ。ここぞという時に上手く使わねばな」
「閣下、一つ間違えば両家の破滅に繋がりかねません。何卒慎重にお願い致します」
「わかっているとも。ここ一番という時にな。既に策は考えておるよ。見ておれ、今度は成功させて見せるからな。がっはっはっはっは」
「そうよ、今度こそ。ぐほっほっほほほ」
「……何卒」
侯爵と伯爵、太ったきょうだいの濁った高笑いが室内に響く。家令の冷えた返事は二人の耳には入らなかった。




