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風の国のお伽話(改稿版)  作者: 花時雨
幕間

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117/133

あいだのはなし3 行き詰まり

 王城のテレーゼ・コルネリア王城侍女取締の部屋に一人の女が人目に付かぬように訪れて来た。テレーゼからの依頼を受けた衛兵局上層部が寄こした、捜査担当の古参の衛兵である。

 デイン子爵が花園楼に偽名を用いて上がり込み、菫と菖蒲、二人の禿に狼藉を働こうとしたことをテレーゼが国王に報告した結果、秘密裏に調査せよと命じられてそれを依頼したのだ。


「コルネリア様、例のデイン子爵の件、現状を報告いたします」

「御苦労様です。どうなりました?」

「はい、実の所を申し上げると、行き詰っております。調べ始めて以降は、デイン子爵が花街へ向かったことはありません」


 女が申し訳なさそうに告げる言葉を聞いて、テレーゼの顔が少し曇った。


「そうですか。それ以外で目立った動きは?」

「子爵は屡々(しばしば)、シェルケン侯爵の邸を訪れております。ですが……」

「ええ。デイン子爵の娘は、シェルケン侯爵の継嗣に嫁いでいますからね。可愛い娘に会いに通っていると言われれば、怪しいとは言えません」

「はい。頻度が高いと言えば言えますが、それでどうこうとは」

「あの娘もシェルケン侯の継嗣も、悪い噂は聞きません。特に娘は、父に似ぬ心根の優しい娘と言うのがもっぱらの評判ですね。他には?」


 続きを促された女は少し声を潜めた。


「実は、花街から少し離れた通りの、目立たない商店を子爵が何度か訪れております」

「何を商う店ですか?」

「ありきたりの雑貨屋で、裕福な貴族が訪れる様な店ではないのですが。ごく平凡な中年の男が一人で店番をしております」

「詳しく調べたのですか?」


 テレーゼが少し身を乗り出して尋ねる。


「はい。商人ギルドには加盟しておりませんでした。それを不審として店番の男を問い質しましたが、『グラウスマン領の本店経由で商務局の認可は受けている、自分は主ではないのでギルドに加盟していない経緯は分からない』と。確かに認可状に正規の印が捺されており、それ以上の追及はできませんでした」

「そうですか」


 手掛かりにならない答えに、テレーゼは体を戻して残念そうに応じる。女は申し訳なさそうに報告を続けた。


「主の所在も問い質したのですが、グラウスマン領の本店から出て来ず、荷物と指示書のやり取りで済ませていると。その指示書も確かめましたが、品ごとの値段の指示程度で、特に怪しいことはありませんでした」

「人はどうでした? 怪しげな者の出入りであるとか」

「数日観察を続けましたが、客は庶民を中心にちらほらと。下級貴族の子弟らしい風体の者もおりました。特に変わった出来事もありませんでしたが、あえて怪しいと言えば、雑貨商としては王都で商いを続けて行けるような客の入りではなかったということぐらいでしょうか」

「収支が不自然な可能性がありますね。商人ギルドに入っていないのであれば、税務局から実態調査はできませんか?」


 テレーゼはまた身を乗り出したが、女は残念そうに肩を竦めた。


「それが、私もそう思って税務局の友人に様子を尋ねたのですが、人手が減ったために、寂れた商店の調査に回す手数は到底無いと素気(そっけ)無く言われました」

「そうですか。あそこはディートリッヒ嬢が抜けてユークリウス殿下の所へ行ってしまいましたからね」

「はい。頼りにしていた手練(てだ)れがいなくなって、てんやわんやで種々の業務が山積しているとのことでした」

「あの娘は嫋やかな見掛けによらぬ仕事師ですからね。では、容疑の固まらぬ調査には手は回りませんね」

「申し訳ありません」


 女は頭を下げたが、テレーゼは強く労わった。


「いえ、それは貴女の責ではありません。ディートリッヒ嬢の辞職は本人の希望ですから、ユークリウス殿下を責めることも出来ません。気にしないで下さい。他にわかったことはありませんか?」

「はい、デイン邸の周辺の衛兵詰所に聞き込んだところ、夜中に何度か荷車が出入りするのを見たことがあると」

「どのような?」

「大きめの箱荷を積んでいたとのことですが、それだけでは特に怪しいとも思えず、荷改めはしていないとのことです。一度だけ行先を尋ねたことがあったそうですが、自領と言っていたとのことです」

「夜間に王都を出入りしていれば、目立つでしょう。関所の出入りは?」

「当たってみましたが、夜間の子爵家名義の出入りの憶えがある者はおりませんでした。かと言って、王都内のどこかで時間を潰して日中に出入りをしていれば、わかりません」

「そうすると、本当に領との往復か、あるいは王都内のどこかと荷のやり取りをしているかについても、はっきりしませんね。荷のやり取り自体はどの貴族家も普通に行うことですしね」

「そうなります」


 どうやらこれ以上の情報は得られそうにない。テレーゼは「ふぅ」と嘆息したが、どうしようもない。


「わかりました。止むを得ません。この件は、一旦置いておくとしましょう。デイン子爵も暫くは派手な騒ぎは起こさぬでしょうが、何かが起きた時に再度ということにします。有難うございました。上にもいずれお礼に伺うとお伝え下さい」

「承知しました」

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