⑦真実は
私の覚束なげな声が届いたのかアラリオン様は此方に目を向けてくれた。
「エイルリス嬢、回復された様でなによりです。私はアラリオン·ヴァンペールと申します」
私は我に返って慌てて返事をした
「あ…、これは失礼致しました。私はエイルリス·ブランシェットと申します。私の方こそ命を助けて頂いた上に長い間此方で療養させてもらったのに感謝の言葉も述べずお恥ずかしい限りです…大変申し訳ございませんでした」
彼が獣人だという事を忘れ深々と頭を下げた。
「エイルリス嬢、顔をお上げ下さい。酷い怪我を負われていたのですからお気になさらず。それよりも、歩けるまでに回復され本当に良かった」
美しい金の瞳に見つめられ何だかソワソワと落ち着かない…。
獣人がこんなに穏やかで紳士的だとは…いえ、それより今は先程の会話の内容が真実なのかが知りたかった。
「アラリオン様、先程のお話は本当なのでしょうか」
アラリオンは少しだけ考える素振りをみせたがすぐにはっきりと言い切った。
「エイルリス嬢、あなたは人間だから信じたくはないだろうが先程話した事に嘘偽りはない」
初対面だがこの短時間でもアラリオンの実直な人となりは感じていた。
アラリオンが嘘をついてるとはとても思えない…でも私の心が強く拒否する。今まで信じていた物はなんだったんだろう。頭ではわかっているのにまだ人間を信じたい気持ちの方が強かった。
「アラリオン様が嘘をついてるなどとは思っておりませんが私はその現実をすぐには受け入れる事が出来ません……人間の世では小さな頃から獣人の残虐性を教え込まれながら育つのです。あ、でもエララやアラリオン様の様な優しく穏やかな獣人もいると、この王国に来て初めて知りましたし…帝国に戻った際にはその事を皆に伝え広めますわっ」
動揺した私のとんでもなく失礼な言動に3人の獣人に再度殺気が走る…が、その3人とは対照的に穏やかな表情でアラリオン様が口を開く。
「勿論です。長い間自分が疑う余地なく信じてきた事が瞞しだったのですから受け入れるにはそれ相当の時間が必要になるのは当然ですよ、エイルリス嬢が改心される事を期待せずに気長に待っておりますね。あ、それと帝国にお戻りになられた後の啓発運動は一切不要です。この王国の事は全て忘れて下さって結構ですので」
「………………。」
笑顔で優しく言ってるようだが、辛辣な言葉にしか聞こえず顔がひきつる。
この人は私(人間)を受け入れてる様で実際は誰よりも嫌悪しているのではないかしら?奥底に隠してる淀んだ気持ちを感じ取った私は好印象だったアラリオン様がどんどん嫌な人物に見えてきた…。
「そ、それに力も身体能力も人間など獣人の足元にも及びませんわ。そんな弱い人間が獣人の王国に入り先程聞いたような内容の事が出来るとは到底思えないのですが!」
私がそう反論すると
「確かに身体能力では間違いなく獣人の方が優っていますが、あなたも人間ならわかってますよね?獣人には使えない魔法が人間の世界には存在してる事を」
そう。アラリオン様が言ったように人間は魔法が使える。しかし全ての人間が強い魔法を使えるわけではない。平民など生活魔法のみで、指先に小さな炎を出すとかコップ1杯の水をかろうじて出せる程度だし、中には全く魔力がなく魔法を使えない人間だっていると聞く。
貴族になればもう少し強い魔法が使えるが…。
幼少期に発現する魔法は1人1つの属性しか持てない。
火属性なら火の魔法しか使えない。他も同様。
私も確かに使える…使えるが、他の家族に比べたら微々たる物であって全く比べ物にならない。大人になれば魔力が増える人が多い中私は幼少期から変わらず…それがずっとコンプレックスだった。
「どんなに屈強な獣人であろうとも人間の魔法の前では張り子の虎になってしまう」
アラリオン様が少し悲しそうにそう言った。




