㊾ペリウィンクルの過去6
「お前はこっちだ」
結局あれからすぐにカーマインは警備兵に捕まってしまった。擬態がすぐに解けてしまったからだ。
あれが僕の能力?子供ながらに不思議な力だと思う、まるで魔法みたいだ。
カーマインは猿獣人達とは離され1人だけ違う牢へと連れ行かれた。どうして僕だけ違う場所に連れてくの?…あんな猿でもまだいた方がマシだ、1人ぼっちになる事がカーマインは大嫌いなのだ。
暗く冷たい牢へに1人っきり、寂しくて震え隅で丸まっていると数人の足音が此方へ向かってくる…警戒し体が少し強張る。
「ふむ…こいつか」
カーマインの牢の前で止まった男がポツリと呟く。
見上げればそこには何とも立派な格好をした偉そうな男が蔑むように見下ろしている。
「左様でございます。陛下」
「こいつは、人間との混血…か。これは良い素材を見つけたな」
「はっ、早速準備に取りかかります」
「うむ、確実に成果をあげよ」
『へいか』と呼ばれてるこいつが偉い奴なのか?
それにしても素材とか準備とか何を言っているんだろう?不思議に思っていると、牢の鍵が開けられ兵士が強引にカーマインを引きずり出した。
普通の人ならばこんな扱いを受ければ憤ったり、又は恐怖を感じたりするだろうがカーマインはこの様な扱いをされても当然だと感じていた。
何故なら今までこういう扱いしか受けて来なかったのだ。
「付いてこい」
「はい…」
カーマインは大人しく兵士の後を付いていく。
暗い城の中がまるでこれからの自分の行く先を示してる様な気がした。
***
「どうだ?実験は進んでいるのか」
「はっ、毎日様々な実験を繰り返していますがまだこれといった成果は出てなく…」
「まぁ、良い。そんなにすぐに何か見付かるとは思ってない、だが手を抜くなよ」
「勿論です!いずれ必ず良い知らせをお持ち致します」
「そうか、楽しみに待ってるぞ」
◇
カーマインは冷たい石の床に力なく横たわっていた。
今がもう何時なのか朝なのか夜なのかすらわからない。
痩せて枯れ枝になった腕には数えきれない程の注射痕残されており皮膚は赤や青、紫に黄色と斑に変色している。
「おい、採血の時間だ」
いつもの検査人が入って来てカーマインの腕に躊躇なく太い針を刺し込み血を抜いていく。
適量を抜き取るともう用はないとばかりにさっさと部屋から出ていってしまう。
針を刺した箇所からは血が滲み出ているが、カーマインはそんな事は微塵も気にならなかった。
するとまたすぐに扉が開く、今度は食事を運んで来たらしい。
「おい、まがい物、飯だぞ」
ここでは皆がカーマインを『まがい物』と呼ぶ。
人間と獣人の混血…それがまがい物らしい。
「ありがとうございます」
カーマインはお礼を言うと食事を受け取ろうと細い腕を伸ばした。が、受け取る寸前でわざと木の盆ごと床に落として来た。
ガシャーンッッ…
食事は無残にも全て床にぶちまけられてしまう。
「あー、すまんすまん、手が滑ってしまった」
「…………」
「ん?何か文句があるのか?」
「いえ、何も…」
「そうか、じゃあ俺は忙しいからな、ちゃんと拾って食えよ」
そう言って出ていってしまう。
こんな事も何てことはない。三回に一回は落とされるからだ。
まともに手渡されると逆に驚いてしまうくらい日常的な光景だった。
それでも床に落とされるとまともに食べれる物がほとんどなくなってしまう…スープは床に流れ染み込んでしまうし、メインの漉した芋は粉々になって拾うのも一苦労だ。
なので口に入れられる物は元の半分以下となり、どんどんと体が痩せ細ってしまうのも当然の事だった。
カーマインは床に散らばった食べ物を拾えるだけ拾い、取りきれない物は出来る限り舐め取った。
プライド何て何もない、ただ生きるためだけに動くだけ。
でも、でもさ…自分は何故生きているんだろ。
◇
「うーん…まただめか…」
「また失敗?」
「いや、失敗というか…あいつの血液からじゃ、人間の情報は読み取れないのよ」
「やはりまがい物じゃなぁ」
「あぁ、だが陛下もしびれを切らしてるだろうからな、そろそろ何かしら成果を上げなくては」
「まぁな…はぁ。厄介だな」
「あ、でも先日陛下の妹君のアメリア様がご出産されただろ?その事で今はあいつの事なんて頭にないんじゃないか?」
「まぁ確かに。陛下はアメリア様を溺愛されておられるからな。そのお子となればさぞ可愛くて仕方ないだろう」
「だろだろ?暫くそちらに意識が行ってもらえると助かるな」
◇
カーマインは非常に耳が良かったため数メートル先にある違う部屋の会話くらいならば難なく聞き取る事が出来た。
ふぅん…あの偉そうな奴の妹の子供かぁ…。
それはそれは大切にされて愛されるんだろな。
僕とは真逆じゃないか、生まれ落ちた場所が違うだけででこんなにも変わるのか?
それって、すごく不公平…。
カーマインは見たこともないその赤子にほの暗い感情を抱かずにはいられなかった。
この先も光輝く未来がある子供…カーマインはそれからはずっとその赤子の事が頭から離れなくなってしまった。どんな顔をしているんだろう、どんな風に愛されてるんだろう…気になって気になって仕方がなかった。
そしてある日転機はいきなり訪れた。




