㊽ペリウィンクルの過去5
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あの日からどれくらいがたったのだろう…
幼かったカーマインは成長し体も少し大きくなっていた。
「おいっ、ガキ!さっさと運べよ!」
硬い木の実を投げつけられ顔に当たったが、カーマインは何事もなかったかの様にそれを拾い上げ沢山の木の実の中に積み上げた。
「すみません、すぐ運びます…」
一見とても1人では運べない量だったが泣き言を言えば容赦のない暴力が待っている。
それにカーマインはこの猿の獣人達よりも余程力がある為、重い木の実が積み上げられた手押し車をゆっくりだが確実に動かしていく。
それを見ていた猿の獣人は戦いた表情をして見ていた。
「チッ…気色悪い奴め…」
ここには50人程度の猿の獣人が暮らしている。
だが同じ場所にずっと留まっているわけではない。猿獣人達は盗賊のようなもので、国からの追っ手が迫れば今いる棲みかをあっさりと捨てて逃げる。それを長年繰り返していた。
カーマインがこの猿獣人に囚われてから幾度と拠点を変えていたがここに来てからはいつもより比較的長く居着いている、珍しい事だった。
しかもこの場所は人間との境界線でもあるルーンの森の近くであったためカーマインは遠い記憶の中にあった母を頻繁に思い出していた。
あまりに幼かったのではっきりとは思い出せないが、それでも母の優しさや温もりを決して忘れる事はなかった。
あの森へ1人置いてきてしまった…あの時小さなカーマインに出来る事など何もなかった、それでも胸の中には後悔と罪悪感がずっと渦巻いている。
自分はいつまでこんな生活を続けなければならないのだろう…
しかし1人で暮らしていくなど到底無理な話だ。
何の力も後ろ楯も教養もないカーマインなどすぐに野垂れ死ぬだけだろう。
自分のことなど気にかけてくれる存在などこの世界には誰もいない。
誰よりもカーマインを愛してくれた母はもういないのだから...。
カーマインはルーンの森がある方向に目を向けた。
あの森のずっと向こうには人間の世界がある、かつては自分もそこで暮らしていたのをうっすらとだが覚えている。常に母と2人だけだったがそれは今のカーマインからしたらどれだけ幸せだったのか…大好きな母と2人だけでいれたあの頃の暮らしを思い出しては苦しくなってしまう。
今の自分の姿を母が見たらきっと悲しむんだろうな…。
夜になれば季節は秋とはいえ肌寒くなる。
カーマインは簡易的に作られた食糧庫の前で見張りに付きながら横になる。
ここがいつもの寝床なのだから。
中に入る事は許されていないので入り口の前に藁を敷き詰めて体を丸める。こうするとかなり温かい。
猿獣人達は皆テントを張りその中で休んでいる、定住出来ないためにテント生活になるのは致し方ないのだ。
なかなか寝付けなかったカーマインも次第にうつらうつらと睡魔に襲われて夢の中へと入っていった。
────…。
何十分経った頃だろう、かすかな物音が聞こえカーマインは目を開く。
何だ?いつもと何かが違う…気配が…何か沢山の─まさかっ!!!
「起きてっっ!警備兵だ!!」
カーマインが大きな声で叫ぶと、隠れていた警備兵達が一斉に飛び出して来た。
「1匹足りとも逃すな!!!盗賊を全て捕らえろ!!!!」
指揮官らしき者の声が聞こえ大勢の兵達が猿獣人が寝ているであろうテントへと押し入っていくのが見えた。
今までも危ない事は何度もあったがここまでの危機はさすがになかった。
潜伏パターンを読まれてしまったのか明らかにここに潜んでたのをわかっていたとしか思えない。
まずいまずいまずい!!このままじゃ皆捕まってしまう!数時間前までは静寂に包まれていたこの場所が今や阿鼻叫喚と凄まじい光景へと変貌していた。
どうしてよいかわからないカーマインはその場に立ち尽くしていたがとうとう1人の警備兵がカーマインへと手を伸ばしてきた。
「お前は猿獣人ではないな?他獣人の子供が何故ここに…」
カーマインは警備兵の手を振りほどいて力いっぱい駆け出した。
「あっ!!おいっ!待てっ」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
カーマインは幼い時に母と逃げたあの光景を思い出していた。
逃げなければ逃げなければっ!
そう思えば思う程パニックになり足がもつれ派手に転んでしまう。駄目だ追い付かれる!!
そう思った時に体がカッと熱くなり今までに感じた事のない不思議な感覚に包まれる。
何だ…?これは…。
すると追いかけきた警備兵がすぐ近くで立ち止まった気配がする。
あぁ…もう駄目だ。捕まってしまう。
カーマインが諦めかけた時、警備兵が困惑の声を出す。
「確かにここで転んだのを見たのに……いない?」
隠れる場所などない空間だ。警備兵はキョロキョロと辺りを見回すがさっきの子供はどこにも見当たらなかった。
「…ん?」
下を向けば足元に1匹の大きな蜘蛛がいたのだ。
「うわっっっ!く、蜘蛛!」
巨大な蜘蛛に驚いた警備兵は逃げる様にその場を後にした。
カーマインは呆気に取られていた。
何故あの警備兵はカーマインを見て蜘蛛だと叫び転がる様に逃げて行ったんだろう…?
まるで自分が蜘蛛に見えてるかのようだった。
だがそれは紛れもない真実で、カーマインは蜘蛛へと擬態していたのだった。それが獣人としての初めての能力の解放であった。




