㊼ペリウィンクルの過去4
「こいつは…蛇族か?珍しいな」
男達は倒れてる女を見て目を見開く。
「おかあさんにちかづくなっ!」
カーマインが小さな体でめいいっぱい威嚇するか男達は鼻で笑う。
「何だ、このガキ生意気に威嚇してやがるぜっ」
「この女のガキか?ならこいつも蛇…ん?いや…こいつ人間の匂いがするぞ…?」
「───…本当だ、獣人の匂いもするが人間の匂いのが強いな…!!おいっ、まさか混血か!?」
「はぁ?おいおい、それはないだ…いや…この匂いはそれ以外考えらんねぇな」
そう言うと女のそばに屈み顔を乱暴に上に向けた。
「やめろっ!かあさんにさわるなぁ」
カーマインは飛びかかったが男に軽く突き飛ばされただけで簡単にゴロゴロと転がってしまう。
「こいつぁ、綺麗な女なのにもったいねぇな!いくら俺でも屍には興味ないからな」
「俺はいくら綺麗でも蛇は御免だっ!」
「だなっ!ハハハッ」
「それにしてもこのガキはどうする?置いてくか?」
「いや…顔も見られてるしな。クソ人間の匂いがするが連れてくか?長に判断してもらうしかない」
「そうだな…おい、ガキ付いて来いっ」
そう言われたがカーマインは女にしがみつき離れようとしなかった。
「くそっ!面倒くせぇな」
男はカーマインの首元を掴むと荒々しく持ち上げた。
「わぁぁ!いたいよぉ!はなしてえ、おかあさんっおかあさんっ」
「うるせえっ!!!お前の母親はとっくに死んでるんだから諦めな」
「しんでる?しんでるってなに?」
幼い上に赤子の頃から女と塔に閉じ込められていたカーマインは普通の子供よりも更に無垢でもあり無知でもあった。
「いいから来いっ」
強引に持ち上げられどんどんと母から引き離されていくカーマインは恐怖から過呼吸になり苦し気に身悶えする。
「カハッ!…!ハッハァッ!」
男達はそんな苦しんでいる幼子を見ても微塵も情など沸かない所か鬱陶しそうに見てカーマインの頬を叩いた。
パシーンッと静かな森の中に鋭い音が響き渡る。
「おいっ、あんまり騒がしくすると見張りにばれちまう!」
「わかってるよ…」
「念のために上から行くぞ」
すると男は素早い動作でスルスルと木に登り、木から木へと軽々と飛び移って行く。
男達は猿の獣人なのでこれくらい朝飯前なのだ。
カーマインは頬を強く叩かれたせいで軽い脳振とうを起こしたのか意識が朦朧としていた。
母の元からどんどんと離されてしまうが今のカーマインには正常に物事を考えられる状況ではなかった。
暫くすると完全に意識を失いその身をだらんと男に委ねるだけとなってしまう。
──カーマイン達が立ち去ったその森に1人残された女は男が言う様にすでに事切れていた。
自分が力尽きる前になんとかカーマインを獣人の国へ連れて行こうと必死で頑張ってきた、だが無情にも出会えた獣人達は善ではなかった。
しかしそれを知る前に女の命は尽きてしまったのだ。
森の中を柔らかい風が吹き抜け散った葉が隠すように女の上にそっと降り積もる。
カミー…カミー、どうか幸せに。
女の願いが木霊し風と共に虚しく彼方へと消えて行った。
***
「う…う…ん」
カーマインの意識がうっすらと少しずつ浮上し目を擦りながら起き上がった。
「ここはどこ…おかあさんは?」
カーマインの他には誰もいなく薄暗い狭い空間はカビ臭く湿気でじめじめとしている。
カーマインはより一層不安になり大きな声を出して母を呼んだ。
「おかあさんっ!おかあさんっ!どこにいるのっ」
どんなに叫んでも母はカーマインのそばにやって来てはくれなかった。
『お母さんはカミーとずっと一緒よ』
そう言った母はもうカーマインのそばにはいない。
「おかあさんのうそつき…」
大きな瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
「はやくおかあさんのところにもどらないと」
きっと母はあの場所に一人ぼっちでいるのだろう、カーマインは立ち上がり出口を探すが薄暗いせいかどこが何処だか全くわからず暫くぐるぐると回ってみたが疲れて座り込んでしまった。
その時ガサガサとどこかから音がしたと思ったら突然光が差し込み眩しさに手で顔を覆い隠した。
「おい、ガキ。長が呼んでる来なっ」
またもや乱暴に腕を掴まれ強く引っ張られた。
「いたいよっ!付いていくからつかまないでよ」
だが男はカーマインの言葉が聞こえてるのか聞こえてないのか何も言わずずるずると無言で引っ張っていくのだ。
カーマインは幼いながらに男に対して言い知れぬ恐怖を感じた。この男は子供だとて容赦などしないだろう。
本能で何かを感じ取ったカーマインはそれ以上は騒がずに男に逆らわず大人しく付いて行く。
そして連れていかれた場所は男達の長と言われる存在の元だった。
「──、そいつが人間との混血か…ふむ、確かに」
長はクンクンと何かの匂いを嗅ぐ仕草をしてから顔をしかめた。
「長、こいつをどうされます?」
男が聞くと長は少し考えた後に
「わしはな、心底人間が嫌いでな…お前には何の咎もないが、その血を持った、ただそれだけで最大の罪を犯してるんじゃよ」
長がカーマインにゆっくりと近付いていく。
恐ろしさから後ずさろうとするがそれをあの冷酷な男が阻む。
長がカーマインの目の前に屈んで目を合わせる。
「お前の事は殺さぬ…だが死んだ方がマシだと思うかもなぁ…ヒヒヒッ」
長の顔が醜く歪み下卑た笑いを浮かべた。
その長が言った通りそれからのカーマインの暮らしは本当に辛く苦しい物となったのだった。




