㊻ペリウィンクルの過去3
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女は後ろを振り返らずに一心不乱に森へと歩を進める。
「ハッ…ハッハッハッハッハッ」
呼吸をする事さえ余計に感じる程に全力でカーマインを守りながら逃げた。
背後からは沢山の人間達の怒号が聞こえてきたが女の早さには付いてこれないのかだんだんと声が遠ざかって行くのを感じ少しずつだが落ち着きを取り戻してきた。
──────後数キロで森へと辿り着く。
先程よりもスピードを下げた女は背におぶったカーマインに声を掛ける。
「カミー、怪我は痛まない?大丈夫?」
「だいじょうぶだよ!それよりおかあさん、背中…」
兵士に切られた背からは少なくない血が流れでておりカーマインの服を赤く染めていたのだ。
「ふふ、お母さんこのくらいなんて事ないわ」
「うそだ!こんなにちが出てるんだよっ」
「おかあさんは強い獣人なのよ、こんな怪我はあっという間に治ってしまうのよ。だから安心してカミー」
「……ほんとう?おかあさん、ぼく1人にしない?」
「当たり前じゃない!お母さんはカミーのそばにずっといる…離れるわけないじゃないの」
「そっかぁ、よかった…こんどはぼくがおかあさんをぜったいまもるからね」
「あら、カミーはとても頼もしいのね!お母さん嬉しいわ…」
「いたぞ!!!あそこだ!逃がすなっ」
2人の会話を邪魔する様に兵士達の声が遠くから聞こえたが、追い付かれる前になんとか森の中へと逃げる事が出来た。
その後も足を止める事なく進み続け森の奥深くまで来てようやく歩みを止めた。
「ハァハァハァハァ…」
休むことなく進み続けたせいか胸の動悸はなかなか治まらず地面に踞ってしまう。
「おかあさん、へいき?くるしいの?」
「大丈夫よ、ハァ...ハァ...ちょっと疲れただけ。後少しすれば元に戻るわ」
しかし、疲労だけでなく背中の傷も今では耐え難い痛みと熱を持ち始めていた。そして流し過ぎた血のせいか目眩も激しくなってきており強い不安に駆られる。
このまま自分の意識が無くなればカミーを危険に晒してしまう…気力が保てるうちになんとか獣人の国へ行かなければ…。
疲弊した体に鞭を入れ女は立ち上がる。
「カミー、ここはまだ危険なの。まだ先へと進まなければいけないんだけど頑張れる?」
「おかあさんといっしょならがんばれるよ!」
「そう、カミーは本当に強い子ね…お母さんにしっかり掴まっててね」
「わかった!」
それから女とカーマインは休むことなくまた進み続けた。
辺りはだんだんと暗くなり灯りのない森の中は月の光りだけを頼りに進むしかなかった。
カーマインは女の背の上でいつの間にか寝てしまった様だ。起こさないようちょっとだけ動きを緩め振動が行かないよう気を付けながらも進む。
女の体力もそろそろ限界に近付いていた。
傷の痛みも背中にいるカーマインが触れる度に体に電気が走る。血は既に止まってはいたが目眩はよりいっそう酷くなっていた。
後少し、後少し…後少しで獣人の国…。
女はそう自分を叱咤激励し進む。
この子だけは守らなくては、私の可愛いカミー。私の大切なカミー。私の愛するカミー。
女はカーマインを守りたい一心でようやく気を保っているだけなのだ。自分1人ならとっくに力尽きていただろう。誰かを守りたいという気持ちは時に底知れないパワーを引き出すのかもしれない。
夜が明ける頃、意識が朦朧とする女の耳に何かが聞こえる。
足を止め耳をすませばそれは誰かの話し声だった。
「おい、夜が明けちまう。そろそろ帰るぞ」
「あぁ、結構取れたしな…見つかってもまずいしな」
気配や匂いでわかる。間違いない、人間ではなく獣人だ。
それがわかったとたんに安堵からか体から力が抜けその場に倒れてしまう。
「わっ!!」
女の背で眠っていたカーマインは地面に投げ出され優しい眠りから強制的に目覚めさせられた。
「いてて…お、おかあさん!だいじょうぶ!??」
「……!!!誰だっ」
カーマインの声を聞いた2人の獣人は警戒した様に声を荒げる。
2人はそろそろと近付いてみればそこには意識を失い倒れている女とそのそばにしがみつく幼い子供がいた。
「はっ…!びびらせんなよ女とガキかよ」
女の必死の願いも虚しくカーマインの辛く苦しい運命が今まさに始まろうとしていた。




