②獣人王国シルヴァラ
暗闇の中からだんだんと意識が浮上していく。
ぼんやりと開いた視界に見慣れない景色が広がる。
ここは…?どこ?
「くっ…!うあぁ…!?」
体を動かそうとしたとたん感じた事のない激痛が体中を走った。あまりの痛みに嫌な汗が一気に吹き出す。
何が起こったの…。痛みに顔をしかめ視線だけで辺りを確かめるとシンプルながらとても手の行き届いた清潔な部屋である事が確認できた。しかし、全く見たこともない部屋である。
いったい何が起こったの?ここはどこなの?
不安になりながらも記憶を辿っていくと、朧気にあの日観た舞台の事や馬車で起きた事などを徐々に思い出していく…
あ…あの時の衝撃。馬車が崖から転落したのね、きっと。私が近道をしようなどど言ったから…
ネリスや御者はどうなったのかしら。
まさか…二人の事を懸念し青ざめていると
コンコン、とノックが。
「失礼致します」
女性の声が聞こえそちらに目線を向けると…その人物を見て驚愕に目を見張った。
部屋に入って来たのはなんと、獣の耳が生えた獣人の女だったのだ!
「い、いやぁぁ!!近寄らないで!」
私は体の痛みも忘れ叫んでいた。
「あら、気が付かれたのですね。ですが私、かなり耳が良いものでしてご令嬢のお声が大変響くのでお静かに願います」
獣人の女は怯える私の事はあまり気にせず言葉を淡々と返してきた。
「な、なんなの!獣人がなんでいるのよ!」
「なんでと言われましても、ここは獣人王国シルヴァラですので当たり前なのですが」
…………は…??
今、この獣人は何と…?
獣人の王国?え??
あまりの衝撃に思考が追い付いていかない。
私はアシュリング帝国の伯爵令嬢で
あの日舞台をを見て、それから馬車で帰宅途中に転落して
…で、何で獣人の王国に。。。
私の疑問に答える様に獣人の女が口を開いた
「詳しく話すと長く(面倒に)なるので要約いたしますと、こちらの城主ドリスタン様のご子息アラリオン様がたまたま馬車の転落に居合わせ、命の危険にあったあなた様を放置出来ずお助けになったと、まぁ、だいたいはその様な経緯ですねぇ。ちなみに私はメイドのエララと申します。不本意ながら城主様から命じられた為(渋々)令嬢のお世話させて頂きますので宜しくお願い致します」
な!な!何この失礼な獣人女は!?不本意って!腹が立ったが痛みで動けない上に一応は世話になる身として文句も言えず怒りをぐっと耐えた。しかも要約し過ぎだわ…それでも何となくは経緯は理解したが、そもそも帝国に獣人がいたなんておかしい。
帝国に入国するには厳しい検問があるはず、獣人などがやすやすと入れる訳がないのに…とにかく詳しい話は体調が回復してから聞けばよいか…。疑問は山程あるがひとまず胸にしまう。
それに1番知りたかったのは
「じ、侍女は?私の侍女のネリスは無事ですか?後、御者も…」最悪の事も考え心臓がばくばくと聞こえそうなくらい打ち付けている…でもきちんと知っておかなければ
私は覚悟を決めて獣人女に聞いた。