①プロローグ(不穏な始まり)
あくまで個人の創作の物語です。時代設定や背景など史実を参考にする事はありますが創作部分も多々入っておりますのであまり気にせずに物語の世界観を楽しんで読んで頂けたら幸いです。
ガラガラガラッ…
夜の貴族街を一台の馬車が先を急ぐ様に走り抜けていく。
外の様子とは違い馬車の中では楽しげな少女の声が明るく響いていた。
「ん~、今日は最高の舞台だったわ!お父様に無理を言ってでも来て良かったぁ!」
伯爵令嬢であるエイルリスは感動冷めやらぬ様子で頬を紅潮させながら余韻に浸っている。16歳の貴族令嬢にしてはいまだに子供っぽさが抜けきれていないのだ…
「エイルリス様、お声が大きいですわ」
対面して座っている侍女のネリスは困った顔をしつつもエイルリスのそんな所がどうしようもなく可愛くて仕方ないのだ、だが専属侍女として時には心を鬼にしビシリッと言わなければならない。
そんなネリスの心の葛藤も小言も綺麗に聞き流し舞台のシーンを思い浮かべる。残忍酷薄な獣人に囚われた姫を王子が果敢に助けだし、紆余曲折を乗り越え固く結ばれるという恋愛要素も取り入れつつも中々の冒険活劇だった。
中でも獣人の演技をした俳優には驚かされた。震えが来るくらいの怪演で心底恐ろしく狂暴な生き物だと再確認できた程だ。その野蛮な獣人が軽快に切り捨てられるシーンでは大いに盛り上がった…皆が拍手喝采であった。
私もスカッとして思わず興奮し夢中で拍手してしまい…思い出しながら少しだけ痛む手をスルリと撫でる。
うずうずしながらこの感動を共有してもらいたく向かいの席に目を向けると、侍女ネリスは少し焦った様子でソワソワしていた。
「お嬢様、旦那様にお戻りになられるよう言われた時刻に間に合わないかもしれません…」
演者にトラブルがあったようで劇の開演時間がほんの少しずれてしまったのだ。
「ネリスったら、そんなに心配しなくても大丈夫よ。事情を話せばお父様だって怒ったりしないわ」
私は楽観的にくすくす笑うがネリスの焦りは収まらないようだ…。全く心配性ねぇ。
それに今日はお父様におねだりしていた新作のドレスが届いてるはずなのよね、ふふ、明日のお茶会にそのドレスを来ていこうかしら。
私は不安よりそのドレスの事で逆に心が浮き立っていた。ネリスも心配してるし、早くドレスもみたいし…そうだわ!
「先日のお茶会でお友達に良い近道を聞いたのよ。いつも真っ直ぐに行く分かれ道の所を左に行ってちょうだい」
「近道ですか?その様な道は聞いたことございませんが…?」
「心配しないで、ネリス。信頼してるお友達から確かに聞いたのよ、その道を通ればきっと時間より早く戻れるはずよ」
ネリスは不安気な顔をしていたが私は御者に近道を使う様伝える。ふふ…これで早くドレスが見れるわ!
今日は素敵な舞台も観れたし、欲しかったドレスも届いてるはずだし何て良い日なのかしら…気持ちが更に高揚した瞬間
ガガガガガガッ!!!!!
凄まじい衝撃がエイルリスを襲った
突然馬車が大きく傾き体が無重力の様に浮き上がった
同時に体の至る所を強く打ち付け痛みに顔が歪む…
何が起こったのか深く考える前に意識が遠退き始めた…
「お嬢様ぁぁぁ!!」
ネリスの悲痛な叫び声が聞こえると同時に何か温かい物が私の体包み込んだた気がした…そして私の意識は完全に暗転する。
暗い中慣れない道を通った御者が運転を誤り崖から転落してしまったのだ。
エイルリスやネリスを乗せた馬車はカラカラと音を立て暗い闇の中へと吸い込まれていった…
初投稿です、読んで下さりありがとうございます!
これからも頑張りますので宜しくお願いしますm(__)m