スリーカード22
「商店街で売られていたものだ」
地雷を取り出した時にそう説明したのはジェフだった。
「直接埋めて使用するのは勿論、プラスチック爆薬なんかもこの辺のコミュニティ相手にした防衛用のものらしい。こういう状況に備えて用意しておくべきかと思ったんだが……」
そこで一度言葉を途切れさせて、彼は少しだけ表情をほころばせてから付け足した。
「……子供がいるところでは使えない」
「正しい判断ですね」
子供の遊び場に地雷が残るのがどれほど危険かは、俺だって想像がつく。今回設置するIEDだって、どこに何を仕掛けたのかはしっかり記録を残しておかなければなるまい。
そんな経緯でかき集めた爆発物を作っている間にも、エリカは一度窓の方を見て、テープを貼り終えたカナとロックに手を振って見せていた。
窓にテープを貼るのは爆発その他で割られた際に破片を飛び散らなくするためのやり方だ。実際にはあれ単体ではなくカーテンも閉めることになるだろうが、それでもやっておいて損はない。
加えて、どうやっても隠すことのできない程の規模で大人たちが何やら見慣れない物々しい動きをしている――それも見知らぬ連中と一緒になって――という状況で、小さな子供に余計な不安を煽らないという意味もある。
隠しとおすのではなく、自分もその一端を担う、役割を任せられるとあると、子供は結構乗り気になるものだ――勿論、その本当の目的=遅くともあと12時間以内には発生するだろう襲撃への備えだという事は伏せてあるが。
「よく懐いているよな」
その一部始終を脇目に見ながら土を詰めていたところで、唐突にジェフが口を開いた。
どうやら彼も同じものを見ていたらしい。俺が彼の方を見ると、彼は小さく「彼女だよ」と付け足した。
そこで不意に思い出す、中学時代の記憶。
どういう理由でかは忘れてしまったが、多分授業か何かの一環で近所の幼稚園児とのふれあいみたいなイベントに参加させられたことがあった。
数人で班を組み、幼稚園児たちと対面する訳だが、その時同じ班に四人姉弟の長女だった子がいて、やたらと園児たちの扱いというか、人心掌握とでも言えばいいのかが手慣れていた。エリカの境遇はよく知らないが、もしかしたら彼女もそういう類なのかもしれない。
とにかく、俺たち五人と草刈り機は、それからそれぞれお互いの仕事に集中した。
土嚢とIEDの作成が終われば、俺たち三人は合流して、完成したばかりの土嚢を積み上げて陣地形勢に移る。エリカがこっちの方も手慣れていたのは言うまでもない。
玄関前=今まさに刈り取られている目の前の休耕地を見下ろせる石垣の上に築かれたその土嚢の壁は、人間三人=俺とエリカ、それにジェフが隠れるのには十分な長さと、伏せていれば完全に身を隠せる高さになっていた。
それが終われば、俺たちは次の仕事、即ちIEDの設置と潜伏場所の確認に向かう。敵に見つからず、かつ襲撃側が意識しないような場所への設置。一見すると矛盾している条件だが、それでも隠そうと思えば候補は見つかる。
――あとは、連中がそれを見破る装備や能力を持っているか否かだ。
一通りIEDの設置と隠蔽を終えて向かうのは先程選定した団地の前の民家。その陸屋根に梯子をかけて登り、実際に使える場所かを確認。
「ここでよさそうだな」
見下ろす範囲にはこちらに面した団地の建物出入口は無論の事、その前に広がる駐車場も無理なく視界に納めることができる上に、陸屋根の端は一段高くなっており、伏せていれば身を隠すことも出来そうだ。
全ての作業が完了し次第、俺たちはここに陣取ることになる。
目の前の出入口から侵入するだろうスピットファイアを待ち伏せ、最初の一撃を加える。
だが、当然それだけで相手の勢いがどうにかなるものでもない――どうにかなれば一番いいのだが。
そうなれば連中は攻め寄せてくるだろう。
その際に活躍するのは、今しがた設置して来たIEDだ。
任意のタイミングで起爆できるように遠隔起爆装置を仕込んだそれを利用して敵の攻勢を一時でも押しとどめ、俺たちは第二次防衛線である道路まで下がり、この辺り一帯より一段高い盛り土の上にあるその道路で敵の侵攻を食い止める。
言わばここが踏ん張りどころだ。俺たちの後退判断が早すぎれば徒に敵を家に近づけることになるし、遅すぎれば包囲されて各個撃破される。
お前らがそうなる所など、見たくないからな――拷問の末殺されたゴルジアーニを見つけた時のエルマさんの台詞。
俺もエリカも、見たくないどころか体験したくないというのは言うまでもない。
「CPよりアルファ、聞こえるか?」
「こちらアルファ1」
と、噂をすれば……ではないが、そこで通信が入った。
その連絡から数秒後、俺たちは来た道を戻るべく早足で家に向かっていた。
「……それにしても」
ペースを落とさずに口を開く。
「ロックさんも大変だな。男親一人で子育てとは」
別に余裕がある訳ではない。むしろその逆。余裕を創るための雑談。
――先程の連絡は、その必要がある内容だった。
そしてその気持ちは話し相手も同じだったようだ。
「そうだね。あっ、でも」
「?」
「ロックさん、本当の父親じゃないみたいよ」
いつの間にそこまで取り入ったのか、エリカはその新情報を口にした――内緒ね、と口の前に人差し指を立てるジェスチャー付きで。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




