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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
スリーカード
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スリーカード20

 アシュファーラの警察組織は大きく分けて二つあり、一つがアシュファーラ版FBIの国家警察局。もう一つが日本で言う都道府県警に相当する地域警察だ。

 今回のような比較的大規模な武装勢力を相手にするとなると、投入されるのは国家警察局の対テロ部隊か地域警察のAIT(Armed Investigation Team=武装捜査隊)と呼ばれる特殊部隊だろうが、前者は確たる証拠もなしにおいそれと投入できる戦力ではないし、何よりこの対テロ作戦の切り札を投じるにはテロ組織や破壊活動の証拠か、或いは国家安全保障上の重大な局面であると認識されなければならない。


 ブルドン捜査官なる人物がどこまで顔が利くのかは分からないが、一介の都市モグラからの通報だけで、武装しているとはいえテロリストや過激派でもない半グレ集団を検挙するのに投入できるかと言われれば微妙なところだろう。

 となると恐らく地域警察のAITになるだろうが、こちらに関してはいつ突入命令が下るのか分からない。そもそも警察はじめ行政の手が足りないから都市モグラが成り立ち、更に言えば彼らはあまりサイストックに介入したがらない節がある。


 彼等からすれば自分たちの手を離れて半治外法権状態のサイストックなど、存在自体が面白くないものだ。ニューサイスの治安維持でやっとの人数と予算しかないのに、それをいい事に普段は勝手に武装して自警団を組織するような連中の尻など拭いたくないというのが本音だろう。


 つまり、彼等の助けが来るまで待っているより、今あるもので可能な限りの防衛戦に備える方が現実的だ。


「この区域の見取り図はありますか?」

「ちょっと待ってくれ……」

 そう言って、彼は自分のデスクの方へ足を向ける。

 随分と色々積み上げられている中をかき分け、引き出しに手をかけるとそこから幾重にも折りたたまれた紙を一枚引き出してきて、それを今まで面突き合わせていたテーブルの上に広げた。


「これが見取り図だ。この家がここだね」

 そう言いながら広げた地図の端の一か所を指で指し示す。

 発行年や発行元が『都市復興事業団』であるところから見るに、どうやらまだこの辺りが環境調整区域になった頃のものらしい。

「そしてこれが、現在のこの辺りの映像だ」

 そう言ってデスク上の無数のモニターを俺たちに示すロック。

 俺たちが接近してきた時もここで監視していたのだろう、こちらに発見されずにどうやって配置しているのかは分からないが、様々なエリアが映し出されている。

 ――余程何者かの接近を警戒していなければこうはなるまい。


「後で実際に現場に行ってみますが、もしスピットファイアが襲撃するとしたら、恐らく私たちも通って来たこの団地側からの侵入になると考えられます。他に大規模部隊が移動できる場所は無さそうですし」

 エリカが見取り図とモニターを交互に見比べながら、見取り図上の家とは反対側の端を指で指し示した。

 侵入できるはおろか、そもそも外に通じているのがそこしかない。

 見取り図に付録のように付け足された資料には他の三層やその反対側=外界とここを隔てている隔壁のスペックも記されているが、下手すれば核攻撃さえも耐えられそうな強固なコンクリートの塊だ。今からここを突破して……など、土台無理な話だろう。


 と、エリカの言葉は続く。

「敵の数は私たちが二層で遭遇した者達に加えて外部からの増援が想定されます。正確な人数は不明ですが、この場所の発見報告と、それを受けての支援要請で動かせる数を考えると一~二個小隊程度は投入されると思われます」

 流石に場所が場所だ。通常の市街地ではない上に時間も限られているとあれば当然動かせる人数に限界はある。二層で見かけた先に入っている連中=ラケルタ指揮下の連中の正確な数は不明だが、正体を明かさずに活動できる規模の部隊となればおのずとその数は限られてくるし、何より秘密裏の補給の難易度が跳ね上がる。となれば、外から呼び寄せる増援と合わせても恐らくはそのぐらいだろう。


 と言っても、全く安心できる数ではない。

 一~二個小隊とはつまり、30~60名かそれ以上の戦闘員が突っこんでくると思っていいという事だ。対するこちらは五名。うち一名は子供。

 つまり、普通に戦えば俺たちは皆死ぬということ。


「なので、籠城戦の為の陣地が必要です」

 当然、エリカもその結論に至った。数で大差をつけられている以上、出来ることはひたすら地の利を活かすことだ。


「具体的には?」

 意外にも、身を乗り出してきたのはロックだった。

 エリカの指がそれに答えるように見取り図上を走る。

「まず、あのモニターに映し出されている映像、それと先程無人機を捉えたセンサーはどこにどれだけありますか?」

「ちょっと待ってくれ」

 答えるが早いか、ロックは赤いペンを手に取ると、見取り図上に点を入れていく。

 どうやら団地の中から始まり、この家の前まで隙間なく配置されているようだ。

「これなら、この区域に侵入者がいてもすぐに分かる訳ですね」

「まあ、そうだね」

 その図を見下ろして一瞬だけ考えるように口を閉じたエリカ。

 だが沈黙と停止は、俺がそれを察した時には既に破られていた。


「ならまず――」

 再び見取り図上を指が躍る。

「私たちが持ってきた爆薬を使ってIEDを造ります。仕掛けるのはここと、ここ、それにここと――」

 突入用の爆薬や手榴弾だけでは戦うのは難しい数でも、それらを流用してトラップを設置すればその限りではない。

 トラップだけで敵の攻勢をくじくにはかなり大掛かりなものが必要になるだろうが、侵攻を遅らせ、前進を躊躇させるのには恐らく十分だ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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