スリーカード18
「ファミリーの違法カジノが摘発された時、その運営に関わっていた幹部が売り上げの半分を秘密の口座に隠したという噂をスピットファイアのリーダー格であるラケルタと呼ばれる男が嗅ぎつけ、その金を狙ってかつての上役であった構成員たちを次々に襲撃。その家族すら拉致して拷問にかけ、情報がとれなければ殺している……、そして連中が、どういう訳かサイストックに入り込んで、三層への……もっと言えばこの環境調整区域への侵入方法を探っているらしいのです」
そこで彼は一度言葉を中断した。
「そのスピットファイアに、ここが狙われる心当たりはおありですか?」
俺の質問に、彼は首を横に振って答える。
「いえ、私もスピットファイアについては、噂でそういう話を聞いているだけでして……」
つまり、隠し口座の秘密を探っているうちに奴らがここに何かがあると考えてやって来た――そういう話だと俺が理解したところで、エリカが自らの頭に手をやって、軽く掻くような仕草をして見せた。
「うーん……」
一瞬、彼女はそれだけ唸って天井を仰ぐ。
「申し訳ないですが……」
そして再び正面の相手に目を向けると、恐縮した感じでそう切り出した。
「本当のところを教えてくださらないと、私たちも対処のしようがありません」
その答えにロックの表情が強張るのが分かった。
彼の目が俺たちの後ろに向く。恐らく入口を塞いでいる相方に。
彼が首を横に振るでもしたのだろう。もう一度ロックが俺たちに視線を戻す――その目は、何かを諦めたように思えた。
「どういう意味ですか……?」
だが、言葉の上ではまだ諦めてはいない。
「言った通りですよ」
そう答えて、エリカは俺を見る。
だが、残念ながら俺には彼女が何を言いたいのかは分からない。
いや、実際には言わんとしている事は何となく分かる。多分、今の説明には何らかの嘘があると見抜いたのだろう。
しかしそれが具体的にどこをどう捉えることによってその結論に達したのか、俺にはそれを具体的に説明するだけの理解はない。ただ何となく、その話している時の雰囲気がそんな風に思えたぐらいだ。
「我が社はサイストック商店街にもお世話になっています」
エリカは更に言葉を続ける。
「彼らの情報網は決して馬鹿に出来ないことは、ご利用になられているのならお分かりかと思います」
彼女の言葉に合わせて、俺は改めて室内に視線を巡らせる。
よく見るとこの部屋、片付いているのはこのテーブルの周りだけで、周囲には何に使うのか分からない様々な機械や、それらに用いるのだろう諸々の部品やらが所狭しと並べられていて、ロックが普段使っているのだろうベッドの周りまでその状態だ。
そして、それらの中には商店街の店舗で使用している包装がそのままになっているものも複数存在する。
「その彼らが、二層に出没する不審な集団の正体については全く掴めていませんでした。ただ不審な集団の目撃例がある、というだけです。にも関わらず、あなた達は最初から私たちをスピットファイアの手の者だと疑っていました。……これは、何らかの方法でスピットファイアが近くにいることを知っているか、或いは……自分たちを訪ねてくるのはスピットファイアだと見当がついている場合の反応です。……そうではないのですか?」
エリカの口調は普段の穏やかなもので、しかしその問いはしっかりと目の前の相手を追い詰めたようだった。
「……やっぱり、僕らには隠し事は出来ないようだね。ジェフ」
俺たちの後ろに、ため息交じりにロックが告げる。
それから、彼はもう一度俺たちの方に視線を戻した――握手を交わした時のような微笑を浮かべて。
「分かりました。本当のことをお話ししましょう。……僕は過去に一度だけ、バルシン・ファミリーと関係を持ったことがある」
今度は俺たちが表情を強張らせる番だった。
そしてそれを見て、自分の立場を疑われていると察したのか、ロックは苦笑を浮かべた。
「と言っても、僕がファミリーの一員だったとか、何か彼らのビジネスに関与しているという訳じゃないんです。僕は事故で左腕を失ってから、コンピューター関連の仕事をしてきました。当時僕の家の近くにバルシン・ファミリーの一員が住んでいましてね、といっても、彼は粗暴な振る舞いもしないし、普段は一般人と変わらない様子でした。僕も引っ越してきて日が浅かったため、彼の正体を知らなかった。で、ある時僕の仕事を知った彼が、ご近所付き合いとして相談して来たんです。と言っても、仕事の話じゃない。彼の愛人が持っている古いパソコンの具合が悪いから見てやってくれないか……そんな話だった。当然、僕は疑いもせずそれを引き受け、トラブルはすぐに復旧しました。それから何度か相談に乗ることはありましたが、それもその手の機材トラブルだけで、彼等の仕事には全く関わっていませんでした」
そこで一度言葉を切って聞き手の四つの目を一瞥する。俺たちがその話を信じているのか確かめるように。
「ファミリーが壊滅した時に、僕は彼が件の違法カジノに関わっていることを報道で知りました。警察にも関係者と思われて一度事情聴取を受けましたが、すぐに疑いは晴れた。……問題は、スピットファイアはそう思ってくれなかったという事です」
まるで聞かれたら困るとでもいうように、そして聞き耳を立てる者が近くにいるというように、彼は声のトーンを落とす。
「彼やその仲間が何を言ったのかは分かりません。ただラケルタと彼の取り巻きは、僕を組織お抱えのハッカーか何かだと勘違いしている。実際脅迫も受けて、僕は彼等から逃れるためにサイストックに逃げ込んだのです」
(つづく)
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