スリーカード12
こちらには敷地の境も存在しない。いや元々はあったのだろうが、ブロック塀は倒壊して根元の部分だけが僅かに残っている。
それを越えて中へ。当然そんな状態で、扉のロックなどかかってはいない。
中に入り込んですぐ、そこが人間用の入口だったことに気づいた。
モニタリングポスト内には奥へと続く一本の廊下があり、それを挟んで向かい合う二つの部屋。
片方は恐らくモニタリングポストとしての仕事をこなす場所なのだろう。動かなくなって久しいコンソールが並び、それらの正面に数基のモニターが、これまた埃をかぶったまま動かなくなっている。
そしてそれとは反対側、もう一部屋と比べて随分狭いそこは、壁一面がモニターの代わりにガラス張りになっていて、その向こうには外の道路をそのまま引き込んだような舗装された道が伸びている。
室内にはいくつかの制御盤と、何らかの操作を行うのだろう操作盤、そして反対側の部屋に比べて随分小さな、家庭用のテレビと変わらないようなモニターが二基ほど設置されているだけの部屋だ。
「これは……」
「ここに車両を誘導していたみたいね……」
その舗装された道路の先、行き止まりになっているそこが、これまた使われなくなって久しい階層間リフトであることは、眼帯型デバイスの暗視機能が教えてくれた。
階層間リフトと言っても、現在のサイストック住民が設置・運営しているアレとはことなり、元々このモニタリングポストに設置されているものだ。
車両ごと乗り込めるようになっているそれは、恐らくこの小さな部屋でコントロールしていたのだろう。直接行き来するための扉が、入ってきたのとは反対側に設置されている。
施錠されていないその扉を開けて先へ。リフトの起動は望むべくもないが、そのすぐ横を通過するメンテナンス通路の扉は開け放たれている。
「この先は?」
見取り図に目を通すが、ここに関することは何も記されていない。
「外部の歩廊に通じているのか?」
「分からない。でも、外部歩廊は見取り図に載っているし、もしそうならここも見取り図に――」
と、そこで言葉が途切れる。
俺も催促はしない。彼女が聞いたのと同じものが聞こえている。
「……聞いたな」
「うん」
間違いない。モニタリングポストの入口辺りに人の声が近づいてきている。
「……ッ」
咄嗟に辺りを見回し、丁度いいサイズの鉄パイプが転がっているのを見つけた俺は、拾い上げたそれを、小部屋とこの階層間リフトのスペースとを繋ぐ扉の、水密扉のような回転式のハンドルに差し込んで固定した。
ガラスを叩き割られれば終わりだろうが、それでもしばらく時間は稼げる。
「急ごう」
「どこかに出られればいいけどな」
急いでメンテナンス通路へ。
開け放たれた扉をくぐると、すぐに下り階段が現れる。
壁沿いに伸びるそれを降りていき、角で曲がってまた降りていく。
二度目の角に到達したところで現れた扉を開けると、今度はより広い地下通路に続いていた。
「ここは……?」
「やっぱり見取り図にはない。それに……」
自らの無線を確認してから俺の方を顧みる。
「無線も通じないみたい」
どうやらかなり深い所に入って来たようだ。
「一応、外部歩廊はここを西に進んだところにあるみたいだけど……」
「なら、そっちに行ってみよう」
コンパスを取り出して方角を確かめる。今向いているのが西側だ。
そのまま、広々とした通路を進み続ける俺たち。一体何が目的なのか、随分長い通路が続いている。
「そろそろたどり着いてもよさそうな頃だけど……」
「随分見取り図もいい加減だな……」
無理もない。袖の下次第でいくらでも違法な増改築が許された場所だ。プラントの内部だってそれほど信用できるものでもあるまい。
だから、ようやく到着した行き止まりに扉が現れた時、俺たちは心底ほっとしていた――その扉の向こうに続くのが先程歩いてきたのと同様の下り階段だと分かるまで。
「そんな……」
「進むしかないか……」
口に出しながら、不安はかなり高まっていた。
これで行き止まりなど目も当てられない。いや、行き止まりならまだいい。見取り図があてにならない以上、最悪遭難もあり得る。
彷徨い続けた挙句に先程の連中や警備部隊とばったり――そんなケースは死んでも御免だ。
階段は先程同様壁に沿って下っており、四角い螺旋階段の形をしている。
階段を挟む形で壁と反対側の四隅には太いシャフトが走っており、恐らくここも階層間リフトの周囲を歩くメンテナンス用の階段だったのだろうというのは何となく想像できた。
四隅は踊り場になっていて、途中一か所扉があったものの、反対側から施錠されていて開けることは出来なかった。
これが外側の歩廊に通じる扉だったらいよいよ脱出不可能だ――そんな悪い方向の想像が膨らむ中で、唐突に下り階段が終わる。
どうやら推測は正しかったようだ。階段の終点と共に四本のシャフトも終点を迎え、そこには車両ごと載せられるサイズのリフトが一基、こちらも動かなくなって久しいと分かる朽ち果て具合で放置されていた。
そしてその先、こちらは先程とは異なり、車両の搬入は出来そうにないサイズの観音開きだけが待っている。
「この奥は?」
トラップ等は見当たらない。
そっと力をかけると重そうな見た目に反してほぼ抵抗なく向こう側へ開いていく観音開き。開かれた扉の向こうから差し込む、うっすらとした陽の光。
「えっ……?」
思わず声を漏らす。
扉の向こうには、それまでとは明らかに異なる形の通路が伸びている。
いや、ここは通路ではない。立ち入ってすぐに分かったが、ここは「ロ」字型の建物の中心を通り抜ける廊下だ。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




