初出勤10
「うわ!?」
すぐ後ろで要救助者の声。今の薬莢が室内に跳ねたか。
「これで全員!」
「了解!出すぞ!!」
その姿勢のまま叫びあうエリカとエルマさん。
それを合図としたようにタイヤが悲鳴を上げ、車体が俺たちを振り落とさんばかりの慣性を発揮して突進を始める。
そこで初めて俺たちは互いを放し、ハッチに手を伸ばしてそれを閉じた。
既に小さなシルエットになっていた敵は、追跡を諦めたようだった――いや、まだだ。
「クソッ!まだ来るか!」
車両の後方にクアッドコプターのドローンが二機。その腹にぶら下げている長細い物体は恐らくカメラではあるまい。
無人機故の不気味なまでに正確に統制された軌道を描きこちらを正面に捉えようとするクアッドコプター。
「弾は?」
「まだある」
対するこちらはお互いの残弾確認。その間も当然、その追跡者から目を離さない。
「私が右ね」
「了解」
意思疎通はそれだけで良かった。それから程なく、二機同時に自らの得物を正確にこちらに叩き込めるように高度を下げ、真後ろから追走する形をとって来たのだから。
「「……ッ!!」」
セミオートで交互に一発ずつ。胴体とローターをそれぞれ破壊されたドローンが、錐もみしながら地面に叩きつけられ、無数の部品をばら撒いて遥か彼方に消えた。
「「ナイスキル」」
どちらが先に言ったのかは分からない。だが、どちらにせよ今度こそ追跡はなくなった。
「作戦区域を脱出する」
エルマさんのその言葉でようやく無事を確かめると、お互いの前にあるハンドルを掴んで今度こそ安心してハッチを閉じた。
エリカがハッチ横に身を預けて一息つく。その少しほっとした表情が俺に向けられ、それから少しだけはにかんだ。
「ありがとう。パートナー」
それからそう言われた後、俺はきっと、彼女と同じような表情をしていたのだろう。
車は一層を駆け抜ける。とりあえず一安心だ。
「こちらCP、アルファチームとダイヤは全て回収、現在第4ゲートに向けて北上中」
エルマさんが車を飛ばしながら通話している相手が誰なのかは、その報告のあとすぐに本人が口にした――要救助者たちに向けて。
「弊社社長から、会社にご家族と御社の社長とがお見えだそうです」
家族、そして従業員の無事を伝えたのだろうその集団は、第4ゲートの検問を越えてモーラー・アルファに戻った俺たちの車を、わっと取り囲んで出迎えてくれた。
「皆、よく無事だった――」
社長と思われる男性が車から降りてきた従業員たちを出迎え、一番若い一人に老女が一人抱きしめる。
恐らく親子なのだろう二人と、それから他二人の家族と思われる女性や子供たちがそれに続く。
俺の初陣は終わった――その光景をぼうっと眺めている時不意に、その事を実感した。
帰って来たのだ。帰ってこられたのだ。
その現実が、撃ち合いになったという事実を思い起こさせる。
俺は生まれて初めて銃撃戦というものをやった。目を覚まして最初に脱出しようとしたあの時とは違う、お互いに銃を向け合っての銃撃戦。
その上で俺は生きている。その事実が、全身を内側から突き破りそうなエネルギーとなって湧き上がってくるような、妙な高揚感を味わう。
その時不意に、エルマさんが俺の方にやって来た。
「どう?うちでの初仕事は?」
まるで俺の内心を全て理解しているような目。
「やっていけそう?」
答えは一つしかなかった。
「……はい」
湧き上がってくる高揚感の正体のうち何割かはこれなのかもしれない。
つまり、やっていける体と技術を手に入れたという事実の実感。
俺は昔の俺とは違う。たまたま拾ったようなものかもしれないが、今の俺は銃撃戦を経験して、それを生き延びた。それが出来る体と、それに叩き込まれた戦闘技術がある。
俺は戦える。おれはここでやっていける。
「それはよかった」
そう言って表情を和らげるエルマさん。
その内心まで理解しているかどうかは、一瞬俺の後ろに目をやったその姿からは分からなかった。
「エリカも、新しいパートナーは嫌いじゃないようだしね」
その付け足しに促されるように振り返ると、不意の言葉に少しの驚きと照れが混じったようなはにかみを浮かべながら相棒が立っていた。
「まあ、そういう事なら、今後もよろしくね。パートナー」
そう言って差し出された手を握り返す。
「こちらこそ、よろしく。パートナー」
こうして、俺の第二の――予期しない形で始まった――人生は滑り出した。
都市モグラ。都市の廃墟。サイボーグ化。銃撃戦――どれ一つとってもそれまでの人生で得られなかったし、触れる事さえなかった世界。
そんな完全に新しい世界に、完全に新しい己で入り込んでいく。
初めての高揚感は、それを祝福しているようにも思えた。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




