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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
狡兎死して
182/207

狡兎死して18

「クソッ!盾だ!」

 叫ぶと同時に、そいつらが前進を開始する。

 裏口を塞ぐように現れた盾持ちが、後続のもう一人と横並びの陣形を取って、その形のまま盾の隙間からこちらに発砲する。

「ッ!」

 危うく穴を開けられるところだった頭を引っ込め、それから銃身のみだして反撃するが、当然ながら効果はない。命中していないのかもしれないが、当たったところであの盾だ。


 と、その瞬間、連中の方で何やら耳慣れない物音が聞こえて、それが何か神経を集中するよりも早く、エリカの叫び声がその正体を告げた。

「グレネード!」

 直後、空気の抜けるような音と共に、柱が爆ぜた。

「ぐっ!!」

 思わず後ろに吹き飛ばされる。

 幸いなことに敵側に面している表面を吹き飛ばしただけで、こちらにはいくつか瓦礫が飛んできただけだが、そう何度も同じ方法で耐えられるものでもない。柱の表面は40mmグレネードの爆発に何度も耐えられるようには出来ていないし、何よりあと少しでも照準がずれていれば柱の代わりに俺の体がバラバラになっている。


「ちぃっ!!」

 もう一度射撃を加え、盾持ち二人の後ろにいるライフルグレネードを放ったもう一人を狙うが、当然ながら撃たせるようなへまはしない。

「ッ!!」

 即座の反撃。今度は俺だけでなく、横から射撃を加えたエリカに対しても近い側の盾持ちが反応した。

「くっ……」

 そしてそれが、連中の反撃の合図だったのだろう。

 更に後方からやって来た増援の盾持ちを迎えて、連中が前進を開始する。

 裏口から溢れ出し、三枚の盾がそれぞれ範囲をカバーしながら、そのカバーできる範囲内に増援と合流した先程の生き残りが結集している。


 どうする――考えている時間はない。

 しかし、すぐに思いつく対処法もない。

 このまま押し切られるのを待つ以外にはないのか――その悲観論が焦りとなって、更に次の手を頭から遠ざける。

「アルファ2!」

 その混乱をかき分けて、インカムに響いた相棒の声。

 ハッとして彼女の方に目をやると、頭上を銃弾が飛び越えていく中で同じくこちらを見ていた彼女と目が合った。


「連中の注意を上に逸らす。その間にフラグを放って!」

 出来るのか――とは聞かなかった。

 確認している時間はない。そして、そのやり方も、銃撃の切れ目に一瞬覗き見た俺にはなんとなく分かった。

 グレネードポーチからフラググレネードを取り出してピンを抜く。パートナーは、エリカは軽口を叩くことはあっても、出来ないことを言ったことはない。なら、今は信じるしかない。


「よし……」

 小さく一度息を吐く。

 それと同時に複数発、セミオートの連続によって続く、サイレンサーを通した銃声。

 計ったように同じペースで続くそれをかき消すような敵の銃声。

 そしてそれらの中に混じった、ガラスの砕ける音と、金属が激しく衝突する音。

「ッ!!!」

 二種類の耳障りな音が、耳を聾するような銃声の応酬の中でさえ、しっかりと耳を塞ぎたくなる程にはっきり響き渡った。


「しっ!」

 その騒音の中、俺はグレネードを放る。

 それまでのような放物線を描く軌道ではなく、地面スレスレを這うように。

 低い山なり軌道がすぐに上昇を辞めて落下し、放った勢いのまま低いバウンドで転がっていく。

 その間、弾幕はほぼ途切れていた。

 そして――こちらは誤差ぐらいだろうが――盾持ちがその得物を僅かに、それこそ辛うじて膝が下端から上になるぐらいまでに持ち上げている。

 その膝の少し下、グレネードは飛び込んだ。天井から笠や接続用の配線その他諸共落ちてきた照明や、その周囲の錆びついて壊れかけていた何かの配管が巻き込まれる形で降って来たのに驚き、一瞬手を止めた連中の真ん中に。


「グレネ――」

 連中の一人が気付き、味方に危機を伝えようとして、そして時間切れだ。

 バンという、乾いた炸裂音が連中の真ん中で響く。

「シャッ」

 それを合図に再びM4に持ち替えて柱から顔を出すと、まさに総崩れになっていく瞬間に追い打ちのように弾丸を浴びせかけた。

 フラググレネードの炸裂によって仕留められたのは、精々その周囲にいた二、三人だろう。

 距離が近かった盾持ちは全身に纏ったボディーアーマーによってダメージこそあれど致命傷ではないだろうし、後方にいた連中は爆心地付近の者達が飛び散った破片の大半を受けているため精々軽傷程度だ。

 故に、俺とエリカの照準は、真っ先にそいつらに向いた。


「……ッ!!」

 セミオートで二発。

 命中を確認するや、即座にその右手側のもう一人に更に二発。

 その間こちらへの反撃を試みる者も視界の隅に見えてはいたが、そいつを視界の中央に収めるより前に、その片隅で横合いから頭を殴られた様に吹き飛んでいった。

「よし……ッ!」

 こちらが二人、エリカもまた二人。

 倒れながらなんとか抵抗しようと、尻をついた状態でこちらに銃口を向けようとした相手に、反対に一発撃ち込む。

「よし」

 奴の一発より、俺の二発が確実にアスファルトにピン止めする方が速かった。

 これで銃を撃てる状況の者はいない。仕上げとばかりにエリカがフラググレネードを放り込む――今度はふわりと、連中の倒れている場所に上から落ちるような軌道で。


「!」

 再度の爆発。それが治まった所で、俺たちは同時に遮蔽物から飛び出した。

「……」

 倒れている連中に銃口を向けながら、一歩ずつ確実に近づいていく――何か少しでも動きがあれば即応できるように、常に指を引き金に掛けたまま。

「ッ!」

 一番手前、既に動かなくなっている盾持ちの頭に念のため一発。

 弾はヘルメットの脳天部分を貫通したが、やはり反応はない。

 すぐにその右隣の盾持ちへ。邪魔になった盾を足で蹴り飛ばし、頸椎に向かって一発。こちらも無反応。

 横を見ると、エリカも同様に撃ち込んだ盾持ちから、次の相手に移るところだった。どうやら盾持ちは全員仕留めていたらしい。


「ッ!」

「おい!」

 次へ――そう思った矢先目に飛び込んできた、ラッコみたいな姿勢の男。

 腹の上に置いたフラググレネードのピンに手をかけたそいつを撃ったのは、俺とエリカとで同時だった。

 頭と手。俺と彼女の弾丸がそのそれぞれを撃ち抜いて、敬服すべきガッツの持ち主に引導を渡す。

 幸い、最後の抵抗を試みたのはその一人だけだったようだ。

 ――ならば、長居は無用。


「終わりました。移動します」

 数発の銃弾が撃ち込まれた形跡のある隠し扉をノックすると、すぐに向こうから開かれた。

「流石だな」

 現れた当人の目が、一瞬俺たちを越えて憎々し気に倒れ伏しているウィーゼルのオペレーターたちに向けられる。


「まあいい。急ごう」

 だが、それからすぐに踵を返して、駐車場の片隅に向かって歩き出す。

「地下道を抜けてアレイン通りの近くに出る。そこからなら、あんたらの依頼人が設定した回収ポイントにすぐ出られるはずだ」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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