二つの宇宙開発計画
新シリーズです。
こちらはまともに書かれると思います。
グリーゼ876会戦のはるか大昔の話です。
太平洋を挟んだ2国が、核という絶大な威力を持つ兵器で双方に脅しをかけていた頃。
ソヴィエト・ルーア社会主義人民共和国宇宙軍はとある計画を立てていた。
ズヴェズダ計画。
それは人を宇宙へと飛ばす計画。
しかしただ飛ばすわけではない、帰ってこなければ意味がないのだ。
ハルシュタットからゆうか…亡命してきたロケット技師は人類で初めて宇宙に物を打ち上げ、そして衛星にした。
そして、技師は言った。
人も、宇宙へと飛び出せる。と
ズヴェズダはルーア語で、星。
有人宇宙飛行計画はこうして始まった。
「ムチャクチャだ、ロケットに武器を積むなんて…」
そう喋りながら部屋を歩き回るハルシュタット人は、何か考えようとしていた。
「ただでさえ人を乗せて帰ってくるのでかつかつなのに…」
窓から光が差し込んできた。
窓の外は白く、雪が降っている。
僅かに差し込んだ光がまたすぐに雲によって消えてしまう。
冬の閉鎖都市はどこもこうだ、ここはその中でもたまに光が差す分、マシだ。
「武器を積まなくてもいいんじゃないか?」
軽いダミーか、それとも本物か。
それを有人ポッドではなくブースターユニットにつけて途中で切り離してしまえばいいじゃないか、どうせ上は気づきやしないさ。
「打ち上げ方式は以上で、武器は7.62mm機関銃を…ここにつけます。」
説明するハルシュタット人技師の指は仮設計図で本体とは切り離される、ブースターユニットを指していた。
「それでどうやって打つのかな?」
有線で繋ってるのか?それだと切り離したことにはならんだろう。
「それは…そう無線です。本船は衛星軌道に乗った時の下、つまり地球側に強力なアンテナを3枚も備えています。これで機関銃に指示を出します。」
技師は仮設計図の有人ポッド部分に折りたたまれている板のような細長いものを指さしながら言った。
なるほど、無駄にスペースを取っている板切れが3枚もあると思ったらそのためだったのか。
武器が使えるかはあまり気にしなくて良い、どうせ撃つ相手はいないのだ。
武器を積んでいる、という事実こそが重要だ。
隣国ルーアでは、有人の衛星を開発しているらしい。
そういう噂が流れ始めたのはいつからだろうか。
それが嘘じゃないと思えるほど向こうは本気だ。
無人衛星をバンバン打ち上げてる。
向こうは宇宙軍で、こっちは空間海軍。
似たような組織でも、こっちは無人衛星一つ打ち上げるのもままならない。
最近どうも変だ、上層部はこっちにもまともに予算を割り振ろうとしているらしい。
どういうことだろう。
営舎の階段をくだって、談笑室の前に差し掛かった時にテレビジョンの放送が聞こえた。
いつもはワイワイしていてあまり声は聞こえないのだが、今日は聞こえた。
『我々宇宙軍は、"有人宇宙船"の開発を開始している。』
確かにそう言っていた。
『プロイェークト・ズヴェズダ』と言うらしいその計画は、明らかに軍事転用可能な計画だった。
いや、最初から軍事計画だった。
「いいぞいいぞ、イリージアの連中。たかが機関銃に怯えてやがる。」
ルーア情報部所属の若い将校が楽しそうに言う。
そこへ同僚たちの視線がゆく。
少し恥ずかしくなったのか下をうつむいているが、その顔はまだ嬉しそうだった。
しかし同時にまた、注意すべき情報も有った。
『ステル・プリン(イリージア語で星計画、つまりズヴェズダ計画と意味は同じ)』と少々かわいい名前で呼ばれるそれは名前に反してかわいいものではなかった。
ロケット弾を搭載する無人衛星の開発計画。
もし本当にこいつが衛生軌道に居座れば、ズヴェズダなど一瞬でバラバラにされてしまう。
この情報は即座に上層部へと伝えられた。
少し見るところをずらすと、
「え?武装衛星?そんなのより太平洋の向こう側の弾道ミサイルの方が怖いよ。」
と、太平洋に面する二つの国は言った。
「衛星なんて人乗せたら重くて飛ばないじゃん。それに、わざわざそんな金のかかることやらなくて良くない?」
と、ヨーロッパの西に位置する島国は言った。
「衛星よりも核開発しなきゃならないんだよ。」
と、先ほどの島国と一つ海峡を挟んだ先に位置する大国は言った。
つまるところ、本気で宇宙開発をしているのはたったの二国しかいなかった。
後に宇宙冷戦とも宇宙開発競争ともよばれる時代を書いた本の、まだ最初の1ページ分でしかない。
どんなコメント大歓迎です。