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 鈴原ちゃんが、何でこんな所に・・・?


 ここは3年の教室。用もない1年が歩いてるのはちょっとおかしな事だ。


 そこまで考えて俺は『ああそっか』と思う。


 鈴原ちゃんが投げた上履きは『間違って』俺の頭に当たった。つまり、俺以外の誰かに向かって投げたという事だ。そして、その俺以外の誰かをコッソリ覗きに来た、と。そういう事だろう。


 そこまで考えて、俺は固まった。


 いや待て。あの時俺の周りにいたのは、ナオと翔とコジだ。翔の話によると、ナオはこの戦法の使用を禁止されているらしいし、翔は事務所の圧力で暗黙のNGだ。


 って事は、鈴原ちゃんが好きなのって・・・。


 俺はコジを見る。


 お調子者で、非常に面倒臭がりのいい加減な奴だ。


 今日は合ってるがよく左右違う靴下を履いている。


 よく見ると、ワイシャツのボタンが一つ違いでズレているのに気付いた。


 常にだらしないし、空気読めない単なる馬鹿なのに・・・。


 俺、コイツに負けてるのか?ショックだ。


 俺は、泣きたい気分になりながらコジのワイシャツのボタンを直した。


「えっ!友也ナニ?俺脱がすの?」


「ボタンが一つずつズレてんだよ。直すから動くなって」


「きゃーエッチ!」


「アホ」


 頭を叩いて手早く直した。




「友也ー、暇なら入れよ」


 昼休みにクラスの奴に呼ばれた。サッカーするのに1人足りないらしい。


 俺は「おお」と答えて校庭に向かった。


「負けた方が勝った方にブリックパック1コな」


 そう言われてちょっとやる気になったものの、相手チームのメンツを見て俺はげんなりとした。


「何だよ、向こうサッカー部いんじゃん。勝てねーよこんなん」


「サッカー部はキーパーやるんだよ。じゃなきゃ勝負にならんし」


 成る程。それなら何とか互角だろうか。と頷く俺。


 荒山がいるのなら、リンちゃんもギャラリーしてるかな?とコート脇を見ると、木陰で観ているリンちゃんを発見した。


 朝は荒山の影に隠れてあんまり見えなかったが、スカートが少し短くなってる。足も綺麗だ。顔も可愛いし、無敵だな。


 そんな事を考えながら、何気なく並んでいるギャラリーを見て行くと・・・。


 鈴原ちゃんがいた。


 あれ?コジいないのに、何で観てるんだろ。


「おい友也、品定めしてないで始めるぞー」


「お、おう」


 そんなつもりで見てる訳では無かったのだが、いちいち説明するのも面倒なので、俺はそのまま走ってコートの中に向かった。




 勝負は俺等の勝ちだった。勝利品のブリックパックは、好きな物を選べるのかと思いきや、コーヒーといちごミルクの2択で、皆ブーブー言ってて笑った。


 俺はどっちでも良かったので人気の無い方のイチゴを貰った。そしてそのまま飲まずに机の上に置いといたら、いつの間にかコジに取られていた。


「うまー」


 人の物なのに勝手に美味そうに目を細めて飲んでいる。


 こんなしょうもない奴に劣るんだな、俺は。


「イチゴ好きなんだよ俺」


 コジがそう言いながら、俺の前で俺のイチゴミルクをズズッと音を立てて飲み干した。


「・・・」


「あれ?怒った?」


「怒って無いけど、納得行かないなと思ってさ」


「納得?」


「まあいいよ。とりあえず、くれって言ってから飲め」


「おう」


 そんな下らない話をしていると、また俺は視線を感じた。振り返ると、またまた鈴原ちゃんらしき影が見える。


 追い掛けようと俺は立ち上がった。


「友也どこ行くの?」


「ちょっとそこまで」




 教室を出て角を一つ曲がった所で鈴原ちゃんを捕まえた。


「待って鈴原ちゃん、逃げないで」


 俺は鈴原ちゃんの左手を捕まえた。


「神野先輩・・・」


 振り返った顔は赤くなってた。耳迄赤い。覗き見してたのがそんなに恥ずかしかったのか。


「あのさ、コジの事見てるんでしょ?俺連れて来てあげようか?」


「!」


 1年なのに、3年の教室に来るのは勇気のいる事だろう。


 お節介なのかも知れないが、相手がコジでは、遠くから眺めているだけではいつまで経っても伝わる事は無いだろう。


 『上履きを投げ付ける』なんてとんでもない行為が、既にかなりの羞恥心を伴っているはずだし、しかもそれを失敗してしまっている。間違えられた縁もあってか、俺は手伝ってあげたい気分だった。


「ち、違うんです。私、その・・・」


「違う?」


 俺が聞くと、ますます赤くなって俺の手を振り払う。


「あっ、ゴメンなさい。私、行きます。失礼しました」


 そう言って走って行ってしまった。


 彼女が去った後に何か落ちているのが見えた。拾ってみると、小さな白い貝殻のイヤリングだった。


 ・・・何だコレ。




「よう、元気か?土産だ」


 いつもの溜り場で座っていると、休んでいたはずの翔が突如現れて奇妙なサブレを配り出した。


「授業終わってからの登校とは、重役っぷりを上げたな」


 ナオが言いながらサブレを齧る。


 翔はモデルをやっていて、時々学校を休んでは仕事に出ている。行く度に何かしら土産をくれるが、今回は千葉だったのか、ピーナッツの形サブレだ。


「留守の間何かあったか?」


「別にー」


 いつもの様にくだらない話をしていると、2階の窓から数学の先生が顔を出してこっちを見た。翔を見つけて「あっ」という顔をしてすぐに引っ込んだ。


「んじゃ、逃げるわ」


 翔が校庭の方に歩き出す。


「ういー」


「ほいよ」


 残った俺等は手を振って見送る。


「相変わらず面倒臭い奴だな」


 ナオが言った。


 翔は歳上好きだ。今は先生らしい。妙な性癖?があり、今もそれをしている。


「好きな女に追い掛けられたい、ね」


「物理的に、ね」


 わざと提出物を出さずに、取りに来る様にでも仕向けているんだろう。


「翔君は?」


 息を切らせながらここまで急いで来たのであろう先生が聞いた。


「どっか行ったよ」


 キーっとなりながら辺りを探しに走る先生。頑張って下さい。


 先生を見送ると、ナオが俺に呼びかけた。


「友也、あのさ」


 ナオの視線の先には、下校する生徒達の群れの中、こっちを見ている鈴原ちゃんの姿があった。


 今も、コジは居なかった。

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