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Fox Tail 狐のいる喫茶店   作者: 雪本 風香


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崩れ牡丹


「牡丹が崩れた……か」

1週間ぶりに庭を見た千草は、少し寂しそうに呟いた。

庭に出ていた浅葱は汗を拭いつつ答えた。

「ええ。今年も押し花にしていますから」

「ふぅん」

気のなさそうな返事をした千草だが、浅葱にだけわかるくらいの微かな変化で彼女が喜んでいるのが伝わった。

面と向かって聞いたことはないが、お狐様はどうやら花が好きなようだ。

彼女を喜ばせようと、広くない庭には色々な花を植えている。

甲斐甲斐しく世話をする浅葱に答えるように、ここ何十年かは美しく花が咲く自慢の庭になった。

その庭を見下ろす位置に千草の部屋があるのは、きっと偶然ではないだろう。


「珍しいですね、千草さんが縁側に来るのは。どうされましたか?」

そうじゃ、と千草は思い出したように浅葱に言う。

「……どうも嫌な予感がする。体調を整えておけ」

それだけに言うと、千草はクルリと踵を返して2階へ戻っていった。

「今度の仕事は負の依頼なんだろうなぁ」

浅葱が止めるように言ったところで聞く気がない千草だ。

せめて彼女の心が少しでも癒やされるように、浅葱は庭いじりを再開した。



その日は土砂降りの雨だった。

「人払いせんでも誰も来んだろう。いらん力を使わんで良いから幸いじゃ」

朝から店に出ている千草はつまらなそうに自らの髪の毛をもてあそぶ。

今日は店のことは何もするつもりはないのだろう。

黒のブラウスに黒のパンツというラフな格好でカウンターにもたれ掛かりる千草は客席側に座っていた。

カウンター越しに彼女を見つめながら浅葱はサイフォンで珈琲を入れる。

まだお狐様の味には遠いが、昔よりも遥かに上達した珈琲をそっと千草の前に出す。

黙ってカップを取り上げると、ふん、と鼻を鳴らす。

(好きなブレンド具合だった……のかな?)

一口飲むと目を細めた千草の反応に、勝手な解釈をつける。

何も言わず飲んでいる千草を見ると、あながち間違ってはいないのだろう。

微笑むと、浅葱も珈琲を口に含んだ。



「やれやれ、来たようだ」

まだ半分以上残っていた珈琲を一気に飲み干すと、千草はパチンと指を鳴らす。

フワッと浅葱の周りを包む空気が変わった。

(音は立てるなよ。お前のことを知られる必要はないからの)

頭に千草の声が流れてくる。千草が浅葱の周りに目隠しの結界を張ったのだ。

無言で頷いた浅葱はそっとカウンター内にある椅子に腰をかけた。


その時、扉が開いた。



「ここが、お金を払えば何でも叶えてくれるお店でしょうか?」

「内容による」

短く答えた千草に、訪れた女性客は不遜な笑みを浮かべる。

不快な顔で鼻をひくつかせた千草は追い払うように手を振った。

「依頼するなら本人が来い」

「先生は動けませんので」

艶やかに微笑むと、女は持っていたアタッシュケースをカウンターに置いた。

「1億あります。これである人にかけられた呪詛を解いていただけませんか?」

ふん、と鼻息を吐いた千草はけんもほろろに断る。

「断る」

「仕方ありませんね」


そう言うと、女は一通の手紙を差し出した。

「こちらが依頼書です。断れないはずです」

しぶしぶ受け取った千草は、サッと目を通した。

次の瞬間、周りの空気が変わった。

「ひっ」

「どこで書いてもろうた?返事次第ではただではおかぬ」

女の喉を右手で押さえつけた千草の目は、金色に変わっていた。

氷のような冷ややかな空気。

怒りが凝縮されているような濃密な息苦しい気配。


「い、稲荷神社です。京都の!」

女はある有名な神社の名前を告げる。

「この手紙の差出人に……八紘(やひろ)に会ったのか?」

鋭い視線を向ける千草に女は必死に首を振る。

「い、いえっ!代理の者が届けてっ……っいったぁ」

千草は八紘と会ったわけではないとわかると興味を失ったように手を離した。

突然支えが無くなり床に体をぶつけた女が声を上げる。

「千草さん!」

咎めるような浅葱の声が響く。

千草との約束は頭の中から抜け落ちていた。慌てて女のもとに駆け寄ると、痛めたところがないか確認する。

幸いにも怪我はなかったようだ。


ホッと息をついた浅葱は再度千草に呼びかける。

だが、千草は彼の声が聞こえていないかのようだ。

何かをさぐるようにじっと依頼書を見ている。

「……姑息な真似を」

聞いたことのないくらい低い声だった。

「千草さん?」

ギリッと歯を食いしばり、手紙を手で握りつぶす。

怒りで身を震わしている千草を見るのは初めてだった。

「千草……さん?」

チラリと浅葱の方を見る目は獣のようだった。

浅葱の純粋に心配している視線から逃れるように千草は目線を外すと女に向かって話しかけた。

「女、さっさと案内しろ。厄介なことは先に片付ける」

その声は、何人も寄せ付けない氷のような響きだった。




タクシーが向かった先は日本で有数のがん治療の専門病院だった。

女に案内されて二人はエレベーターに乗り込む。

「……気持ち悪い」

依頼主がいるという特別室のフロアに降りた瞬間、浅葱は口を抑えてその場に座り込んだ。

千草も不快そうに眉間にシワを寄せ、鼻を鳴らす。

平気なのは女だけだ。キョトンした表情をしている。

浅葱の様子に気づき、駆け寄ってきた看護師に支えられ近くのソファーに座り込んだ浅葱は、耐えきれないように胃液を吐き出した。

「大丈夫?……では無さそうね。あなた達も郷田(ごうだ)さんのお見舞い?」

「ええ」

女が答える。看護師はやっぱりという表情を浮かべる。


「郷田に会おうとする者だけか?体調を崩すのは」

千草の問いに親切そうな表情で看護師は答える。

「ええ。もう3ヶ月程入院しているのですけどね。全員ではないですけど、決まって体調を崩すのは郷田さんの関係者だけ。

と、言っても今は郷田さんしかこのフロアには入院していませんけどね。

医師(せんせい)も看護師も体調を崩すので郷田さんの担当だけ何度も変わっているんです」

「そうだろうな」

フロア中に広がっている強い怨念。

近くにいる者まで影響を及ぼす程の強い呪詛。

普通なら一日二日で死んでもおかしくない程の強い恨み。その中で3ヶ月も生きている郷田はある意味称賛に値する。

だが……。

「人間としては浅葱と正反対だな」

自分よりも人のことを考える浅葱とは正反対に、郷田は人を踏み台にし、蹴落とし生きてきた人間だ。

依頼を受けた時に女が持ってきた金。千草にはその金に血の臭いがベットリ染み付いていたのを感じ取っていた。

あの依頼書がなければ、この仕事は受けるつもりはなかった。


狐にも色々あるが、狐は狐を裏切らない。

千草が気が進まない今回の依頼を受けたのも、それが狐からの依頼だったからだ。

ご丁寧に妖狐の頂点である八紘の名と拇印まで押されていたことが唯一癪に障ったが。

ある一定の人間は、同族である人間をいとも簡単に裏切り利用する。

千草はそんな人間は好きになれなかった。



青い顔をしている浅葱の額に手を当てて、千草は自分の妖力を注ぐ。

あまり強い妖力は浅葱に負担をかける。微量な量を調整しながら、全身に行き渡せる。

血の流れと共に千草の優しい()が入ってくる。

少しずつ顔色が良くなってきた浅葱に千草も安堵の息をついた。

「いけるか?」

「ええ。ありがとうございます。……顔を洗ってきます」

目の前のやり取りに呆気にとられている看護師をよそに、戻ってきた浅葱を確認すると千草はスタスタと郷田の病室に向かった。



「相当恨まれとるな、お主」

病室のドアを開けるだけで恐怖で逃げ出したくなるような濃い負の空気。

そんな中、千草は臆せず奥へと進む。

「……心当たりが多すぎてな」

体中に管をつけた老人が横たわっていた。

「安倍に蘆屋に賀茂に土御門の陰陽師たちの呪。それに……丑の刻参りの呪は1度ではないな。呪のオンパレードじゃ。お主の体で蠱毒が行われているようだの」

嗄れた声で郷田は笑う。

「蠱毒か、それは良い。生き残るのはワシだがの」

千草は眉を顰める。何か窘めるように口を開き、言葉にならず飲み込んだ。

郷田に何を言っても無駄だと悟ったのだろう。

代わりに千草は問いかける。


「どのようにして妖狐に接触した?」

「簡単だったぞ。……お前の子孫の呪いにかけられ、死にかけておる。どう責任とるのだ、と言っただけだ」

「っ……下衆が」

人間におもねることがない妖狐の唯一の弱点。それは陰陽師である安倍の一族との関係性だ。



かつて人間と妖狐は今よりも近かった。そのため、人間と恋仲になる妖狐も多く、まれにだが子を成すものもいた。

人との間に子を成すためには、同程度の力に合わせる必要がある。

基本的には力がある妖狐が妖力を抑えるため、間の子は多少長生きと感じる程度で普通の人間として生を終える。


唯一の例外が安倍の一族だ。

妖狐の中でも強大な力を持っている葛の葉(くずのは)と対抗できるほどの力を持っていた陰陽師であった安倍保名(あべのやすな)

その子、安倍晴明を始めとして安倍の一族は生まれつき強い力を手に入れることになった。

強大な力を持った安倍家は、その力を利用した。

式神を使役し、呪をかける。狐達も人間の才能を認め教えを請い、安倍も妖狐達を慕う。


妖狐たちは気づかなかった。

それは力を維持するため、狐を利用しているだけだということを。

気付いたときには、遅かった。

世は戦国と呼ばれる波乱の時代になっていた。安倍の子孫たちは、妖狐の力を戦乱に持ち込んだ。

その力は、時に勝者を変えるほどの力だった。

それは、妖狐の掟を破るものだった。


それきり妖狐は人間と交わることはなくなった。



『安倍の名を出されると動かざるを得ない。勤めを果たせ、たまき』

八紘からの手紙にはそう記されていた。

――たまき。

それは千草がかつて呼ばれていた名だ。そして妖狐の世界から追放のような形で人間の生活圏に降りてきている千草に、たった一つ課せられている任務。


――安倍家が妖狐の力を悪用するなら止めること――


ため息をつき、千草は言い放つ。

「呪詛を解いたところでお前の体に巣食っている病は取り除けん」

郷田はガンに冒されていた。きっかけは呪詛だった。だが、全身に行き渡ったガン細胞は呪詛を取り除いたとしても、もう取り除けない。

多少死期を遅らせることだけだ。

「なぁに、動けさえすれば何とかなるさ」

ヒュッヒュッと息を上手く吐き出せないようにしながらも笑う郷田に、千草は嫌悪しか感じなかった。


「金はいらぬ。あのような血で汚れた金など」

「これは幸いじゃ。1億は安くはないからの」

ニタリと笑う郷田にますます不快感が増す。

だがこれ以上、妖狐の名を穢すわけにはいかない。

任務を果たすべく、重い足取りで郷田に近づくと左手を伸ばした。

「千草さん」

郷田に触れる瞬間、浅葱の手が千草を止める。

「僕に呪詛を移してください」

「なっ……。どういうことかわかっているだろう?」

浅葱には千草がどうやって呪詛を祓うのか嫌になるくらい知っていた。

千草は呪詛返しをしない。その身に呪詛を取り込み、自らの妖力で少しずつ呪詛を浄化させる。

「ええ。だからこそです。それに前に約束しました」

「そうだが……。だが、この呪詛は思ったより複雑だ。死ぬより辛い痛みが全身を襲うだろう。」

「それなら尚更千草さんに取り込ませる訳にはいきません。それに……約束を違えるのですか?」

狐は約束を違えない。そのことを逆手にとった浅葱の言葉。苦しそうに眉間にシワを寄せながらも千草はすぐに判断することができなかった。




「なぜ、呪詛返しをしないのですか?千草さんの力なら出来ますよね?」

以前、仕事で受けた呪詛は少々厄介だった。一ヶ月浄化にかかった千草は珍しくやつれていた。

そんな表情を見ると、浅葱はつい強い口調で聞いてしまう。

浅葱の珍しく強い口調に千草は驚く。と、同時に言うべきか悩んだ。

千草にとってもまだ折り合いがつけられていないことだったからだ。

沈黙は否定と感じ取ったのだろう。

悲しそうに眉を寄せた浅葱は、千草のおでこに自らのおでこを合わせる。

「千草さん、僕はあなたが……傷つくのを見たくない」

第三の目があると言われる眉間を合わせていることで、浅葱の気持ちがダイレクトに伝わってくる。

心から心配している浅葱の気。

誰にも言うつもりはなかった本音がこぼれたのは、心が弱っていたからだろう。

「……もう吾の手で、むやみに誰かを殺めたりするのは嫌なのだ」

千草の目から一筋だけ流れる涙をそっと指で拭った浅葱は優しく微笑む。

「僕も千草さんが傷つくのはみたくない。だから、これから呪詛を受ける場合は僕の体に移してください」

「……だが」

「僕は千草さんが生きている限り死にません。僕にとって自分が傷つくよりも、千草さんが一人で背負っていることの方が辛い。……あなたの痛みを、苦しみを分けてください」

浅葱の言葉に嘘はない。触れ合っているところから感じ取れる浅葱の優しさ。

「承知した」

そう答えたのは気まぐれだった。だが、浅葱はホッとした表情を見せると、千草を一度だけ強く抱き締める。

「約束です」


浅葱の気持ちが伝わってくる。だが、人間と交わるのは既に禁忌だ。それに千草には浅葱に特別な感情は持っていない。他の人間より少し特別な力があり、便利だから手元に置いているだけだ。

そのことも浅葱は触れているところから感じ取ったのだろう。そっと体を離した浅葱はすべて悟っているような笑みを浮かべている。


なぜか、その笑顔に――腹が立った。



「千草さん、僕は大丈夫です。それに千草さんに移したら、呪詛があなたの妖力に反応して浄化に時間がかかるでしょ?」

浅葱の言う通りだ。呪詛を払うのは、自分以外の別の器に入っている時の方が力を発揮できる。それでも自らに呪詛を移していたのは、呪をかけられた器が弱っており千草の力を注ぐと耐えきれないからだ。

その点、浅葱にはその心配はない。


「なるべく早く浄化する」

ため息をついた後に千草から吐き出された言葉に、もう迷いはなかった。

浅葱は頷くと、自らの意識を沈め体をからっぽの状態にする。

千草の目が榛色から金色に変わる。そして、唄い出す。

聞いたことのないような唄。だが、どこ懐かしさを感じる曲調。その声に引っ張られるように郷田の体からどす黒いものが浮かび上がる。

その黒いものの先端を誘導するように左手で浅葱の体を指し示す。

からっぽの器は呪詛にとって好都合だ。浅葱を発見したと思うと瞬く間に彼の体に入り、侵食する。

「うぅっ……」

生きながら、生気を食われている感覚。本能的な恐怖と襲ってくる痛み。浅葱の体はその場に崩れ落ちる。

だが、覚悟を決めた千草の顔は変わらない。大量の呪詛を浅葱に移し終えた次の瞬間、二人の姿はその場から消えていた。


「あ、明るい?」

「ふっ。ふぁふぁふぁ!!体が軽いぞ!!」

呪詛がなくなったことで霧が晴れたように一気に明るくなった部屋に驚く女の声と、怨念がなくなったことにより身軽になった郷田の歓喜の笑い声が病室に響き渡った。



二人は異空間にいた。狐耳と尻尾を顕にしている千草の口からは一瞬足りとも途切れることがなく、唄が流れている。

「うっ……。かはっ」

怪我をしないようにか柱に縛られている浅葱は、脂汗を浮かべながら苦痛の声を漏らす。身動きができないのにも関わらず、身を捩る。

いつもは心地よい千草の唄が、呪詛に取り込まれている今の浅葱にとっては痛みしか感じない。

千草も額に汗を浮かべながら妖力を使う。

早く浅葱を楽にしてあげたいという焦る気持ちを抑えながら、複雑に絡み合っている呪詛を一つ一つ紐解く。

妖力が少なければやみくもに浅葱を苦しませるだけだ。かといって妖力を注ぎすぎると、相反する二つの力が浅葱の体をまっぷたつにするだろう。

繊細な力加減を求められる呪詛払い。それができる妖狐は限られている。その限られた妖狐である千草ですら苦戦をするほどの呪い。

(どれだけ郷田は恨まれていたんだ)

思わず苦笑が漏れてしまうほどの強い業。我が身にこの呪詛を取り込んでいたら浄化するのにどれほどの時間がかかったのだろうか。


千草は身震いをした。この呪詛を受けてまで生き延びていた郷田。周りにも影響を及ぼしながらも、本人は生きていた。

人間は恐ろしい。だが、浅葱のようにすべてを投げうってまで他人を守ろうとするのもやはり人間だ。

生まれながら器が決まっている狐とは逆に、人間の能力は未知数だ。良い意味でも悪い意味でもどんどん変化する。

千草はそんな人間が恐ろしい一方で、進化し続けることを止めない人間たちを愛しくも感じるのだった。




気づいたら、浅葱は自分の部屋のベッドに横たわっていた。

「なん……にち?」

声を出すだけでも息が切れるほどのひどい倦怠感。首を横に向けると、携帯が目に入った。

日にちを確認すると、郷田の入院先に行ってから2週間が経っていた。無理矢理体を起こすと、床に倒れるように身を丸めて眠っている黒い狐が目に入った。

狐の姿を見るのは初めてだったが、一目見てわかった。

「ちぐさ……さん」

悲鳴を上げる体を無理矢理むち打ち、千草のもとに歩み寄る。

普通の狐とサイズは変わらない。違っているのは、色と尻尾の数だ。一見狼に見間違えるほどの漆黒の美しい毛並み。その尾は今は7本だ。以前、千草から聞いたのは5本だったはずだ。

「力が……強まっている?」

妖狐の尾は力の強さだ。その尾が増えているということは……。


浅葱は自らの考えに思いを巡らせながら、人型を取れないほど疲労困憊をしている千草をそっと抱き上げると、先程まで寝ていたベッドに横たえる。

その横に自らの身を滑り込ませた浅葱は、小さな千草の体を抱き寄せる。

「いつまであなたはこちらに……僕の側にいてくれるのですか?」

呪詛祓いをしている時に妖力に混じって流れ込んできた千草の過去の記憶。

罪を背負い、人間界で償いをしている千草は、いずれ妖狐の世界に帰っていく。

その時に、浅葱は共に行くことはできない。禁忌だからだ。


「千草さん。……好きです」

浅葱の言葉は千草に届かないまま虚しく空に消えた。



――Fox Tail――


そこは罪を背負ったお狐様が償いをするために作った場所。


人間を恐れ、それでも人間を愛する。


それは、禁忌だ。

かつての妖狐の過ちを繰り返そうとする、愚かな行為。


分かっていながらも、1000年に1度に誕生する黒狐は人間と共存する場所を探す。


それが、更に罪を背負うことになったとしても。



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