第14話 嬉しいも落ちてる
「なんなんでしょうねこれ?」
私は辛いをつまみながらリゼにそう聞いた。
「わ、わからないわ」
リゼは心底わからないという顔で答える。
そっかぁ、わかんないかぁ。
私は辛いをそのままごみ箱に捨てるべく家に帰ろうとした。
「では、|我が宿命の任務に戻りますね。《これ捨ててきます》リゼ、また会いましょう」
そう伝えて私は踵を返すと後ろからぽろぽろと物が落ちる音がするじゃないか。
「○×●□▲★※△☆♯♭」
嫌な予感がして振り返ると辛いの文字が体からたくさん落ちているリゼが声にならない悲鳴を上げていた。
「わぁ……」
どうやらリゼは[奇病:符号放出症候群]に罹ってしまったらしい。この奇病、空気感染しなければいいのだけど。
「大丈夫ですか?何なら私の家で休んでいきますか?」
この状況でさすがに見捨てるのはあれかと思いリゼに『うち寄ってく?』と軽い気持ちで言ったらリゼの体から辛いが落ちるのが治まった。
ちょっとばかりの沈黙の後『じゃあやっぱりまた今度』と言うとまたリゼから辛いが落ち始めた。
……。
「「もしかしたら」」
私とリゼはパチクリして目を合わせて二人同時に言った。
「「『家に寄ってけないのが辛い』とか考えちゃってるの……」とか考えてます?」
どうやらリゼはうちに寄ってけないのが辛いらしい。
「あのね、ちょうどあなたのお家に3人組が入っていくのが見えたの、あいつら東地区じゃ悪いほうで有名でね、私気が気じゃなくて……」
どうやら家に魔王ご一行が入った瞬間を見られたらしい、一生の不覚。これが不動産業界にばれたら地価が大暴落してしまう。
私が先導して家の門を開けてリゼに中に入るように促す。
きょろきょろあたりを見渡しながら挙動不審になったリゼがうちの門をくぐる。
何を探しているんだろう?
「別に大丈夫ですよ、ところで何か探しているんですか?」
リゼは何か困った顔で言おうか言うまいか迷っているので『気が向いたら教えてください』と言っておいた。
リゼの考えてることなんてすぐわかりました。
どうせ私の飼ってる超キュートでチャーミングなわたあめのことを探しているに違いない。
庭を通りドアを開けて家に帰還するとそこはもう立派な宴会会場と化していた。
「うーい、ティアーあなたどこ行ってたのよ!ほら早く座って座って!」
机をバンバン叩きながら私をこっちに呼ぶ円香はすっかり出来上がってるように見える、この紅茶アルコールでも入ってるのだろうか?
仕方がないのでそちらに向かい、ずずっと音を鳴らして紅茶をすすってみるとアルコールも塩も入ってないただの紅茶だった。雰囲気に酔っただけか。
「おいおいおい!かわいーねーちゃん連れてきてんじゃねーか!やるじゃねーかちびっこ!」
紫の魔王は私が少し円香にかまっているすきにリゼに絡んでいった、するとなんということでしょう。
見る見るうちに紫から青の魔王にジョブチェンジしたではないか!
「ちなみにティアに何かひどいことしたらあなた消すから」
リゼが小声で何か魔王に囁いた、リゼが声も出せないくらいに怖がっちゃってる、魔王めゆるさん。
「ひいい!なんでお前がこんなところに!」
「次その名前で呼んだら殺す」
しかも囁かれた魔王はガタガタ震えながらさらにリゼにひどいことをいう、すっかりおびえたリゼは俯いて何かつぶやいた。
髪がふわっと耳を撫でる。室内で風?妙だな。そして魔王は急に腹を押さえてうずくまった。
衝撃波が出るほどの腹パンでも食らったのかな?まさかね、どうせ食べ物が腐ってでもしてあたっただけだろう。
「こら!リゼにひどいこと言わない!」
私は強制的に割り込みリゼを救出する。
そうしてリゼの手を引っ張って円香のいる机へと案内する。
「おい!ちびやめろ!そいつはそんなたまじゃ…!おい、てめえ!舌出してんじゃねえ!ちびっこ後ろ向け!こいつ舌出して煽ってきてやがるぞ!」
なんか後ろがうっさいけど無視無視、テーブルに戻ると円香が胡散臭そうにリゼを見ながら出迎えてくれた。
「ティーアー、誰この人?」
もっともなご意見なので前に名前を付けてくれた親切な人だと説明してあげた。
「ふーん?あなたがティアの名前つけてくれたの?大変だったでしょ?」
円香は机に手をつきながら行儀悪くリゼに対応する。
「いいえ?私がこっちに来てから一番いい仕事ができたと思ってるわ」
どや顔でリゼは答える。
「なんて言ったって名前を付けて?ってティアに頼られたのだから」
なぜか執事服のヒロさんがリゼに紅茶を入れてあげる、まさか円香に負けたのだろうか?そんな疑問はリゼの洗練された紅茶を飲む仕草によって吹っ飛んだ。いいなあ美人さんは何でも様になる。
それに比べて円香はどんどん行儀が悪くなりとうとう椅子の前足を浮かせてぎーこぎこと椅子漕ぎを始めた。
「こら、円香行儀悪いよ」
私がたしなめると円香はふてくされながらもやめた。
リゼがそれを見ながら少し笑う、ヤダ恥ずかしいじゃないか円香め~。
まったくさっきまで上機嫌だったのになんでこんなに不機嫌になっちゃったんだろうか?本当に女心って良くわかないね。
「ところでティアはここにいる人たちとどんな関係なの?」
リゼがとうとう触れてはいけない所を聞いてきてしまった。
「あの3人は無視してください、円香の客なので」
それを聞いて明らかにほっとした表情を浮かべたリゼだが少しして『3人?』と聞き返してきた。
そういわれてあたりを見渡すとさっきまでうめき声をあげていたカズがいなくなってるじゃないか。
「カズなら草を食べたことで腹痛になってしまったので、死に戻りさせました。20分ほどで戻ってきていただけるものと存じます」
部屋の隅に丸まってる魔王を慰めているノリノリの執事のヒロさんが答えてくれた。魔王も腹を押さえているわけだし死に戻らせたほうがいいのでは……。
『あの3人とはあんまりかかわらないほうがいいわ』とリゼが身を乗り出してこそこそとこちらに注意してきた後『じゃあ私が初めてのティアのお客さんってこと?!』とリゼが嬉しそうに聞いてくる。
うーん、確かに別に誰かを招待したことはないか?
「いや、円香が初めてのお客さんですかね?」
特に招待した覚えはないが円香が私の家の1番目のお客さんだ。
視界の端に少しニヤリとした円香が映った気がするけど気のせいかな?
「ティアはそこの子とどんな関係なの!」
リゼが少し焦りながら私に質問する。んー、なんていえばいいんだろう。
友達……とはちょっと違う気がする、私が友達だと思っても相手はそう思ってないんじゃないかって思って友達だと自信を持って言える相手は前世ではいなかった。
けど、自惚れじゃなければ円香とは友達以上……親友?ではないか家族?とかもっと親密な関係なきがする、というか私がそうであってほしいと思っているんだ。
円香の顔をじっと見る、さっきよりは機嫌がよさそうだけど相も変わらず何を考えてるんだか、私がこんなに考えているんだから考えていることくらい顔にでも書いてくれてばいいのに。
リゼの質問からしばらくしてとりあえずはぐらかして答えることにした。
「円香は私の大切な人です」
ぽろろん
なんてことだろうリゼから辛いの文字がまた出てきただけに飽き足らず円香から今度は嬉しいの文字が落ちてきてしまった。
どうやらこの奇病空気感染が濃厚だね。




