第10話 正直者
しばらくして私は震える声で女神さまにこう答えました。
「いいえ、違います。落としたのは、無くしたのは普通のひつじです……」
すると女神さまはゆっくりと目を閉じてこう告げます。
「あなたは正直者ですね、だからひつじをあげましょう、ふふ、金と銀の子はいらないわよね?」
私は女神さまからひつじを受け取るとやさしく抱きしめました。
「ありがとうございます……」
「もう1つだけ、あなたがなくしたと思うものはあなたが思うよりずっとすぐそばにあるわ、もっと周りを信じてあげて」
そう意味深な言葉を残し泉へと去っていきました。
「なんだってひつじ?」「もったいねえ!俺が銀と金ももらったのに!」「慈悲深いところも素敵な女性だ……」「なんでバタフライで水の中潜れるの?」
うるさい3トリオ+円香が周りでぎゃあぎゃあ聞いてきますがほんの二日ほど抱けなかっただけのわたあめを抱きしめることができて私は相手をする余裕がありませんでした。
少しは素敵な女神様から受け取った余韻に浸らせてほしいものなんだけど……。
「ねえ?ティア、なんだか一緒に貰ってるようだけど?」
「本当ですね、なんだろうこれ……」
手に取ったそれには『必読!エターナルダンジョン名所!ここに行かなきゃ人生9割大損!』と表紙にかかれたパンフレットで『3階 衝撃!森の中の泉 神様が指定する世界3大美女ローレライの住む泉!間違えて物を落としてもやさしい彼女がきっと泉から取り出してくれる!水も滴るいい女ぷっりに思わずあなたも息をのむ!』ぺらぺらとめくると変なことばかり書いてある……。
それと森の泉のところにお茶目な斧のスタンプが押されたスタンプラリーの台紙が一緒に手渡されていました。
やっぱり変な人だったかも……。
その後森の奥に向かう魔王たちと2階へ降りる私たちで進む道が違うためようやく別れて2階に降りることができました。
しかし、その足取りはさっきまでより確実に軽くなっていたのでした。
「でも何で女神様はわたあめなんて渡して来たのかしら?ティア間違って落としちゃったの?」
円香は二階でエレメントを狩るついでに私に訪ねてきました。
こっちの世界でもわたあめがいたのかと思いながら円香に『森でオオカミに食べられてしまった』と伝えました。
「もー、だから様子もおかしいし3層になんか来ちゃったのね?言ってくれればいくらでも手伝ったしわたあめの為ならカヌスさん達も手伝ってくれたかもしれないのに」
呆れた声で円香は文句を言ってる間にエレメントを瞬く間に倒していきます。
それはこの一か月の間何度も何度も繰り返した、見慣れた光景でした。
私は昨日神殿で目を覚ましてからずっとこの世界か変わってしまったことによる違和感とそれによって取り残されたような孤独感を感じていました。
だけどわたあめがいて円香もいて、そしてカヌスさんや仲良くなった人達もこの世界に変わらず存在していることに気づきました。
さっきの女神さまの発言を思い出して私は顔をぱしんと叩くとポイントを稼ぐべくエレメントに向かって水をかけるのでした。




