第9話 ケルベロス
「まったく、連れがフリーダムだと苦労すんな?」
なんか魔王がこちらにすり寄ってきたので無視して奥のヒロとか言った男に話しかける。
「結局この泉はまた使えるようになるんですかね?」
フリーダムだとわかっているなら連れから目を離すな、この一瞬でヒロは死んだ女神をつついて反応を確かめていた。
「わからないね……なんてったってローリーが死んでしまったからね」
なんでこいつは女神を愛称で呼んでるんだ……?
ジト目でヒロをじっと見つめると『ローリーは僕の彼女だったのさ……』とニヒルに笑った。うん意味わかんないね。
「おい、馬鹿!不用意に泉に近づくな!すっころんで間違って入っちまったらどうすんだ!」
すると無視されたことにショックを受けてフリーズしてた魔王が後ろからプリプリ怒りながらこちらに近づいてきた。
「こんな風に?」
すると円香を肩車したカズが後ろから魔王を突き飛ばし魔王が顔面だけ泉にぶち込まれてしまった。
一瞬の静寂ののち血まみれの女神がおもむろに立ち上がり、真ん中の魔王の頭をアイアンクローしながらこう聞いてきた。
「あなたが落としたのはこの金の魔王の頭ですか?それとも銀の魔王の頭ですか?」
「「「帰るか」」」
ちょっとだけフリーズしてみんなで帰ることにした。ケルベロスになった魔王?知らない子ですね?
「おいまてえええええええええ!」
すると泥まみれの魔王が叫びだした。
「おま!この状態で置いてくとかお前らまじか!?いいから早く助けてくれ!」
しかしながらこの状況何をしても詰みだった。
「だがねぇ、これどう答えてもリオに恨まれるから正直見なかったことにして帰りたいんだけど……」
ヒロさんが私たちの全てを代弁してくれた。どう答えても魔王はもうケルベロス決定なのだ……。
「おいおい女神さんよぉ!さっきは金銀だけだったのに今回は紫まであるじゃねーか!どういうことだ!」
するとカズさんがいらない因縁を付け出し、女神は少し考えたのちアイアンクローの力を強めた。
「少し待ってください、今真ん中をつぶします」
「やめてくれええええええ」
「よくやったカズ!1つ潰せたからこれであと2つだ!」
「もう2つも潰したら頭なくなるじゃねーか!ていうか止めろ!」
信じられないことに頭をつぶされながら突っ込みを続ける魔王はどこまでも滑稽だった。
ちなみに恋人だったらしいヒロさんの説得によってマオべロスは何とか無事に返してもらえることになった。
「今回だけ……特別よ、ヒロ♡」
「ありがとう、また来るよ、ローリー♡」
目の前で熱々な抱擁を交わしている2人を尻目に見た目が3倍にうるさい魔王をどうするか私たちは緊急会議を行うことにした。
永遠に踊り続けるしかなかったはずの会議は、目の前でカズさんが急に斧を振り回し顔を2つ切り落として閉幕した。
「もう、いいのか?」(低音イケメンボイス)
金ぴかの魔王がヒロさんに問いかける。さっきより威厳たっぷりだ。
「ああ、もう十分さ」(必死に上ずらないように抑える震え声)
その後に何かいろいろ言っていたけれど正直頭に何も入ってこなかった。
「そこの女の子……ちょっといい?」
なぜなら女神が急に私に話かけてきたからだった。あんまりかかわりたくないんだけど……。
「ほんとはいけないんだけど……あなたが落としたのはこの金のひつじ?それとも銀のひつじ?」
手のひらに見慣れたようなひつじをやさしく取り出して女神さまはにっこりと微笑んできた。
私はわかりきっている答えを告げることはできずただ間抜けな顔を女神さまに見ることになった。




