閑話4 リゼの場合
この話は第27話のリゼ視点です。
海辺を一人さみしく歩きながら私は大きなため息をつく。
アンニュイな気分になってしまったときは前世でも必ず海に来た。
気づけば私のホームである東の街から南の街のほうまで歩き通すくらいまでには、このまま私のことを知らない人しかいない世界に行ければいいのに。
そう考えて私はもう一度ため息をつく、つい10日ほど前に日本からエターナルという世界に転生させられた私はもう一度そんな奇跡が起こりようがないことを知っているからだ。
いや、1年耐えれば神が言っていた世界に飛ばされてそこではきっと私の忌み名を知るものもいないだろう、それまでの我慢だ。
黄昏に染まった世界は明暗をはっきりと切り分けていて私のいる場所は暗く苦しい救いようのない場所だけど歩き続けるしかない。
何度目かわからない目に浮かぶ涙を拭い、私はただひたすらに歩きづつける。するとこのくらい世界でひときわ明るい所を見つけてしまった。
そこにいたのは……天使。髪にワカメのチャームポイントを引っさげ、お人形の羊を抱えた浮世絵離れした天使が黄昏の世界でただ一心に太陽の光を浴びて輝きを放っていた。
彼女の周りだけは世界に色が付き、輝いているように見える。私はその光に引き寄せられるようにふらふらとそこに向かった。
しかし近づくと彼女が天使ではないことが分かった、いや人並みに悩みを持ち、生きている人間だったという意味だ。
先ほどまで勝手に神聖視していた偶像は実はただ私と同じように何かに悩み、そして海を見て気を紛らわせているだけのただの人間だった。
その様子を見てしまい、そしてまさか海に身投げをしてしまったかのような姿に同情を感じ私は彼女に声をかける。
「ねえ、あなた大丈夫?」
少女はこちらを振り返りもせずぶっきらぼうに返事をする。私はお節介かもしれないが彼女の小さな背中を慰めてあげたくて後ろから抱きしめ、そして頭をなでる。
途端に泣き出す少女を必死にあやしながら彼女が私と同じ悩みを持つ同士なのだと知った。
「名前がそんなひどいのになっちゃったのね……」
私の言葉に少女は泣きじゃくりながら首を何度も縦に振る。
「でも大丈夫よ!だってメニューはほかの人に見えないし、あなたが黙ってほかの名前を使っていればほかの人にはわからないわ。」
私は私には解決策になりえない、何度も何度も他に解決する方法はないのかと考えた解決策のうちの一つを提示する。
多くの人にメニューの名前を知られる前ならこれで大丈夫なのだ。
けれど自分自身はメニューを操作するたびに名前を見てしまうことになるのだがまあそこは仕方ない。
そんな子供だましのような解決策でも少女は目を輝かせて聞いてくれる。こんなに嬉しがられてしまったら、嬉しいより気恥ずかしいが勝ってしまう。
少女はすっかり私に気を許してくれたようで名前を一緒に考えてほしいと、そう頼んできた。
天使のような少女の名前を決めていいなんて!私は内心の興奮を抑え必死に彼女に見合うような素敵な名前を考える。
名前は母音が多くて柔らかく何度も呼びたくなるようなものを考えたつもりだが、天使は恥ずかしがって提示した名前のすべてを却下してしまった。
どうやら洋風はいやらしい、天使といえどやはり慣れ親しんだ日本人の名前のほうがいいのかと思い今度は和風な名前を出すもまた却下されてしまう。
ゆき、そう言った時天使はびくっと体を震わせ私は一つの仮説を立てる。もしそうなら……。
「じゃああなたの名前はアガスティア……でどう?」
少し考えてこれでどうだろうと思う名前を出してみた。
すると今度は気に入ったらしく天使、もといアガスティアはあっさりと名前を決めてしまった。
どうやら目の前の天使は前世は男の子……だったのだろう。確かに急に異性の名前を名乗れと言われても気恥ずかしくていやかもしれない。
けど、私は名前に仕掛けたトラップに気づかれなかったことにほくそ笑んで大声で愛称を読んであげた。
「ちょっとだましましたね!?」
女の子然としたかわいらしい愛称で呼ばれぷりぷりと怒るティアに私はニヤつきが抑えられない。
このままだと変な女だと思われてしまう。慌てて立ち上がり、私は偽の名前をティアに告げて立ち去ろうとした。
ティアも立ち上がり私にぺこりと頭を下げてくる、とっても可愛いらしい姿に見惚れていたらなんと彼女が抱えているひつじがめぇと鳴いたではないか。
あんなクッションみたいな羊初めて見たが笑顔で手を振る。
するとティアが『あ!』と大きな声を上げて口をパクパクと金魚のように何度も何度も開ける。驚きのあまり何をしゃべればいいのかわからないようだ。
しばらく待ってあげると突然泣き出してしまい私は慌ててティアにかけよる。するとティアは私に勢いよく抱き着いてきたじゃないか!
「りぜ!私アガスティアになってる!」
天使に馬乗りにされて若干興奮するもティアの発言に私は冷静さを失う。もしも名前を変える方法があるなら私も知りたい……。
ティアのつたなく途切れ途切れの説明を受けてそれが勘違いではなく本当のことだと知るとまずは私はティアを祝福した。
「ありがとうリゼ、大好き!」
だが私の頭に会った考えなど吹っ飛んでしまった。この瞬間私は恋に落ちてしまったのだと思う。夕闇の中押し倒され、愛の告白をされた。もう我慢ができない。この感情を抑えることなど……。
ティアの見た目は木の下で幻覚で見てしまうほど私のタイプだった。なぜだか知らないけどその金髪の少女を誰もPTメンバーが見れなかったせいでロリコン呼ばわりされ、名前がロリコンになった私は目の前に顕現したあの日の幻覚通りのティアにもう感情を抑えることができなくなってしまった。
何度も何度もお礼を言われたが私は目の前の輝く少女をどう手に入れるかしか考えることができなかった。
そういえば、この娘、中身は男の子なんだよね……、だったら……。
そう思って去り際にティアに聞いてみたが慌てて走り去ってしまった。ふーん、逃げられると思ったんだ?私は忌々しいメニューを開きスキルを発動する。
名前:ロリコン
スキル:火魔法1
隠しスキル:直感5、監視6、看破3
ユニークスキル:執念の力…このスキルは執着すればするほど全てのスキルのレベル、ステータスを跳ね上げる。
スキル発動……走り去ったティアの足跡を看破しその後を追う、このまま彼女の家を特定し、後日何食わぬ顔で接触して……えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ。
「ティア、前世が男なら私と恋愛だってできるよね……」
私は暗闇の中無防備に歩くティアに追いつくと、暴漢に襲われないように家まで警護してあげることにした。
コノセカイハサクジョサレマシタ




